ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 終焉の歌姫が謡う時 ( No.42 )
- 日時: 2011/05/24 21:56
- 名前: 玖織 ◆Kqe55SnH8A (ID: hYVgID.t)
「———…上手くいったようね」
「あぁ、お疲れさん、ルルー。さっきの凄かったな。まだ目が可笑しいぜ」
ルルーに笑いかけたシエンの片手にはダガー、もう片方には、
「…ッ! 離せっ…くそったれ!」
「ふん、随分腐った言葉を使うんだな。お前の所為で俺の純粋な心が、…いてっ! やめろよ、アレン!」
「兄さん…」
アレンの手にも、影のうちの1つがあった。しかしナイフは握られていない。
「マリアも無事ね、よかった」
ルルーが安心したように笑った。
シエンの手には先刻の影の集団の中の捕虜。アレンの手にはその中に捕まっていた少女、マリア。彼女の顔は涙と泥で汚れている。彼女をアレンがマントで包んでいた。
あの集団を蹴散らすだけならルルーの魔術で事足りた。影の集団を見つけたときに、アレンがマリアを見つけた。マリアの気を失わせてから俺とアレンが突入してマリアを救い出す。それがシエンが言った作戦だった。そしてルルーは火龍を呼び出し、マリアへの注意をそれに向けた。突入したシエンとアレンはマントのフードをかぶり大声をあげて影を撹乱させた。シエンは捕虜を、アレンはマリアを捕まえた。
「…んぅ……あれん?」
「マリア!! 気付いた!?」
白い目、それを意味するのは盲目だと言う事。しかしマリアはさも見えているかのように生きている。
アレンは目にかかった銀髪を払ってやった。
「お、よかった。……地下室、は。ここか?」
シエンはギルドの残骸に踏入り、隠し部屋への入り口を探した。木材とガラスの欠片がある場所で彼は止まる。そして腰に差していたロングソードを鞘ごと抜き、地面を突いた。
「ここだ、ここ」
嬉しそうにシエンは笑った。正方形の地下への入り口が現れた。階段の先は闇に飲まれている。
「…ライトニング。 コマンド、ミニマム!」
振り上げたルルーの手に落ちた雷は瞬間に縮小され、光の球になった。ルルーはそれを階段へと投げる。球が通った所から感電してパチパチと電流が爆ぜ、明るくなった。
「マリア、保護出来る?」
「うん!」
胸の前で祈るような仕種をしてマリアは跪いた。彼女の手に白い光が灯り、それに伴って4人の周りに可視の防護壁が現れた。
「ありがと、マリア。…行きましょう」
「何でマリアに防護壁を? お前の軽いバリアで事足りたんじゃないのか?」
シエンの声を無視して彼女はアレンに言った。
「アレン、シエンにハンスさんの渡して」
「? うん」
背中に背負っていた黄色い絨毯をシエンに渡した。シエンはそれを受け取り解いた。中身は、
「ふふん。いいじゃねぇか、これ。親父もいい仕事すんなあ」
シエンが手にしているのは淡く青い光を放つ両刃のロングソード。スラリとしたその刀身に纏った光りは炎のように揺らめいている。
「魔剣…ねー…。俺にあってると思わないか?」
不敵に笑い、魔剣を中段に構えるシエンの姿は漆黒の闇に浮かんだ英雄の様に見えた。ビリビリと感じる覇気のような物は明らかにシエンから放たれている。
「う…わ、すご…」
思わず漏れたアレンの声は自身でも気付かないうちに震えていた。シエンはそんな反応が帰って来るとは思わなかったのか照れくさそうに笑った。
「冗談だよ、冗談! 俺にこんな大層なもん似合わないし、居心地悪ぃよ」
そう言って彼は腰のベルトに魔剣を挿した。腰には2本の剣がぶら下がり、それっぽい雰囲気を出している。
「————…」
「どした、ルルー?」
「別に、何にも。行きましょ」
肩をすくめて軽く笑ったルルーは指先に光を灯したまま階段を降り始めた。
シエンはその後を剣の柄に手をかけ後を追う。
アレンはマリアを守りながら、そして幼馴染を不思議そうな目で見ながら付いて行った。