ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 終焉の歌姫が謡う時 オリキャラ募集中! ( No.54 )
- 日時: 2011/06/09 22:31
- 名前: 玖織 ◆Kqe55SnH8A (ID: Uo8bNy4h)
空はもう赤みを帯びていて、夜が終わりを告げようとしていた。
「ハッ…ハッ…、ルルーッ!!」
疾風のように走るシエンは、さすがに息を乱しながらルルーの名を叫ぶ。アレンはそれについて行くのが精一杯で、ルルーの事は目で探す事しかできない。マリアの事はキールが背負っている。キールはシエンの前を走り、マリアを背負っているにも関わらず息は微塵も乱れていない。
「ッ! 兄さ…っ、あれッ!!」
アレンが指し示した先には。
「…ッ!!! ルルー、か!?」
天を貫かんとする紫の光…いや、柱が。
「さっき僕がいたとこの向こうの湖だよ!」
丘の向こう、精霊が住むと言われている読んで字のごとく『精霊の湖』からその光は放出されている。
「ダメッ…」
「…マリア?」
アジトを出てからずっと黙っていたマリアが突然叫んだ。キールの肩を掴む手に力を込め、吐き出すように叫び続けた。
「ダメッ…ダメだよう…ルルーおねーちゃん…ダメだよう…」
駄目…駄目と繰り返すマリア。その白い瞳からは涙が流れている。
舌打ちをしてからキールが忌々しそうに言った。
「…いやな予感がするな…」
再び彼らは疾走する。
丘の向こうへ、精霊の湖へ。
天を貫かんとする紫の光は段々と輝きを増している。
「っ…!」
思わずシエンはロングソードの柄を握り、抜き放った。月光と陽光が刃に反射し、刀身から放たれる青い光と入り混じる。理性を辛うじて保っていたシエンを切れさせたその光景とは、
白いローブを纏い、皆一様にロッドを持つ集団と、それと対峙する紫色の光を放っていたモノ…ルルー。そして、飛び交う魔法。ルルーが劣勢なのは一目瞭然だ。シエンは鞘を投げ捨てた。
「てめえらコラまじふざけんな!」
「…」
無言、そして一瞥。これには流石のアレンもかなり頭にキた。シエンの方は言うまでもなく、キールからでさえ、凄まじい殺気が放たれている。
「…! みんな…」
微かに声を搾り出したルルーの目は虚(うつ)ろで、とても苦しそうだった。
「なんで…!! これかッ!!!」
叱声を放ったキールの視線を追い、アレンも“それ”を見た。そして息を呑む。
キールまでとはいかなくても、如何(いか)なる時も冷静沈着の態度を保ってきたルルーが、こんなに——命の危険があるくらい——魔力を放出するはずがない。白いローブを着た人間の1人が何かを天に翳(かざ)していた。血の滴るそれは、
「ちッ…! マナ・ストーンか…!!」
「マナ・ストーン!? でも世界にいくつもないって…!」
魔力の吸収・放出を使用者の血を提供するだけで自由自在に行える奇跡の石、マナ・ストーン。とても希少価値の高いその石は、歴史の中でも度々争いの種となった。
「ああ、まともに扱えるのは帝国にある筈だから…。人工、だな」
アレンは無意識の内に生唾を飲み込む。極度の緊張に心臓が押しつぶされそうだ。シエンの荒い息がすぐ傍で聞こえる。
「今はんなもんどうでもいい。ルルーが危険だ、突っ込むぞ!」
キールの瞬時な判断。状況整理よりも問題即行解決が彼のモットーだ。
「俺はあの石の奴、シエンは俺の援護。アレンは雑魚頼んだ! マリアはルルーの救出してくれ」
「ああっ!」
キールが太刀を一瞬の内に抜き放ち横薙ぎに払い、シエンが叱声を放つ。それが始まりだった。
アレンは短剣を構え、小柄を生かしてキールとシエンの前を姿勢を低くして走り抜ける。マリアはルルーの傍に駆け寄り祈祷を始めた。白いローブの集団は、石をもつ人間、そしてルルーを囲むように散った。
「マリアッ!! 少し耐えて!!」
白いローブを片っ端から切り裂き、敵の膝を折るアレンは叫んだ。マリアが視界の端で頷いた気がする。
「キールさん、シエン兄さんッ!! 行って!」
アレンの叱声が飛び、3人は白の集団に突っ込んだ。