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Re: 終焉の歌姫が謡う時 オリキャラ募集中! ( No.58 )
日時: 2011/06/15 22:19
名前: 玖織 ◆Kqe55SnH8A (ID: Uo8bNy4h)


「くっ…!」
 鮮血が飛ぶ。白い布に真紅のそれが飛散し、纏(まと)う者は次々と倒れていく。
 アレンが体勢を低く保ち、速攻で足を中心に切る。頬に微かに傷が増えていくが勢いを殺したら腕力の差で負ける。シエンは魔剣をアレン同様下段に構え疾走する。目指すは血滴るマナ・ストーンを翳(かざ)す男。キールが魔力を解放する気配を感じる。
「先手必勝だ、シエン! 突っ込め!!」
 シエンが頷く。双眸が鋭く輝いた。
「天空の槍雨(ホーリーランス)!!」
 キールの叱声が飛ぶ。言下に天を切り裂き幾筋もの光が石を持つ者に振り注いだ。眩しそうに敵はローブのフードを深く被り直した。それが、アレン達の好機だった。
 降り注ぐ光は次第に勢いを増し、大地を抉(えぐ)る。幾千もの光の斬撃の後、天に穴が開いた。
「シエン、これに続け!」
「アレン! 手ェ貸してくれ!!」
 天空から落ちる一際強大なその光は男を貫いた。
「っ!!」
 腰を落とし組んだ腕をシエンが踏んだ瞬間にアレンは腕を振り上げた。青い閃光が煌めく。ローブは切り裂かれ、身体に一筋の深い傷が走る。土煙、そしてシエンの着地と共に男は倒れる。
 …筈だった。
 キイィィインッ——…
「なッ…防護壁(シールド)!?」
 降下とキールの魔法——それも聖系最高位魔法——のパワーを最大限に生かした攻撃だったのに。
 マナ・ストーンを中心として展開された防護壁はいとも簡単にそれを防いだ。
 風圧で男のフードが脱げた。不敵に笑うその顔は、狂気に満ちている。
「お前らには俺の名を教えてやる。…冥土の土産になあっ!!!」
「ふっ…ざけやがって!!」
 嬉々とした男の顔面を斬り切り裂かんとする勢いで、シエンが再び斬撃を繰り出す。しかしそれは男のシールドにあっさり食い止められてしまう。あからさまにうろたえるシエンを鼻で笑い、男は更に挑発する。
「俺の名はベリアス・トルーマン! お前達を地獄へ落とし、神となる男だ!!」
 声高々に叫んだベリアスは息も吐かずにルーンを詠唱する。マナ・ストーンは紅く光る。
「それは…ルルーの、魔力だろ?」
 額に血管を浮かび上がらせ微かに震えるシエンの魔剣が輝きを増す。
「…くッ…」
 ルルーの苦しげな声がアレンたちの肌を粟立たせる。
「マリアッ…ルルーを!」
 アレンが叫ぶ。敵の手刀を避けながら振りかえったアレンの目に映ったマリアの周りには、薄い膜のような防護壁が張ってあった。彼女も敵の攻撃から自身とルルーを守る事が精一杯のようだ。
「シエンッ!! 馬鹿てめぇ!」
 叱声を放ったキールはシエンに体当たりをする。苦痛の声をあげたのはキール、飛び散る鮮血は彼のモノだった。返り血を浴び呆然と佇(たたず)むシエンの脇腹に食い込む足。闇の中から現れた黒いローブの男の手に光るそれはダガー。その身のこなしは常人の域を遥かに超えている。
 無事に地に立ち、この場面を切り抜けられる人間はアレンとマリア、そして魔力を吸い取られつつあるルルーのみ。アレンが扱える武器は短剣だけ。その場に残っている他の武器はキールのロングソード、シエンの魔剣。両方ともアレンの体格には合わない。
「我に示せ、汝の力!」
 男がルーンの詠唱を終えた。沸き立つ地面から昇るのは硫黄の匂いと共に黒い影。
 男は叫ぶ。
「裏切り者に制裁をっ!!」
 黒いローブの男が紅く発光する。

 その時、閃光が弾けた。