ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 終焉の歌姫が謡う時 オリキャラ募集中! ( No.65 )
日時: 2011/06/19 22:30
名前: 玖織 ◆Kqe55SnH8A (ID: Uo8bNy4h)


 その時、閃光が弾けた。

 瞬間に放たれる眩い光は咄嗟に目を閉じたキールを含め、その場にいた『人間』の目を焼いた。
 しばらくの沈黙の後、キールは息を飲んだ。
 ぼんやりとする視界の中にはマナ・ストーンを掲げるベリアス・トルーマン、紅く発光した黒いローブの男、硫黄の匂いのする何か。

 そして。

 男と同じく紅く発光する少年。

「悪魔召喚成功か! ルジェ、クソ悪魔! やっちまえッ!!」
 ベリアスは嬉々として叫ぶ。
 ——硫黄の匂いのする何かはクソ悪魔、ルジェとは先刻の黒ローブだろう。キールは瞬時に判断する。…それならば、一体誰があの少年は誰なのか。
 キールの脳が警告する。何も見るな、この場から立ち去れ。
 目が開くようになった。彼は涙を荒っぽく拭いゆっくりと目を開けた。目の前にいるのはやはり紅く発光する少年。
「アレン…」
 声に出してはみるが、とても信じる事が出来ない。
 それならば、此処に『いままでの』アレンがいない事と、目の前にいる少年がアレンと瓜二つな理由はどこにあるんだ、キール。現実を見ろ! 彼は自分に言い聞かせる。
「——っ!! 神を裏切りし堕天使に制裁をッ!!!」
 どこかのアブナイ宗教か? 思わずキールはそんな事を考える。
「殺ス」
 突然発せられた背筋を伸ばさせる言葉。
 下段に構えた剣の切っ先を少し上げる。滴る紅い血は、誰のモノなのか。
 声を発したのはクソ悪魔、相手は、ベリアス。
「ひぐっ!?」
 あまりにも突然の出来事にベリアスは哀れにも悲鳴をあげる。悪魔のすぐ横でルジェは愉快そうに笑った。
「知らないのか? 悪魔召喚には膨大な魔力が必要な禁忌の魔術だって事。召喚した相手は大量の魔力の消費で、それか悪魔に精神を喰い殺されて廃人になるって事」
「…! そんな事…知ら…ッ!! っ…魔力! 魔力はこの女のモノだ!!」
 卑怯にもベリアスは気絶しているマリアと部下達を押しのけルルーを悪魔に捧げようとする。
「てめ…っ!!」
 キールは前に出ようとするがルジェに切られた身体が悲鳴をあげる。膝が折れたようにキールは地面に転がった。
 キールを見もせずにルジェはまた笑った。
「君って本当に馬鹿だよね、ハハハ。少し頼みを聞いてやったら勝手に自分の地位をあげた気になってさあ。…ねえ、知ってる?」
 彼は先刻とは違い冷徹に笑った。
「この悪魔を召喚したのは俺だって事。君みたいな成金に魔術なんて使えるわけ無いじゃないか。あぁ、魔力はこの女のモノだけどね。ルーン詠唱は俺。…でもこの悪魔は下位ランクだからあんまり頭は良くないかもね。こいつは君が自分の事を召喚したんだと思ってるみたいだけど? さあ、どうする?」
 嬉しそうにルジェは笑った。
 そして、『アレン』を見据える。
「さて…アルテミス・ヴァリアラ・ディーデア、もといアレン君。君はやっと覚醒したみたいだけど…盗賊ってやつはあまり頂けない、な!」
 鈍い音と共に傍に転がっていたシエンを突然蹴り上げた。そのままシエンはキールの上に落ちる。巨体を片足で易々と宙に蹴り上げられる様子を見るだけでリジュが相当な腕前だと言う事が分かる。
 その時、『アレン』が口を開いた。
「ルジェ・ジュリヴェール…今すぐ絞め落とす! …ッ!!!」
 胸元で揺れていた月のペンダントが紅く発光する。
 光に飲まれていくアレンの横顔は…10代の少年のそれではなかった。