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Re: 終焉の歌姫が謡う時 オリキャラ募集中! ( No.68 )
日時: 2011/06/20 23:54
名前: 玖織 ◆Kqe55SnH8A (ID: Uo8bNy4h)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode


 ルジェが消えた。

「!」
 突然アルテミスの眼前に出現したルジェは構えたダガーを下から上に振りぬく。
 頭より先に身体が動く。
 弾き返すように繰り出したアルテミスの短剣はあっさりと跳ね返される。しかしその反動でルジェの斬撃の軌道はずらされ、彼が再びダガーを振る時にはアルテミスは既に彼と間合いを取っている。先刻よりも遠くに、何があっても滞りなく反応出来る距離にアルテミスは跳躍する。

 再び訪れる沈黙。ルジェはダガーを投げ捨て何処からか出した長剣を上段に構える。
 アルテミスはアレンが使っていた短剣を、どうしようか一瞬迷ってから腰のベルトに挿した。そしてシエンのベルトにささっていた剣を抜いた。魔剣は何故か取るのを躊躇(ためら)った。
「君は剣を使うのを好んでいたもんね。これで全力で殺(や)りあえるよ」
「…黙れ」
「はいはい」
 小柄な身体に不似合いな剣をアルテミスは弄(もてあそぶ)ぶように振り回した。少し違和感を感じるが問題ない。

 行くよ? そんな声がアルテミスの耳に届いた刹那、再びルジェが消えた。今度はアルテミスも不意打ちをされるような事は無かった。ルジェが消えた瞬間、アルテミスは右に跳び、そのまま転がった。彼がいた場所に石柱が幾千も降り注ぐ。
「ふうん…無詠唱魔法も難なく察知。流石だ」
「…」
 反応することは無くアルテミスは右手を翳(かざ)す。
「踊れ、傀儡のように。光さえも飲み込む凍てつく波動に、汝の姿を投じよ」
「今更詠唱魔法なんて効かない事は分かってるだろ?」
 無視、そして放たれる白き波動。発言の通りそれを避け、一瞬でアルテミスに接近したルジェに走る、戦慄。
 背後からの殺気、振り返れば白龍が吼える。
「無詠唱召喚か、少しアブナイなぁ」
 また笑う。何がそんなに可笑しいのか聞きたい程にルジェは良く笑う。
「煉獄の淵より這い出(い)でる暗黒の魔龍よ。汝のその姿を月光に投じ、舞え。不死なる身体を主の下へ捧げよ」

 わざと詠唱召喚をするルジェは挑発するような瞳でアルテミスを見る。
「召喚、暗黒大魔龍(ブラックドラゴン)・不死皇帝!」
 言下にルジェの振り上げた左手から放たれた黒い光が天を貫いた。周囲に現れる魔方陣から光が溢れる。
 数分前とは違う別の殺気が現れた時、白龍が動いた。巨大な身体が俊敏に動く。大地が揺れ、そして黒龍も動いた。
「さて、アルテミス君。召喚獣達は勝手に殺りあってくれるから…」
 ニコリと音がするようにルジェは微笑む。

「俺たちも本気で殺ろうか♪」

 刹那、今度はアルテミスが消えた。疾風の様に懐に潜り込み横薙ぎに剣を払う。ルジェはそれを簡単に弾き返すがアルテミスは強引に剣筋の流れを変えた。縦振りの斬撃、避けようと後ろに跳躍したルジェの動きに合わせてアルテミスも跳んだ。
「筋肉の微かな動きも感知出来るまでに覚醒したか。…ふふん。なかなか見物のしがいがある…っな!」
 空中でムーンサルト、そして回しげりを放つルジェ。人間を遥かに凌駕した動きをいとも簡単にアルテミスは防ぎ、左手をルジェの左胸に当てた。
「朽ちろ」
「時間差魔ほ、」
 全てを言い終わる前にアルテミスを包む紅光が輝きを増す。そしてルジェに伝わる衝撃。
 全ての時が止まった気がした。