ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 時のマリオネット ( No.3 )
- 日時: 2011/05/01 20:07
- 名前: 玖龍 ◆7iyjK8Ih4Y (ID: ZTrajYO1)
◆#1 「A serious curime」◆
「な、そんな夢、見たろ?」
目の前にいる、高校生くらいだろうか。青年が私に笑いかける。
誰だかも、私になんのようだかも分からないような青年に、こんな声をかけられるのはちゃんとした理由がついているからだ。
それは、今から約五分前にさかのぼる。
*
「見つけた……」
後方から聞こえた大きな呟きに、思わず後ろを振り返ると、そこには金髪の青年が立っていた。
黒いパーカに、黒いジーンズ。なんとも地味な服装が、美形の顔を汚している。
私が思わず顔をゆがませると、青年が笑った。
「うっわ、懐かしいなあ。やっぱり知春はその顔が似合う!」
見ず知らずの男に「懐かしい」などといわれたせいか、私の口をさらに引きつらせる。
何だこいつは。私に何か用なのか。デリカシーの無い奴だ。
一気にイメージが悪くなった美青年は、さらに笑い声を大きくさせた。
こらえられなくなった私の口が勝手に開いた。
「あのぉ、何か用でも?怖いですよ」
嫌味を込めた一言。
すると青年は、いきなり真顔になったので、私が吹き出してしまった。
「笑うなよ、笑い事じゃねぇんだ」
さっきまで一人で大笑いしていたくせに。
私の口が、また引きつり始めたころだ。
青年の口から、衝撃の言葉が漏れた。
「俺、未来から来た。お前の弟の晴だ」
口の引きつりも、はきかけの落ち葉も、秋の夜の涼しげな風も、無視の合唱も、凍った気がした。
「マジだって。疑うなよ」
晴と名乗る青年の真顔が、非現実名言葉が、急に嘘に思えて、笑いがこみ上げてきた。
私がまた大笑いしている間に、青年はいくつ溜息をついたことか。
私の笑い声が一段落したとき、もう一度青年が言った。
「マジだって。俺、晴だぜ。十八になった晴。信じろよ馬鹿アネキ」
私がこの言葉をもって、晴だと確信したことは言うまでも無いだろう。
小三からの口癖、「この馬鹿アネキ」。
「マジ?」
「マジ」
「嘘じゃない?」
「嘘じゃない」
「誓う?」
「神の名にかけて」
私が、晴の言葉に沈黙していると、晴が顔に怒りマークを浮かばせて言った。
「おい。笑ってる暇ねぇんだよ。思い出せ」
「何を?」
「今から十二年前……いや、アネキからだと九年前か。映画行ったときだ。映画!!初映画で俺が怖くてないたやつ!!」
*
で、現在に至る。
「その……母さんと父さんと晴と私が交通事故にあったって話?」
「そう」
晴は、「よくきけ」と、念を押して言った。
14歳の自分、最後の驚き。
「あれ、本当は現実のはずだったんだ」
「——え?」
「それを、アネキが曲げた。時間を戻して」
「何よそれ!!冗談もほどほどにしなさいよ!!だいいち、時間を戻すなんて……」
私が手に持ったほうきを手放して、両手を広げて言った言葉を、晴がさえぎった。
私が凍りつく。
「できるんだ。アネキは、時のマリオネットだから」
動き出した時間が、また止まったように思えた。
マリオネット。操り人形。
「私が?」
晴が頷いた。
「嘘だ……」
嘘では無いことくらい、晴の目をみれば分かるのに。
認められなかった。
二人の間に、嫌な沈黙が流れた。
沈黙がとおり去ったころ、ようやく口を開いたのは晴。
「それがアネキの犯した大罪。のちに、タイムバトラックスとなる、許されない大罪だ」
◆#1 「A serious crime」 END◆