ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 時のマリオネット ( No.7 )
日時: 2011/05/01 20:32
名前: 玖龍 ◆7iyjK8Ih4Y (ID: ZTrajYO1)

◆#2 「while」◆



「何、それ……。大罪って、私、どうにかなるの?」


呟くような小さな声は、虫の合唱によってすぐにかき消されてしまった。
それでも晴は聞き取って、言った。
最初に言った言葉のような、唐突で、信じがたいことを。


「アネキに、未来に来てほしいんだ」
「……未来……」


私の沈黙をよそに、晴は「急ぐんだ」といって、私の手を引っ張った。
引っ張られた私は、晴の方向へ飛ぶ。
上へ、上へあがっていく私達の体は、どんどん軽くなっていったような感じがした。

雲を突き抜けたら宇宙かと思ったが、突き抜けた先は極彩の渦の中だった。
ぐるぐる、ぐるぐると回りながら吸い込まれていく体と平行に、意識もくるくる回って、ついには途絶えてしまった。


「晴の馬鹿」って叫びたかったのに。







「アネキ、ついた」


晴の大きな声で目を覚ました私は、すぐに立ち上がった。



「何……ここ……」


そこは、未来らしくない未来だった。
今と何にも変わっていない街並み。
左に見える紅い屋根の小さな家も、真ん中に建つ大きなビルも、右に見える豪邸も、皆変わらない。
——唯一つ変わって思えるのは、寂れたということだけ。


「ここ、本当に未来?」
「未来。疑うなよ馬鹿アネキ」


私が街外れにいることは、すぐに分かった。
一メートルも後ろへ行けば、隣街にいける、街外れの原っぱだ。
今は青々としていた草が全部枯れてしまっていて、さわさわという音はかすれてしまっている原っぱ。
私は、一メートル後ろに行ってみた。
一歩一歩、枯れた草を踏みしめながら。


「無駄だよ」


晴の声と同時に、私のおでこになにか固い、壁のようなものが当たった。
手をついてみると、それは本当に壁だった。
通れない。見えない壁がある。

私は押したりたたいたりしてみた。
壁はびくともせず、ただ凛とたたずんでいるだけ。


「無駄だって。出られない。ここだけ時間が遅れているからだ」
「——遅れてるって……」
「遅れてる。その差は5分。ここには時間の壁があるんだ。だから出られない。入れるが、出られない」


かすれた草の合唱をさえぎって、晴が泣く寸前のような声で呟いた。


「時間が無いんだ……」
「…………」


風が、街が、草が、晴が泣いていた。


◆#2 「while」 END◆