ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 古式騎士ゼロ式 Ancient Remains ( No.8 )
- 日時: 2011/05/18 22:12
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: MlJjY9/z)
国家施設の自壊から数時間。 とうとう国家は古式騎士の存在を認めた。
犠牲者は、運よくゼロ。 施設が壊される前に全員が脱走することに成功したと言う。
ただ、その施設で管理されていた騎士が脱走。
施設は荒野に建っているような、人里離れた場所だが、騎士の力を持ってすればいとも容易くその場から数百キロ移動する程度のことは可能だ。 だが、政府はこれを「問題ない」と、警戒レベル3/10程度に定めている。
騎士の能力の恐ろしさは、政府が一番分かっているはずだ。 反勢力を滅ぼす程度は朝飯前。 種類によっては騎士がその気になれば、一体で町一つ。 首都であろうが例外なく壊されるだろう。
「ようやく、騎士の存在を国が認めたか。 ロア、これからは騎士だってばれないように行動しろよ」
横に座ってチョコレートを貪り食うロアに、メリエルは忠告する。 だが、ロアは特に問題視していないように、「はーい」とだけ返し、再びチョコレートを口に運んだ。
よくこれだけチョコレートを食べ続けて太らないな……。 古式騎士だから?
ロアの存在は、特に問題ではない。 国には奴隷登録すれば良い。
町に近ければ、職も多く、飢え死にする奴は少ないが、町から離れれば離れた分だけ、貧困地域が多数点在する。 そこの人間は、戸籍上いない人間だ。
いや、人間として扱われていないと言うべきだろう。 そこから適当に浚ってきたことにして、奴隷として登録すれば、大体はまかり通る。
俺の場合は、孤児院出で、国の連中が視察に来た時に能力者レベルの測定結果と知能指数の高さが災いして半ば拉致されたようなものだった。 そこから、兵隊としての教育を受け、今に至っている。 恐らく、政府の視察期間が孤児院へとこなければ、俺は孤児院を出てすぐに飢えて命を落としていただろう。
まったく、ふざけた話だ。 戸籍登録イコール人間としての登録、そう取っても間違ってなど居ない。 いっそ、ロアと組んで国滅ぼしてやろうか……。
俺はこう見えても能力者だ。 それも、遺跡での発掘に当たって調査員ではなく実質ボディーガードとして雇われてるレベル。 能力者レベルも、人間の最高値、レベルⅤ。 並みの能力者では太刀打ちできない。
「ロア、チョコレートの買い溜めがなくなってきたから買いに行くか? このままだと今日中に底を突くぞ。 第一、何で俺が食おうと思って買ってきてた奴を……」
「行く!」
「そうか、分かった。 帰りに奴隷登録するぞ、お前は居ないはずの“人間”だ。 騎士としてこの世界にいれば、国がお前を格好の兵器として狙う。 取り合えず、人間として登録する」
ロアはその言葉に疑問符を浮かべ、
「奴隷登録って? 人間が勝手に作ったルール?」
奴隷と言う言葉に反応する。 どうやら、余り嬉しい言葉ではないらしい。 そりゃそうだ。
「そうだ、面倒なことに巻き込まれないようにする」
「じゃあ……壊さなきゃ……」
「は?」
ロアは今の今まで食べていたチョコレートをカゴに残し、席を立った。 何だ、今までで無い雰囲気……。 何かやらかしそうだぞ……。
「壊さなきゃいけない。 私の存在意義……壊すこと、平等にすること……。 壊して平らにすること。 壊して平等にすること。 それが私のお仕事……」
それだけ述べると、ロアは玄関を介さず、壁を突き破り外へと出た。 突き破られた壁は、溶かされたように穴が開いているが、熱を帯びているわけでも、酸で溶けたわけでもない。
何かが関与した所為で、溶けた。 いや、液化したと言うのが正しいだろう。
「待て、オイ!」
その言葉すら、ロアには届いていない。
クソッ、何がどうなってる? 仕事……? 平らにする?
何だ、それは。 一体何がロアに関与して……平等? どういうことだ? 古式騎士の存在意義でも聞いておけばよかった! クソッタレ!
ロアを呼び止める声と同時に、ロアは背から生やした純白の翼で跳躍した。
何事だよ……?
- Re: 古式騎士ゼロ式 Ancient Remains ( No.9 )
- 日時: 2011/05/18 22:13
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: MlJjY9/z)
ロアが飛び立った先。 それは、十中八九、政府の主要機関だろう。
そして、そこが壊滅するのも時間の問題だ。
奴隷登録といっていた所から連想できる所。 役所以外に無い。
「世話かけさせやがって!」
メリエルが咆える。 それと同時刻。 ロアはメリエルの予想通り、役所に居た。
だが、いつもなら大きなビルであるはずの役所のあるところには、本来あるはずのビルの半分程度の背の低いビルが建っている……?
「貴女も騎士なのですか、私と同じですね。 ですがまあ、その性能は遥かに……私に劣る!」
低いビルの正体。 それは騎士同士の戦闘によって吹き飛んだ、文字通り半壊したビル。
その中で、ロアは役所の警備に当てられていた騎士と戦闘中だ。
「知らないよ、私の存在意義を私は全うするだけ。 足元……気をつけて」
ロアは、自分の前に立ちはだかる青年の姿を模した騎士に忠告する。
その取るに足らない忠告は、あっという間に脅威へと変わる。 足元が、残っていたビルの下半分が、液化する! だが、その中でロアの足元だけは大きなコンクリートの柱が形成され、彼女は、そこから溶けたビルの残骸を見下ろす。
「人間は助かると思う。 高熱で溶かしたわけではないし、コンクリートの方が重たいからね。 人間は浮いてくる。 私以外の騎士はどうか知らないけど」
「まったく、恐ろしい能力ですね。 世得ろしい、貴女が能力を使うと言うのなら、私の能力を見せましょう。 暴食……これが私の力です」
彼はその言葉とともに、その姿を一瞬にして変貌させる。
ハエのような高速で羽ばたく翼、体から伸びた無数の口。 牙が並んだその様は、明らかに相手を喰い『殺す』ことに特化している。
「ゲテモノ……」
ロアは半ば呆れながら、迫り来る騎士を迎え撃つ!
しかし--早い! 視覚では捉えられても……体が追いつかない!
「さあ、さあ、さあ! 前後左右、上下から! どこから……食い潰されたいですか?」
耳元で、声がしたと思うと、その影は目の前に現れ、背後に気配を察知し振り返ったと思うと上から声がする……!
何だコイツは、無駄に早い。
「喰われるのは嫌だけど、私では捉えられそうにない早さだね」
「そうでしょうとも!」
真後ろからの声。 そして……奴は正面からロアの首筋にその牙を突き立てる!
だが、その牙はあっけなく……折れた?
「な……何を……」
「私が固いだけだよ」
ロアはその噛み付いてきたベルゼブブを圧倒的な力で殴り飛ばし、その首筋を見せる。
白い金属が、鎧のように組まれ、牙を止めていた。
「馬鹿な! 超金属ではないのか!」
「知らない、もっとよくそれ聞かせてよ、現代技術が混ざってるみたいだね。 超金属って、何? 私は超金属を主体に、賢者の石を心臓として創られた一点ものだったから、他の騎士の事情は知っているけれど、いまいち理解できないんだ。 悪魔の欠片を主体に使ってるんでしょ、その体」
ロアはその言葉と童子に、ここで始めてその場から動く!
両手に純白の炎を灯し、再び飛び上がろうとする騎士の羽を、毟る様にして消失させる! だが、これでは終わらない。
「この国の政府が本部として使っている施設はどこ? 君なら知ってるんじゃないかな。 23世紀に私が全てを平等にした時も、騎士番号が一桁の奴等に聞けば知ってたよ。 確か、暴食は4式のはずだから、知ってるよね? まあ、全員絶対服従しちゃって、結局、答えてくれたの居なかったけど」
「知らないな……」
質問、答えられなかったね?
もう、君には存在意義は無い。
「じゃあ、もう君には用は無い。 また眠ってて」
ロアは手に灯していた白い炎をどす黒く変化させると、その騎士を焼き払う。
騎士は焼け切ったのか、姿を消し、その場に、あの小さな黒い箱を落とした。
「壊しまではしないよ」
ロアはその箱を手に取ると、上着のポケットに入れた。
- Re: 古式騎士ゼロ式 Ancient Remains ( No.10 )
- 日時: 2011/05/18 22:13
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: MlJjY9/z)
「……蝿の王がまさか、現代に目を覚ましたとは思わなかったよ。 さて、この役所を落として、私の仕事は終わり」
「慌てるな、貴様の仕事はもう終わりだ」
蝿の王がこの時代に居ると言うことは、サタンがこの時代に目覚めたことを指している。 古式騎士のランク付けは、偶然にも政府の定めた100式が最下位、1式が最新と言うものと合致している。 新式ほど、その性能は高いが故の必然的なランク付けだ。
そして、一桁の古式騎士は、各々の能力の高さ故に、古式騎士1式、サタンの統括が必要となる。
ただ、古式騎士を作り上げた古代文明とは別の文明人が作り上げたロアは、その対象外だ。 しかし、王には、騎士は逆らえない。
そう、魔王サタン。 騎士ではない、オリジナル。
そのオリジナルの『声』が、戦闘を終えたばかりのロアに歩み寄る。 古式騎士に体力の消耗は無いが、能力を発動する魔力の消耗はある。 故に、今能力を使えば、魔力の総量が減り、回復力も落ちる。
今ここで、王に逆らうべきではない。 いや、逆らいようが無い。
「ロア・ファファニール。 貴様が目覚めたのは、私にとっては計算外だった。 貴様の主は、貴様を味方と見ているということに関しても……だ」
サタンの言葉とともに、ロアの視界にはバイクで役所へ向かうメリエルの姿が映る。 ただ、その姿は役所から5キロは離れて居て、役所の前の道は10キロ直線とはいえ、誰かと言う所まで識別できるロアの視力は異常だろう。
「今回の件は、私が全て片をつけよう。 貴様の存在価値は、1式以上に貴重なものだ。 今の政府の馬鹿に改造されてはたまったものではない。 まず、貴様の任を解く。 これからは、一個だけ。 1式の命令であっても、聞くな。 私の命令も例外ではない。 メリエルに従え、と言うだけだ。 さあ、戻すぞ? 3……2……1……」
“ゼロ”
その一言が放たれると同時に、視界が暗くなり、足元が地面から離れる感覚。
そして、ロアは椅子の上に落ちるような感覚とともに、小さなチョコレートを手に取った。 一体、どこまで巻き戻された?
「ようやく、騎士の存在を国が認めたか。 ロア、これからは騎士だってばれないように行動しろよ」
ああ、メリエルが新聞を読んでる。 朝まで戻されたのか。
これから人間としての登録だっけ? 何だか面倒だな、何させられるんだろ?
「ロア、チョコレートの買い溜めがなくなってきたから買いに行くか? このままだと今日中に底を突くぞ。 第一、何で俺が食おうと思って買ってきてた奴を……」
ああ、そんなことも言ってた……。
そんな冷静な思考とは逆に、ロアは本能的にチョコレートという単語に反応し、
「行く!」
テーブルに身を乗り出して返事をする。
「そうか、分かった。 帰りに奴隷登録するぞ、お前は居ないはずの“人間”だ。 騎士としてこの世界にいれば、国がお前を格好の兵器として狙う。 取り合えず、人間として登録する」
ロアの頭上に疑問符が浮かぶ。 一体、何をすればいいのやら。
「私は何かしないといけないの?」
「能力の有無と、能力者レベルの測定と、知能指数の測定だな。 あ、でも結構時間掛かるし、息に済ますぞ」
また、あの人間のちっぽけな技量を誇示したような所に行かないといけないのか……。 能力測定で能力が暴走したフリして溶かし崩してやろうか。
メリエルも私が大人しい無知な知識欲に喰われた愚かな機械としてしか見ていないだろうし。
「分かった、登録するんだ」
- Re: 古式騎士ゼロ式 Ancient Remains ( No.11 )
- 日時: 2011/05/20 20:58
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: MlJjY9/z)
「それでは、能力を全力で発動してください。 貴方の能力は未知数です、発動しなければ私も判別のしようが有りませんので」
白衣を着た“奴隷”がロアに能力の発動を促す。 奴隷と言えど、能力者で、能力が扱えれば人間として、公務員にだってなれる。 だが、この白衣の“奴隷”は賃金で雇われているのではない。 ただの道具だ。
そんなことを考えると、ロアは少し腹立たしく感じるが、それが感情だとは騎士である彼女は知る由も無い。 ただ、“感覚”として、核である賢者の石が感じ取っているだけに過ぎない。
「防御は完璧に。 特に足元、お気をつけて」
それだけ忠告すると、ロアは能力を発動した。 足元を覆っていた床のタイルが液化し、白衣の奴隷が座っていた椅子の足を床に沈め、座椅子に変えて見せた。 だが、それだけでは終わらない。
待合室の横にある喫煙スペースでタバコをすっていた男性のタバコが突如激しく燃え上がり、ガラスを通過した昼日中の強力な太陽光は灼熱の熱線へと変換される! だが、ロアの能力は留まる所を知らない。
むしろ、この測定施設を能力の発動だけで壊滅させようと言う意思さえ感じさせる。
今度はその熱線が照射された範囲の物体と言う物体を溶かし崩し始めた。
この施設は、能力者の能力を発動して測定する故に、相当強固な造りになっている。 だが、ロアの能力はそれをも易々と破壊する!
一瞬の能力開放が、周囲の人間には永遠に感じられただろう。 それほどまでに、時間の必要な破壊が一瞬で行われたのだから。
「もう、いいですか?」
ロアが問うが、奴隷の反応が無い。 気絶……したか?
ロアは次に、息を確認し、心臓が動いているかを確認するが、どちらも止まっている。
死んだのか、能力者といっても所詮人間か……。 騎士の力には敵わないのが世の理だ、昔も今もそれだけは変わっていないらしい。
「診察する人、死んだ」
その言葉とともに、ロアは診察室の溶けてひん曲がった扉を無理やりこじ開け外へ出た。
どうやら、診察室の周囲に見えない結界のようなものが張られていたのか、待合室は無傷で、何事も無いかのように順番を待つ奴隷登録者で席が埋まっていた。
そういえば、待合室に居たメリエルが居ない。 外かな?
「メリエル〜!」
ロアはメリエルを探し、外へ出るが、姿が見えない。 トイレ? 如何だろ、どこ行ったのかな……。
そういえば、あの白衣の奴隷殺しちゃったけど、これは罪に問われるのかな?
「ロア・ファファニール、こっちだ」
不意に、判別所内からロアを呼ぶ声。 振り返ると、そこには黒髪の男が立っていた。 どうやら、奴隷や何かの類ではないらしい。
判別所内にロアは再び踏み入ると、
「まだ判別は終わっていない、診察員が死ぬレベル。 明らかにレベルⅤだと分かるが、それにしては能力が強すぎる。 もう一度、判別する」
ロアをさっきとは別の診察室へと先導し、椅子に座らせた。 今度は窓も何もない。
コンクリートの壁と床。 何もない部屋……。
「能力を発動しろ、俺が判別する」
言われるがままに、ロアは能力を全開放する。 だが、今度は何も起こらない。
それに男は首をかしげ、「どういうことだ?」と呟くと、タバコを手にし、ポケットから取り出したライターで火を点けた。 その直後、火が点くが否や、タバコは凄まじい勢いで燃焼する!
そう、ロアの能力だ。 森羅万象に魔力で介入し、任意の性質を強く引き出す能力。
この上なく強力で、この上なく強い能力とでも言うべきだろうか?
「分かった、そういう能力か。 媒体が必要だな、取ってくるから待ってろ」
それだけを言い残し、その男が部屋を出ると、表情はまるで奇妙なものでも見たかのように歪んだ。 ロアも、その表情の意味を一瞬で理解した。
さっき、この部屋へ入ったのはまだ昼間だった。 だが、窓のないこの部屋でロアの能力が発動され、精神時間と実際の時間とで大きなずれが生じたのだろう。
ロアは納得し、その男は「もういい、判別終了だ」とだけ言うと、ロアを外に出し、書類にボールペンで『レベルⅤ、最上位能力者』と書き記した。
「レベルⅤはお前含めて世界で253人だ。 よかったな、孤児で死に掛けながら一生を終えなくてよ」
- Re: 古式騎士ゼロ式 Ancient Remains ( No.12 )
- 日時: 2011/05/31 10:48
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: MlJjY9/z)
「あの、レベルⅤって……?」
ロアの問いに、男は意表を疲れたように唖然とする。 もちろん、前にもこういう質問をした奴がいたらしく、反応はさほど鈍らず、「意外」程度のものだったらしい、
「レベルⅤってのは、能力者の能力の性能を示す値だ。 高ければもちろんその能力と能力者の能力の精度が高かったり、威力が高かったりと色々な特徴を示す。 大体、さっき見たあの能力は能力自体を見ただけで文句なしでそのレベルに達していると判断した。 まあ、あのお前が殺しちまった奴隷の能力で数値化して出せたら最高だったんだけどな。 場合によっては、あの能力であの範囲。 レベルⅥも有り得なくはない。 面白い変り種としては、レベルゼロなんて奴も稀に居る。 ま、その全てが物を消し去る能力者なんだけどな」
慣れた様子で分かりやすいが、マニュアル化している説明を淡々と口から吐き出した。
「じゃあ、貴方の名前は……?」
その問いに、男は呆れたように両手を広げ、首を振ると胸についていた名札を指差した。 だが、ロアはその文字が読めない。 古代文字の解読であれば、母国語を読み上げるかのように翻訳しながらスラスラと読み上げられるが、言葉を知っているだけでは文字は読めない。
「読めないのですが……」
「ルイス・オールディントン。 それが俺の名前だ。 驚いたな、まさか文字が読めないとは……。 能力測定前の知能指数は相当な値を示していたのだが……。 特に、古代文字の翻訳は物凄かったぞ」
ロアはその言葉に対し、メリエルの言っていた「騎士とばれないように」と言う言葉を思い出し、「少し、見たことがあるだけですよ」とだけ述べる。
その言葉に、ルイスは一瞬、疑いの視線を向けたが、特に気にすることでもないかと言うように、書類に印鑑を押す。
「古代文字が読めるのはたいした物だ、恐らくその分だと文字もすぐに覚えるだろう。 そうだな、文法を教えるのは手間だし、もう喋れるんだ。 文字と基礎の並びだけ教える。 椅子を引いてこっち来い」
ルイスはロアを自分のいる机の横に呼び寄せる。
その直後!
ルイスはロアの首を掴む! だが、その手に殺意は感じられない。 何かを探っているような、そんな違和感。
……まさか!
「どうしたんですか? 私が古代文字読めるんで、この間政府の機関から逃げた古式騎士って奴だとでも思いました?」
「ん? ああ、そうだったんだが……どうやら違ったらしい。 失礼。 で、基礎だったな」
ルイスはその後、ロアに文字と基礎的な文法を教え始める。
その途中でロアを探していたメリエルがようやくロアを見つけ、メリエルの家へと戻った。 どうやら、任務が入ったらしい。
「遺跡調査の続編だとさ。 ロア、来るか?」
メリエルは余り来ることに賛成できないが、家においておくのも賛成できないと言った感じでロアに問う。 もちろん、ロアは行く気満々。
「行く!」
半ば本能的に叫ぶ。
故郷か、今はどんな風になっているんだろう?
目を覚ましたのはメリエルの家でだった。 遺跡になっていようとも、故郷は故郷。 行って見たい。
「じゃあ、物は食えよ? 周囲に怪しまれないようにな。 それと、古式騎士の100式も同行するらしい。 壊したりしないように気をつけろ。 レベルⅤってだけで既にお前は十分目立ってるんだから」
- Re: 古式騎士ゼロ式 Ancient Remains ( No.13 )
- 日時: 2011/05/31 10:48
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: MlJjY9/z)
メリエルの長々とした説明の後、ようやくロアは同行を許可された。 だが、メリエルとは違い、調査部隊の奴等はロアの入隊を強く押していた。
レベルⅤという驚異的な能力の高さがその一番の要因だったが、それは表向き。 裏向きは、古代文字の解読がメイン。 ロアは特に凄いことだと認知しては居なかったが、古代文字の解読は相当難解だ。 文字列の並びが同じでも、数十通りの意味を持つ文。 一文字のみで数千通りの意味、数値を表す驚異的な情報を記す文字。 それが解読できれば、何故この超文明が滅んだか。 その理由がハッキリとする。
「お前がロアか、よろしくな〜!」
一人の少年が、準備をそろえている最中にロアへと歩み寄る。
「う〜ん、怪力でレベルⅤって聞いてたからゴリラ女かと思ったけど、結構可愛いじゃねえか。 それに、古代文字読めるんだろ? 今度俺にも教えてくれよ!」
何だ、この餓鬼。 誰がゴリラ女だ、失礼な奴め。
その気になれば寿命を一瞬で終点まで進めてやれるんだぞ、私は。 もう少し怖がれよ、昔はその力のおかげで白い死神とか呼ばれたような気がする。 いや、呼ばれたな。
「古代文字? あれは、殆ど感覚だから、読めるようになるまで何年か掛かるよ。 まあ、言葉を話すのだったら一年程度で覚えられると思うけど……」
「そうなのか! じゃあ、言葉の方を頼む!」
少年は目を輝かせ、ロアに詰め寄る。 が、
「ほら、そこまでだ。 レオン、お前も準備を手伝え、少し遅れが出てる。 飛行機に荷物を積むだけだ、男手が居る」
三十代半ばの大柄な強面髭オジ様が、少年の襟首を片手でむんずと掴み、ロアから遠ざける。 能力は一切発動した気配はない。 が、このおじ様も結構な怪力を持っていらっしゃる。
「ゲイル、久しぶり」
ロアと髭おじ様の間にメリエルが割って入る。 どうやら、親しい間柄と言う奴らしい。 そして、些細なことだが、メリエルの声のトーンが少し高い。
「メリエル、この髭オジ様好きなの?」
ロアは空気を一切読まずに質問する。 案の定、メリエルは赤面するわ、ゲイルは髭おじ様よとばれたことに苦笑するわ、それを聞いた作業をしている隊員たちは大爆笑するわ、ここでようやくロアは自分の株が急落したことに気づいた。
もう少し、タイミングを計るべきだったかな? まあ、そんなことは別に如何でもいいか。
「ッッッ、髭おじ様か、俺も中々隅に置けねえな。 ハハハ、意外だったぜ、そんな見方されてたとはよ」
「フルで言うと、大柄強面髭おじ様ですよ」
ロアの言葉に、ゲイルは自分で大爆笑する。 まさか、こんな女の子がそんなことを言うとは思っていなかったからだ。 隊員たちの笑い声のボリュームがさらに上がる。
それに気づいてか、ゲイルは「笑ってないでさっさと作業しろ! 遅れてんだぞ!」と叱咤するが、作業をしながら隊員たちは相変わらず笑いっぱなし。 メリエルに続き、ゲイルの顔も赤くなる。
何だか面白いな、人間は何かあると顔が赤くなるのか。
「改めてゲイル、今回は何が目的? 古式騎士までもって行くんだから、何かあるんでしょ? 何か、敵でも出るとか?」
メリエルが改めて話を切り出す。
それに続き、ゲイルの赤面も終了。 まじめな話をしているらしい。
「ああ、それだが……このお嬢ちゃんが古代文字が解読できる。 それで、何らかの仕掛けで閉じてる開かずの扉が開けられるかと思ってな。 横に文字が彫ってあるとこを写真とって専門家に解読を委託したんだが、中にヤバイ兵器が安置されているらしいようなことが書いてあったらしいんだ。 それで、騎士の力と、お前と、そのお嬢ちゃんの戦力が必要になったと言うわけだ。 だが、その兵器は騎士じゃないらしくてな、生物兵器らしい。 生きている可能性は皆無だが……まあ、一応念のためと言った所だな」
ゲイルは腰の短剣を抜くと、切っ先を指先に乗せ、こまのようにクルクルと回す。
「生物兵器? どんな奴だろうね、死体でも持って帰るつもり?」
「正に、そのとおりだ」
ゲイルはナイフを腰に収めると、ポケットを探り、その生物兵器らしきものの絵が彫られた粘土板の写真を取り出した。 八本足で、各足に鋭い爪。 目がどこにあるかは分からないが、口しかない顔。
なにやら、ロアには見覚えがあった。 メリエルに連れて行ってもらった図書館の図鑑で見た、微小な生命体。 だが、それにも八割しか当てはまらない。 この世に居るそいつは、こんな歯は持っていないはず。
「ねえ、これクマムシじゃないの?」
ロアが、思ったことを述べる。
それを聞いて、メリエルとゲイルは成程、と言うように写真を改めて見つめる。
「そうであろうが無かろうが、俺たちは調べるまでよ。 さあ、準備は整ったぞ」
ゲイルが指揮を取り、飛行機は地面から浮き上がる。
- Re: 古式騎士ゼロ式 Ancient Remains ( No.14 )
- 日時: 2011/05/31 10:49
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: MlJjY9/z)
飛行機は数時間の飛行の後、北極大陸の氷の表面に着陸しようとしているのか、遺跡の真上で旋回している。 遺跡は分厚い氷に阻まれ、その全体を視認することは出来ない。 ただ、所々に塔の先が覗いていたりする。 恐らく、そのおかげで見つかったのだろう。
「パラシュートを用意しろ、着地する」
「着陸するんじゃないの?」
ゲイルの指示に、ロアは半ば信じられないと言う表情で聞きかえす。 だが、ゲイルは黙ってうなずくと、先に貨物室の荷物をパラシュートで落としてから自分も続いて飛び降りる!
それに続き、ロアの手を引き、メリエルがパラシュートを背負い、飛行機から空へと飛び出す。 だが、メリエルは空へ飛び出してから、一つだけ、重大なミスを犯したことにようやく気づいた。
ロアが、パラシュートを背負っていない!
騎士だから落ちても壊れはしないだろうが、素で着地すれば、それこそ目立つ。
「この際だ、仕方ねえか……」
メリエルがロアの手を引いていれば、明らかに自分まで怪我をする。
「ロア、能力使って降りろ。 二人分の体重は支えられないからな」
「良いの?」
「今回だけだ」
その承諾の直後、メリエルは今まで握っていたロアの手を、躊躇無く離す。 常人にやれば、ショックで気絶でもするのではないかと思う。
パラシュートなしで、ロアの小さな体は尖った氷に直進する! しかし、ロアはそれをものともせず、氷の先を握り締め、空中で後ろ一回転を決め、見事に着地して見せた。 流石騎士、とでもいうべきだろうか。
それを見たゲイルは拍手で迎えるが、ロアは不思議そうな表情を浮かべている。 人間からすれば、相当な芸当でも、騎士からすれば当たり前の駆動でしかない。
恐らく、大気圏突入しても燃えたりしないだろうな……。
「見事だなぁ、身体能力がものすごいとは聞いていたが……」
マズイ、ゲイルとロアが直接会話している! 騎士だと知れれば大問題だ。
詰まる所、ロアが口を滑らせる可能性が否定できないという所が大きいが、まあ、今回はロアを信じるしかない。 俺の身体能力では、パラシュートなしでの着地は出来ない。
そんな心配をよそに、ロアは特にそのことを気にも留めず、
「いえ、運動能力は平均のレベルですよ。 能力の応用ですから」
「そうか、メリエルと、音無が降り次第、探索を開始する」
ゲイルがそう言い、メリエルの降下を待ち、そしてなぜかそのご数分間その場で待機すると、ゲイルは隊員たちに指示を開始した。
「爆弾班、用意!」
ゲイルが叫ぶ。 爆弾とは言っても、爆発能力者数名の構成からなる、普段は爆撃部隊でしかない部隊だ。
その中の孤児率は高く、それに着目して幼少期の心情で能力が決まるのではないかと研究をしていた研究者もいたが、彼の被検体になった孤児たちによって、能力を持たない彼は意図もたやすく殺されてしまったと言う事件もあった。
「音無! 手伝え、居るんだろ?」
ゲイルの言葉の直後、爆破しようとしていた氷が見る見るうちに水に変換され、その遺跡の一部が姿を露にする!
石造の建物が並び、氷の中に空洞を作り上げている。 何処かに、氷を溶かしている熱源があるようだが、広すぎてどこにあるのかなどさっぱり分からない。 ただ、見渡す限り、氷の下に巨大な町が広がっているだけ。 巨大な石造りの町。
「凄い……」
不意に、そんな言葉がロアの口から漏れ出す。 どうやら、自分の知らないものが、ロアの機能が停止してから増えていたらしい。
これじゃ……道案内は無理か……。 まあ、文字が読めるだけで十分としよう。
「じゃ、お嬢ちゃん。 解読頼む」
「はい、分かりました。 でも待ってください、これは周辺案内ではないようですよ。 私に見たところ、ラブホテルと書いてあるようですが……」
ここに居る全員が、文字の読めるロアからすれば文字の読めない無邪気な子供。 とんでもないことをさらっと読ませてしまうのは、まあ、仕方が無い。 と、分かっていても、いい気がしない……。
「周辺案内図は、無効の地面に彫ってある、あのレリーフですよ。 どうやら、この辺の軒並み連ねている家のような所は、どうも大人のお店が並んでいるようですね」
ロアの言葉に、ゲイルは苦笑する。
「そうなれば、行くしかないだろう!」
ルイスが叫ぶが、それにゲイルが鉄槌を下す。
ルイス、君の人柄を勘違いしていたようだよ……。
メリエルはあきれて言葉が出ず、ロアは不思議なものでも見るかのように、鉄槌を下され、伸びたルイスを眺めている。
何だろう、ここへ来てからずっと……何かに見られているような感覚が……。
「……気のせい……?」
ロアはその嫌な気配を無視し、ロアは案内図に従い、遺跡の中心へと歩みを進める。
その時、奴等は突然現れた。
熊並みの巨体に、無数の歯を持った……八本足の顔には口しかない……クマムシのようなバケモノ!
「ラージタスク……架空の生物兵器だと思っていたが、実在していたとはな」
奴等を視界の端に捕らえたゲイルが、息を呑む。 何やら、危険な生物らしい。
- Re: 古式騎士ゼロ式 Ancient Remains ( No.15 )
- 日時: 2011/05/31 10:49
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: MlJjY9/z)
「ラージタスクって?」
ロアが無邪気にゲイルに対して質問する。 ロアからしてみれば、あんなものはただの肉塊が動くだけに等しい。 しかし、人間からすれば、その動く肉塊が脅威なのだ。
「ラージはでかいって意味だって分かるだろ? タスクは牙だ。 でかい牙の……バケモノ……」
その言葉に、その肉は反応する。 よく見れば、その黄土色の皮膚に、紅い斑点。
……先客が居たが、喰われた。 と、言った所か。
「じゃあ、任せて。 ボディーガードとして付いて来たんだから、……戦うのは私の領分だよ」
ロアは右手を構え迫り来るバケモノを片手で握り、そのままその重圧をものともせずいとも軽々と投げ飛ばす! だが、そいつは一匹だけじゃないらしい。
その巨体が壁にぶつかった衝撃音で、今まで建物の陰に隠れていた奴等が、ぞろぞろと考えなしに寄って来る。
「どうやら、音に反応しているようだね……」
ロアはそのまま助走をつけ、目の前に居た奴をその異様な脚力で踏み潰し、それを踏み台に大きく跳躍--落下先には次の獲物。
音も無く地面に着地すると、その八本足の一本を掴み、持ち上げると別のバケモノへと振り下ろす!
グチャッ!
という、嫌な音を立て、振り下ろされた奴は体液を周囲にぶちまけて潰れた。 だが、潰したのはどうやら間違いだったらしい。 飛んできた体液で……服が少し溶けた。
ただ、コイツの体液は都合よく服だけ溶かすとか、そんな優しいレベルではない。 人間が喰らえば、皮膚は溶けてただれるであろう強い酸性の臭いがする。
何だ、
「血液に硫酸でも混ざってる……の?」
ついさっき潰した奴の体液の水溜りに、ロアは別の奴をたたきつける! だが、効かないのか。
参ったな、コイツは体液じゃ溶けないのか。 さて、困った。
どうやって始末する? 最初に打撃で倒したと思った奴も、今起き上がってるし。 打撃が有効ではない以上、使うとすればやはり……。
「ライター持ってませんか? 髭おじ様!」
「おう、持ってるぞ、ほら!」
ラージタスク一体を相手取りながら、ゲイルはロアに小さなジッポ式ライターを投げ渡す。
それをロアはキャッチすると、迷うことなく火をつけた。 そして、
「皆、伏せて!」
ロアの言葉の直後、辺り一帯が炎に包まれる!