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Re: 世界の怪談(短編集) ( No.3 )
日時: 2011/05/19 17:52
名前: 涼 (ID: Q7YZ/LhH)

  #03 ( 童歌の娘 )



「いつ待てば愛しきおのこは来る? それは待つまで待とうぞ、
 いつ願えば待っていた男は来るのか? それは信じねばならぬぞ、
 無常だと無情になったとしてでも、待ち続ける、
 いつか、我が身の元へと帰ると信じて——」



深い深い森の奥の茅葺かやぶき小屋に響き渡る歌声に聞き惚れる男、

その男はあたしのいる小屋の方へ来た。


———— あの人かしら?


男はあたしの小屋に入るな否やあたしを見て愛想良くデレデレした。

だけど、あの人とは全然違う。

よくもあたしを騙したわね、目付きが鋭くなった事に気付かぬ鈍い男。

あたしは床に上がり込ませて油断した男が小屋を見回す最中に台所から

包丁を取り出した。気付いた男は悲鳴を上げる、が無惨にも殺された。

血で紅く染まった床のまま、あたしは男を小屋のすぐ近くにある湖に、

投げ捨ててやったわ。序でに持ってた銭や土産を貰った。

そして血で汚れた小屋の中を掃除する。

こう繰り返してもまた、あの人の事を思い、唄うの。

あの人はいつ来るのかしら、好い加減に帰ってきても良いのにね。

唄い続ける。何度も何度も、まだ帰らぬあの人の事を思い、唄うの。

ある日、あたしの元へまた男が来た。

いいえ、あの子はまだ青年だ。あの人と違う。

だけど、まだ若いし、人里に離れたとこに住んでるですもんね。

仕方ないわね、特別にこの小屋に来ても良いわ。

甲斐甲斐しく出迎えたら、無表情の(近くで見たら)美青年は一言。



「俺の名前は安堂司あんどう・つかさ、陰陽師だ」

「へぇ……」



何で陰陽師が此処に来るのかしら?

なにやら嫌な予感……




「あの人は帰ってこない」

「何ですって……!?」



無断で来たくせにいきなり失礼な男ね。あたしに何しに来たのよ…!

目が自然と釣りあがる——。だけど青年は微動だにせず。



「あの人はお前に殺されたんだ、思い出せ——」

「あああああああああああああああああああああああああっ!!」



髪をむしる。

あたしの大好きなあの人は……あの人は。

あたしがまだ生きていたころ、あの人は仕事の都合で旅に出た。

すぐに帰ると言われ、その言葉を信じ、ずっと待ち続けてた。

だけど幾多の歳月を越えようとも、帰ってこない。

不信に思ったあたしはあの人に教えられた旅先に向かえば——。

視界に移ったのは見知らぬ女が隣に寄り添い子供とたわむれる姿。

その瞬間。あの人と目が合った。

あの人に裏切られたんだ、とそう直感した。

あたしは悔しく悲しくて泣き叫んだまま、森に入り奥深くにある湖に、

身を投げたんだった———。




「いやあああああっ!! あの人が、あの人が悪いのよッ!!」

「たしかに。だが、お前はそんな〝あの人〟とその間に出来た女と子供を容赦なく全員皆殺しにしたんだろ? その女も知らなかったのにな」




そうよ、だから何が悪いのよ、あの人が裏切ったんだから、その罰に。

あたしは死後、毎晩あの人の夢に出てきて恨み言を吐き続けたわ、

心を奪った憎きあの女の夢にも現われ、子供も次々呪い殺してやった。

日に日にあの人とあの女が痩せ細り、苦しんだわ。

子供に遂に全滅した。

あとはあの人たちだけ——— 遂にある晩、殺した。







「うふふ……あはははははははっはははははっははははははははッ!!」

「何が可笑しいんだ」

「あの人が……自分のしでかした事に苦しんだ姿を思いだしたのよッ!」

「だったら、お前も苦しめ」

「あはは………?」






瞬間あたしの身体は炎に包まれた。

地獄のような苦しみにあたしは悶えた。

目の前の青年陰陽師はそんなあたしを見て。








「苦しいだろ? お前のした罪は重い、だから——地獄に落ちるんだ」

「いや………いやあああああああああああああああっ!! 熱い!! お願いだからあああっ!!」

「罪をおかし、哀れな魂よ。—— 死と共に地獄へまいれ」

「た————————け——————————て………」







炎の向こうに黒い影が陰陽師のほうに差し伸べようとするも、

一瞬で炎と共に消え去った。

地獄に送られたのだ。

哀れな罪深き魂は地獄に送られ、地獄の苦しみを味わうのだ。

青年の陰陽師も既に死んで霊魂れいこんの身なのだが、

何故このような事を仕出かすのかは、

誰も知らない。








Fin