ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 世界の怪談(短編集) ( No.6 )
- 日時: 2011/05/20 22:30
- 名前: 涼 (ID: Q7YZ/LhH)
#05 ( 雨の日の出来事 )
とおくとおくだれかのひめいがきこえました。
わたしはなんだろう、とおもいふりむいたとたん、めのまえがまっくらになった。
わけがわからないまま、めざめるとおかあさんたちがないていた。
—— どうしてないているの?
そのことばさえでなくて、こわくなったわたしはないちゃった。
そして〝びょういん〟をとびだしたの。
どれくらい、あるいたのでしょうか……
なきやんでもうおそとがまっくらなのにだれもわたしをしんぱいしない
まるでわたしが〝そんざい〟しないかのように。
かなしくなったわたしは〝おうち〟にかえろうとあるきはじめました。
だけど、なかなか、おうちにかえれない。
いつものみちがなんだか、とおくかんじるのでした。
つかれたわたしはこうえんのべんちにすわり、ひとやすみしたけど。
だれもいない、もうおうちにかえるじかんだもんね。
いつもなら、おかあさんがむかえにきてくれるはずなのにきません。
なんでわたしはびょういんにいたのかな、なんでおかあさんたちは、
わたしをみてないていたのかな、お医者さんと看護婦さんが、とっても
かなしいかおをしたのはなんでなのかな。
わけがわからず、ひとりでぶらんこをこいでいたら。
とーってもきれいなおんなのひとがやさしくほほえみながらきました。
「何をしているの?」
「わたしね、おかあさんたちがびょういんでないていたの、だからこわくてこわくてとびだしちゃった。いつものこうえんにきたのにおかあさんはむかえにきてくれないの」
「おや、まあ—————」
おんなのひとはこまったように、にがわらいしました。
わたしはなにかいけないことをいったのかとおもったけどおんなのひとは。
「あなたには逝くべき所があるのよ、一緒に逝きましょう?」
「うん————」
「お父さん、お母さんはあなたの事を愛しているわよ」
「あいしてるの? すずのこと、だいすきなの?」
「えぇ」
「おうちにかえりたい」
「ふふ……もうすぐ帰れるわよ」
おんなのひとは〝あのよ〟とよばれるところまでおくってくれました。
そしてとてもおおきくておんなのひとみたいにきれいなおとこのひとが
わたしにこういいました。
「また、転生しなさい」
「愛川鈴、そなたの閻魔大王様による審判はこれにて終了ッ!」
きれいなおとこのひとがゆびさすほうにいくと、まっしろなひかりが、
きらきらとひかっていました。
わたしはそこへむちゅうでかけだしたの。
とちゅうでえんまだいおうさま、とよばれたおとこのひとのほうへ、
ふりむいたら、あのおんなのひととおなじやさしいえがおでした。
そして、てをふったのでふりかえしました。
「今度こそ来世を生き抜きなさい」
というおとこのひとのこえとともにわたしのしかいはまっくらになりました。
◇
「あの子が死んでもう3年になるわね———」
「ああ、鈴はとても優しい子だった」
「何であの時、あの場所にさえいなければ——と思ってたの、だけど、今は鈴の冥福を祈るわ」
「交通事故だったんだ、相手側も悪気はなく完全な事故だったんだ。それに相手もちゃんと反省して毎年命日に花を差し向けてくれるじゃないか」
「そうね、鈴——— 今頃生まれ変わってるかしら?」
「変わってるさ」
ある夫婦が見た窓の外は雨になっていた。
あの日、あの時に鈴は交通事故で死んでしまったのだ。
だが、夫婦はその死を乗り越え、今は慎ましく生活していた。
外は相変わらず雨。
夏の夜、小雨が降った。
亡き娘を思い、それを知るかのように振り続けた——。
Fin