ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 世界の怪談(短編集) ( No.9 )
日時: 2011/06/04 13:13
名前: 涼 ◆703fA5c/sc (ID: mM51WarG)

  #08 ( 紅い浴衣 )



あたしの大好きなお祭りの日に大好きな浴衣を着る。

それが毎年、我が家の当たり前の光景だった。

年に一度だけ着ることが出来る、あたしの可愛い浴衣。

大切な大切な、大事で、あたしの宝物の浴衣。

今年も着ようと思ったのに。

妹が着ていた。

あたしはお母さんに言うけどお母さんは。


「新しいの買ってきたから、それを着なさい」


大人びた黒色の浴衣だった。柄は蝶と桜が舞っている。

こんなのやだ、あの浴衣じゃなきゃ、嫌だ。

すねたまま、あたしは妹と一緒に祭りへ出かけた。

通常、『神送り祭』は三日間行われる、三日間の内に着れば良いんだ。

だけど妹はあたしの大好きな浴衣を三日間ずっと着ると宣言した。

その言葉にとても、とてもムカついてイラッとしたあたしは、

怖いもの知らずの妹を薄暗く人気のない神社へ—— 誘った。




——



嗚呼、なんとか妹を脅してあの浴衣が着れるようになったわ。

大好きな大好きな、あたしの浴衣。

ずっと、あたしのものだからね。

さてと、早くあの『神送り祭』に行かなくっちゃ。

妹?

そんなの知らないわ、どうせ、何処かで——寝ているだろうから。

それにしても、皆があたしを見ると凄く険しい顔と悲鳴をあげるわね。

何なのよ。あたしがそんなに怖いの。何にもしてないわよ。

浴衣に指差す人もいた。浴衣がそんなに変なのかしら?

あたしの浴衣は、とても紅い浴衣なだけなのに、ねぇ……

まるで血飛沫が浴衣についてる、見たいな言い草を言う人もいたわ。

元から綺麗な紅色よ。

さっきから、『お、お化けだあっ!!』とか、『幽霊』だとか何なのよ。

まるであたしが浴衣を譲ってくれない妹に苛立って殺したあとに、

自分も事故で死んだのに気付かず、祭りを楽しんでるみたいじゃない?

へーんなの。

あたしは気にせず歩き続けた。

本来ならあるべき影が、照明で当たってるのになかったという……。







Fin