ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 背徳少年(仮) ( No.1 )
- 日時: 2011/05/21 15:56
- 名前: お魚銜えた野良猫 ◆yEc0pmN/f. (ID: ZdfJmAM/)
プロローグ
お母さんは、人を殺してしまった。
四十代前半、ちょっと太り気味で、眼鏡をかけた男……正確に言うと、僕のお父さん、そして、お母さんのお婿さんを、確か僕が八歳のときに殺した。
理由は浮気。あのときは、あまり浮気などの意味が分からなかったけど、今はもう分かる。
「浮気なんかしなければ、お父さん、こんなばらばらにならなかったのにね……」
罪悪感が全くない、淡々とした口調。心がないような喋り方。まるで、ロボットだ。
女って怖い。思い出して、改めて感じた。
そういえば、あのお父さんが殺されたときの家は綺麗だったな……。
地面、壁は真っ赤に染まり、肉片が少し散らばって、お父さんの顔はほぼ原型はとどめていない。眼鏡はもう、眼鏡じゃなくなっている。腕には、眼鏡のレンズが刺さっていて、映画で見る殺人事件のような、夢見た空間。
昨日のことのように思い出せる。
ショックだったからではない。どちらかというと、嬉しかったからだ。
お父さんが死んだのは、嬉しくはない。お父さんが大好きだったからだ。お母さんを、あの頃、少し憎んでいたかもしれない。
でも、おそらく今も昔も、お母さんに感謝している。
殺人現場を見せてくれたからだ。テレビごしではなく、目の前で。
「お母さん、いつか目の前で殺人現場、見せてね」
昔から、これが口癖。
「フフッ、慶太は可笑しい子ねっ。そんなことしたら、殺した人、捕まっちゃうよ?」
決まってこう返すお母さん。
そして、お母さんは、捕まった。
人間は大抵、捕まるときは足掻こうとするものだが、お母さんは全く足掻かなかった。自分の罪を、あっさりと認めた。
裁判でも、やはり、罪を認めた。正直なのはいいことだと、お母さんは口癖のように言ったが、こんなときにも正直なお母さんに、僕は呆れた。
お母さんは、死刑となった。僕は反対したが、もう決まったんだからと言った。
死刑決行日。お母さんは最後に、こう言った。
「慶太の夢、かなってよかったね。お母さん、慶太が幸せだったら、死んでも構わない。だから、慶太。幸せになってね」
そして、死に向かうため、家を出た。
「ありがとう、お母さん」
そして、母は死んだ。
——これは、狂った少年の物語。