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Re: アビリティワールド 「壱」始まりと終わりは紙一重 ( No.1 )
日時: 2012/02/02 22:58
名前: 遊太 (ID: HhjtY6GF)

 〜(1)〜


『エマージェンシー!!施設エリア6で暴動発生!!繰り返す!!施設エリアで暴動が・・・わ、わぁぁぁああぁぁ!!!!』


極寒の地、南極。一面に広がる氷の世界に聳え立つ巨大な実験施設が、物語の要諦になろうとしていた。
施設内の廊下を、ショットガンを手にした警備員と研究者が慌ただしく駆けていく。状況は、非常に芳しくない。
つい先ほど、被験者を隔離している施設エリアである通称‘エリア6’で、被験者が暴動を引き起こしたのだ。
“普通”の被験者なら、恐らく、この施設にいる人間全員で取り掛かれば収まる話だ。しかし、現実は違う。

 「能力者が混じってる!!すでに3名が施設外に逃げ出しているぞ!!!」

警備員の叫び声と共に、施設のどこからか爆音が聞こえた。と同時に、施設が大きく揺れる。
「早く捕まえろ!!殺しても構わない!!世間に、世間にバレたら我々は一生牢獄生活だぞ!!!!」
実験施設の最高責任者であり、化学実験組織「PSICHO」の指導者であるマルコス・ケーミアは懸念した。
「絶対に捕まえろ!!」


「ケーミア先生!!」


警備員の一人がマルコスに叫んだ瞬間、マルコスは見えない何かに吹き飛ばされ、壁に勢い良く叩きつけられた。



   「せんせぇ〜い、今宵も素晴らしい月が夜空に浮かんでいますね。」



目の前に立つ、上下赤い縞々の被験者専用ジャージを着た男性が立っていた。しかし、男性の顔は影で見えない。
「あなたが、我々の人生を台無しにした。世界が、我々の人生を台無しにした。先日まで、そう思っていました。」
男性は溜息混じりに言うと、マルコスの目の前でしゃがみこんで、不気味な声のトーンで静かにつぶやいた。

 「ですが、それは勘違い。
       あなたは、私たちに
         禁忌を超えた、神の領域を超えた
    素晴らしい力を与えた。感謝しますよ、先生。」

男性がマルコスの方に触れた瞬間、男性の姿がマルコスに変わった。
「お、お前・・・・・・変身能力か・・・・・・・・・」
「これで楽々に、正門ゲートから逃げられる。」

「先生!!大丈夫ですか!?」

警備員の足音と声が、砂煙の中から聞こえてきた。
「白衣とキーは貰います。クリアキラー、後始末を頼みますよ。」
「クリア・・・キラー・・・・・・?・・・・・・うっ!?」
何の前触れもなく、マルコスの首に一筋の赤い血の線が浮かび上がる。そして、マルコスの頭部は地面に落ちた。
首から血の噴水が吹き出し、男性は地面に落ちたマルコスの頭部を拾い上げ、砂煙の中に放り投げた。
「さて、それじゃあ・・・・・・」

「先生、ご怪我は?」

駆けつけた警備部隊が、マルコスに変身した男性に駆け寄る。
「問題無い。君たちは暴動を抑えろ。私は私用で、日本へ向かう。」
「は!?」
呆然とする警備部隊を無視し、男性はそのままエリア6を出ると、一面に広がる氷の世界を見渡した。
少し離れた先に、ヘリコプターや軍用車が停車しているヘリポートがある。
「さらばだ、我が故郷よ。」
男性は一旦施設の方を振り向き、微笑みながらお辞儀をした。そしてそのまま、ヘリポートへと向かった。




 それから施設の暴動が収まったのは20時間後、結果。


         被験者6名の逃亡が確認された。


時は1990年、モノガタリの幕は、誰も知らないところで、ヒッソリと開いた。













          ──────そして、13年後










 2013年 日本 東京





そんな事件が起こっていたなんて、知る由もない。
東京都内の希望学園高等学校に通う高校2年生の神谷優太は、休日の朝を自宅で満喫していた。
「ちょっとお兄ちゃん、もう10時過ぎだよ。早く起きたら?」
「ん、まだいいよ。」
中学2年生の妹である可南子は、優太のドアをノックしながら呆れ半分で言う。
「じゃあ、私部活だから。朝ごはんちゃんと食べてね。」
「おう。」
可南子は玄関に用意していたテニスラケットの入った大きなカバンを背負い、ウインドブレーカーの姿で自宅を出た。
未だに自室の布団に潜り込んでいる優太は、携帯を操作しながら大あくびをする。

「暇だなー、暇だなー、何しよーかなー。」

センスのないリズムに乗せた歌を歌い、渋々ベッドから出る。
「さてと、今日の調子はどうかな。」
優太は右手を人差し指と親指を立てたピストルの形にし、壁に掛かる自作の的に照準を合わせる。
「・・・・・・・・・ショット。」
 

優太が呟いた瞬間、人差し指の先から水の魂が的にめがけて発射された。


水の‘弾’は的に当たると、そのまま気体となり蒸発して消えた。
「今日も絶好調。」





    水を操る超能力 高校2年生 神谷優太______






 彼はこの時、思いもしなかった。





   物語のコアになっていくなんて・・・・・・