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Re: アビリティワールド 「壱」始まりと終わりは紙一重 ( No.2 )
日時: 2012/02/04 19:18
名前: 遊太 (ID: HhjtY6GF)

 〜(2)〜


 「今日の活動は、昨日起こった爆発事故で汚れた道路の整備、並びに建物の復旧活動の支援だ。」


希望学園高等学校の教師、本城礼一郎はボランティア部の部員に言う。
「これからは支援活動の責任者である山本九二郎さんと部長の神谷に従い、私語を慎んで迅速に行動をとること。」
ボランティア部の部長である神谷優太を前に、部員5名が横一列に並び、支援活動の人々に揃って礼をする。
「今日一日、宜しくお願いします」

  「「宜しくお願いします!!」」

「こちらこそ、今日は頼むよ。」
第一印象は優しそうで穏やかな性格の持ち主に見える山本は、眠くなるような遅さの喋り方で優太と握手した。
「それじゃあとりあえず、今回君たちにしてもらう仕事の内容とちっとだけ事故の詳細は説明する。」


 『事故現場は、渋谷区にあるNHK放送センターの向かいに建つ無人ビル5階。ここじゃな。
   昨日の夜8時頃に爆発が起こり、死傷者は出らんかったが、道路や隣接して立つ建物の壁が汚れておる。
  警察のお方に頼んで、ここの道路は一時的に封鎖しておるから、その間に片付けるぞ。仕事は2つだけじゃ。
   先生の言った通り、道路の掃除。建物5階のお掃除じゃ。なに、崩れる心配はない。しかしまあ、危ない・・・。
  なので、建物内は男の子。道路は女の子じゃ。それじゃあ、頼むよ。』


山本の説明が終わり、部内の女子2名が道路整備へ、残りは建物内に掃除道具を持って入った。
「いやぁ、しかしあれだな。学校休めるのは最高だな。」
階段を上がりながら、篠原武道は嬉しそうに笑顔を浮かべながら言う。そんな武道を、後ろから枡川京一が注意する。
「篠原くん、心の声が出てますよ。」
2人は1年生の頃からボランティア部に所属する部員だ。そして、勿論、超能力者だ。

  篠原武道は、左の筋肉だけを一時的に強化して怪力を使える。

  枡川京一は、人間の五感である味覚、聴覚、視覚、触覚、嗅覚が普通の人間よりも数倍優れている。

2人が喋っている中、先頭を歩く優太は部員内で数少ない1年生の境恵太と話していた。
「先輩は今2年生ですけど、もう大学進学とか考えてるんですか?」
「まだだよ。でも、将来の夢はある。」
「夢?」
恵太が首を傾げながら聞く。すると、先ほどまで喋っていた武道と京一が喋るのを止め、優太の話に耳を向ける。
「俺は将来、人を助ける仕事をしたい。だから、世界政府のWSRAOに勤めたいと思ってる。」
「・・・・・・壮大ですね。応援してますよ。」


  「おーい、ここじゃ。」


5階に着くと、山本が4人に指示を出す。
「昼時までに終わらせよう。急いでやるぞ。」
   「「はーい。」」



 一方、外に残った残りの2人、駒井里奈と鈴木理々花。
2人は他の支援活動の人たちと一緒に、道路に散ったガラスの破片や瓦礫の撤去を手伝っていた。
「おい、あまり無理しなくていいからな。」
「大丈夫ですよ、先生。」
瓦礫の撤去活動に手を貸す里奈を見て、本城が声をかけた。
そんな本城を見て、1年生の理々花が微笑みながら里奈に言う。
「本城先生は見た目が真面目そうで寡黙な感じがしますけど、案外優しいですね。」
「そうだね。皆言ってるよ。本城先生は優しくて格好良いって。」
里奈は制服の袖で額の汗を拭く。
「次はあっちの方を掃除しよう♪」
理々花が箒を持って駆けた、と同時のその瞬間だった。





      ガシャァあああァァァアアァぁぁぁン!!!!!!





優太たちが入った建物の4階が、突然爆発した。
「わぁぁぁぁあああぁぁぁぁ!!!!!」
「な、なんだぁぁ!?」
支援活動の人々は大急ぎで建物から離れる。その時、建物の一部の壁が轟音を上げて崩れ落ちてきた。
しかも、落下していく瓦礫の真下には、爆発で腰を抜かした理々花が道路にしゃがみこんでいた。

「理々花ちゃん!!!!」

「きゃぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁ!!!!!!」

理々花は目の前から迫ってくる瓦礫に何もできず、頭を抱え込み目を瞑った。
周囲から悲鳴が上がり、里奈も恐怖で目を瞑った。
その時だった。




       「掴まれ。」




  紅蓮の炎に包まれた本城が、理々花の腕をつかみ、間一髪の所で瓦礫を避けた。



「大丈夫か?」
「は、はい・・・・・・ありがとうございます・・・・・・・・・」


   「支援活動の方々は、危険ですので建物に近寄らないでください。
     もし怪我をした方がいれば、私の生徒に治癒能力を持つ生徒がいますので、その生徒に手当を受けて下さい。
    私は今から建物内に入った者たちの救助に向いますので、みなさまはここでお待ちください。」


本城は支援活動の人々に叫び言うと、スーツ姿のまま今にも崩れそうな建物内に、躊躇なく入っていった。
「先生・・・カッコイイですね・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・だね。怪我はしてない?」
「わ、私は大丈夫です。それより、なかに入った先輩たちと境が・・・・・・」
心配そうに建物を見つめる理々花に、里奈が笑顔で慰めながら安心させる。
「大丈夫だよ。みんな強いし、先生もいるし。」










   「わ、わぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」








4階で起きた爆発と同時に、5階の床が獣の雄叫びの様な音を上げて崩れていく。
「ちょ、ちょ、どうする!?」
「下は無理です!!炎が上がって・・・・・・わ、うわぁぁ!!」
京一の立っていた床の部分が、何の前触れもなく崩れる。
「京一!!」
ギリギリのところで、武道が京一の腕をつかみ事なきを得た。
優太はどこか逃げ場がないか周囲を見渡す。すると、山本の姿が見当たらないことに気がついた。
「おい、山本さんはどこ行った!?」
「え!?ま、まさか落ちたんじゃ・・・・・・」
恵太が崩れた床を見る。崩れた床から、4階で燃え上がる炎の火の粉が入ってくる。
「くそっ・・・・・・・・・そうだ、屋上だ!!屋上へ行こう!!」
優太の言葉で、4人は階段を上がり屋上の階段を目指す。
運が良いことに、屋上の入口は今いる5階のすぐ上にあった。

 が

「か、鍵開いてません!!」
恵太がドアノブを何度も回すが、ドアは開かない。
「そういえば、山本さんが説明の時言ってましたね。無人ビルだから、危険を避けて屋上のドアは閉められてるんだ。」
「んな、アホンダラなことあってたまっか!!!」
武道は恵太と京一をどかし、左手を拳に変え、思いっきり振りかぶってドアを叩いた。




     ガン!!!




ドアは簡単に外れ、武道がガッツポーズを見せる。
「そんなポースいいから、早く出ろ!!」
4人は大急ぎで屋上に出ると、周囲を見渡す。
「で、ここからどうする?」
武道の言葉で、京一が屋上から隣接して立つ建物を確認する。
「飛び移れそうな建物はありません・・・・・・救助を待つしか・・・・・・」

「お、おいおいおい・・・・・・そんなの待ってたら、建物崩れるだろ!?」

武道が疑問形で全員に言う。
「確かにやばいな。一体どうすれば・・・・・・・・・」







   「おや、こんなところにいたのか。」







4人が呆然としていると、屋上の出入り口から死んだと思われていた山本が現れた。
「や、山本さん!?どこにいたんだよ!!どうすればいい!?」
「まぁまぁ慌てなさんな。」
山本は今にも崩れそうな建物の屋上にいるのにも関わらず、やけに落ち着いている。年のせいであろうか。


 「・・・・・・あんた、本当に山本さんか?」




優太のこの質問で、事態は更に悪化していくのだった。