ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: LOVE*L∞P ( No.4 )
日時: 2011/06/04 19:02
名前: 右左 (ID: 8hgpVngW)

          *第一話*
       『死体で始まる夏休み』



五時間目の授業を睡眠で切り抜けたボクは、やっと目を覚ました。
夏の茹だるような暑さが、窓越しにボクを刺激する。
どうしようもなく暑くなり、イライラして横にいるクラスメートを叩く。

筋肉のついてない真っ白な腕はペチ、と軽く音を鳴らすだけだった。
強く叩けない事にも苛立ち、少しだけ不満そうに口を尖らせる。

「いった……くないけど……。 叩くか? 折角団扇で仰いでやってんのに叩くか!」
「煩い、手、止めんな」

長い茶緑の髪を机から垂らしながら、ボクは怠そうに突っ伏す。
ミカヤはボクの眠そうな怠そうな顔を、引き締まらない緩んだ顔で見つめながら団扇をひらひらと動かす。

「顔気持ち悪い、ゆるゆる」
「うるさいわぁ!」

大体アンタがそんなに美人だからいけないのよ! と覚えのない罪を着せられる。
ボクの色素の薄い肌が、日に当たり少しだけ赤くなっている。

「あーあ、焼けちゃってんじゃん。 日焼け止め塗らないからー……」
「もー黙って。 ボクの勝手でしょう?」

鞄からポッキーを一箱取り出して袋から三本まとめて頬張る。
行儀が悪いのは承知だけど、手が汚れるのも嫌だ。 面倒くさがりではない、至って女子高生らしい思考だ。

「あー、くるみんっ! ポッキーあたしにもチョーダイっ」

ポッキーを見たクラスメートがボクの前に来る。
ボクは「いいよ」と短く返し、箱を差し出す。
最後に見えたミカヤの日焼けした手から箱を遠ざける。 反射的にミカヤの頬も膨れた。

「なんでウチにはくれないの?」

怒りの混じった声だ。

「うざいから」

キッパリという物腰に、ミカヤはふるふると震える。
団扇をボクの顔に叩きつけて言う。

「だーもー! そゆの、ウチいけないと思う! 人類皆平等、はい、りぴーとあふたーみー!」
「そーゆーのがイヤなんだけども」

冷たく返す。
周りのクラスメートがクスクスと小さく笑う。
女子高なので、大して変わらない顔がそこらじゅうにある。 みんな、笑顔だ。

「ひどくね! ウチと水里さんの扱いの差、まじでありすぎだよ!」
「水里とミカは比べたくもないケド」

ミカヤの発言で、周りのクラスメートは「彼氏?」と聞いてくる。
幼稚舎から大学まで全て一貫のエスカレーターの女子高で、男性に免疫のない生徒も珍しくはない。
だからこそ、ミカヤの発言は周りに大きく広まっていった。

「ね、ね、男の人ってどんな感じ?」

黒髪で三つ編みの優しそうなクラスメートの山之内さんが、聞いてきた。
アンタの父親と一緒だよ、なんて言葉は言えない。

「手とか、大きい。 一緒にいると安心する」

ありきたりな言葉を並べてみた。
安心するのも強ち嘘ではないので、よしとする。
先程の事をまだ引きずっていたのか、

「ウチは親友なのにー!」

と大きな声で言う。
認めてないし、と心中で悪態をつく。


——これが、ボクのいつもの日常。


「あ、もしかしてその花のピン止め、彼氏からもらったの?」

山之内さんが清楚に笑いながら言う。
ボクは、一瞬少しだけ驚いた表情をしてから、嗤った。

「分かった? ——ステキ、でしょう?」

妖艶に、ふわりと包むように、誰も見た事のない綺麗な笑顔を向けるのだ。
同性でありながら、クラスメートも息をのむ。

嘘だけど、と小さく呟いて。

「何か、言った?」
「いーや、なんでも」

チャイムが鳴り、六時間目が始まろうとしている。
鞄を持って立ち上がり、トントンと靴を鳴らす。

暑い暑い、その場所から。
熱く熱く、ボクを癒してくれる彼の腕の中へ。

「ちょっと、包杷さん待ちなさい。 授業が始まりますよ!」

腹の出たボクより小さい女教師を目線で黙らせ、教室を出る。



「————水里、何してんのかな」



愛しい彼を、思い浮かべて。
心の中で、ボクは無限の愛を騙るのだった。
幸せな筈だった。


嗚呼、何故殺されてしまったの?
何故、ボクに最初に見つけさせたんだい?

何も、彼の家の前で殺されなくても。