ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 遺伝子コード000±0×0 ( No.12 )
- 日時: 2011/06/09 16:18
- 名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: xr1in99g)
「マスター、酒! おかわり」
黒髪の青年が、酒場の店主に叫ぶ。
もちろん、青年は未成年で、飲酒はこの国の法律で19以上でなければ駄目だと定められている。
だが、青年にそんなことは関係ない。
「いい加減にしとけよ、エルメス。 オマエさん、まだ未成年だろう? 脳みそ縮んでも知らんぞ」
「縮まねえよ、俺は物事を否定する能力者だからな。 酒は体にいいんだよ、俺が言うんだから絶対だ」
無茶苦茶な意見……いや、断言に店主は苦笑いを浮かべ、棚から適当にビンを数本取り出すと青年の前に並べた。
そして、
「どいつにする?」
「んじゃ、一番右と真ん中から左二つ目のビン。 アルコール度数は如何でも良い」
その言葉に、再び店主は苦笑いを浮かべると、一番右に並べた緑色のビンを手に取り、
「オイ、エルメス。 コイツは止めておけ、飲めたモンじゃねえぞ。 俺の記憶が正しければ、ジャックとか言う酒飲みしか飲めなかったほどだ。 悪いことは言わない、止めておけ」
店主はエルメスに忠告するが、エルメスはそんなことになど一切耳を貸さず、その酒をグイグイと飲み干した。
流石に、アルコールがきつかったのだろう。 青年はある程度飲むとむせ返り、口の中に残っていた酒を吐き出し、そのビンに巻かれたラベルに目をやった。
……道理で、きつい訳だ。 酒瓶のラベルに記されているアルコール度数は、なんと脅威の98%。 殆どアルコール……依存症の奴が飲むようなレベルだ。 最も、そんな酒は浅い人生経験の中で見たことも聞いたことも無い。
「マスター、これを飲んだジャックって奴、アル中か? 飲めたモンじゃねぇし、どっから仕入れたんだよ」
エルメスは顔をしかめ、恨めしそうにビンを見つめながら問う。
「ああ、コイツは俺の店のオリジナルだ。 そのジャックに頼まれて作ったんだが、アイツ……ここ数年の間に死んじまったらしくてな、俺としては——」
「おい、殺っちまえ!」
店主の言葉を遮るように、店内が騒がしくなる。
ま、元々そんな表向きの店じゃないし、柄の悪いのだってたくさん居る。 喧嘩なんか日常茶飯事。
そして喧嘩や揉め事を起こすのは決まってここへはじめて立ち寄った流れ者。
そして、その流れ者の処分は、
「オイ、気持ちよく酒飲んでる連中に迷惑だ。 黙るか帰るか……つーか、死ね。 人が気分よく酒飲んでるってのに」
俺がする。
両手を広げ、相手を挑発。
「おうおうおう、何だ餓鬼が! テメエ、死にてぇのか?」
大体、こういうところに流れてくる奴って、D能力者なんだよな。
D能力者は、遺伝子コードを持つ能力者のことだ。 基本的に、炎を吐く奴も居れば電撃を発する奴、思考を読む奴など人間の完成や身体機能の一部を極端に特化させたような奴が多い。
が、その能力の本質が全て同じでも、その表面に出てくる能力は決まって同じようなものだ。 大体、この手のD能力者は炎を吐くか、電撃を発するか、思考をかき乱すかの3択。
何で分かるのかって? そりゃ、攻撃的で、見てくれが良くて威嚇に使えるようなのがその程度だからだ。
他は地味だったり、その他の強い能力は、扱える奴は扱える奴で基本的に名を知っているような有名な奴ばかり。 地味であればこんな所でおおっぴらに使うようなこともしないだろう。
無名の、D能力者であれば、消去法でこの3択以外にまずありえない。
「俺に喧嘩を売るのか、大人気ない奴だな。 良いだろ、殺してみろよ。 俺を殺し損ねた時が、オマエの死ぬ時だ」
言葉と共に、エルメスは男に詰め寄る。
そして、1メートルまで間を詰め、両手を広げて立ち止まってみせる。
「ほう、殴れってか?」
一撃。
強烈な打撃が、エルメスの視界を揺らす。
だが、男が第二波を繰り出そうとした時だった。 『ボギンッ』と言う音と共に、男の腕が本体を離れ、床へと落ちる。
突然のことに、男は無くなった左手を凝視した。
そして、
「うァあぁぁアぁァ!」
痛みの余り悲鳴を上げるが、すぐに思考を切り替えエルメスへ電撃を——放つ! ……しかし、それも無駄に終わった。
エルメスはその電撃の中に左腕を差し出すと、その手のひらに吸い込まれるようにしてその電撃は消滅する!
それを見て、男はバケモノか何かを見るような目で、エルメスを見上げる。
「言ったよな、俺を殺し損ねた時がオマエの最後だって。 悪いが、俺は眠くて苛立ってるから、手加減は出来ないぞ……?」
男を蹴倒し、エルメスは楽しそうに言い放つ。 そして……
「ハハハ!」
男の顔面を容赦なく踏みつける!
何度も、何度も……躊躇することも無く……!
「良いな、自分が偉いと思い込んでる駄馬を踏みつけるのは……!」
何だか見たことの無くもない光景に、周囲は唖然として一言として言葉を漏らさず、その様子を見守る。
しばらく経つと、ようやくエルメスは男を踏みつけるのを止めた。
「あららー、顔面グチャグチャで踏み応え無くなっちゃったか」
踏むのを止めると、エルメスはその男の足を握り、カウンター横の巨大なゴミバケツへとその死体を放り込む。
そして懐を探ると……驚いた。 てっきり、小さな財布が出てくると思ったのに、出てきたのは100$札の束。 この世界の通過は、ドルに統一されている故に何処でも金の価値は同じだ。
それを手に、いつもの習慣のように、その上からその辺に転がっていた酒瓶を投げ込み、男の死体を隠すと、
「さあ諸君、五月蝿いのは消えた。 思う存分楽しむといい」
見つけた金を撒き散らし、
「マスター、釣りはいらねーわ」
その店を後にした。