ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 遺伝子コード000±0×0 ( No.14 )
日時: 2011/06/18 16:38
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: jrQJ0.d7)

 「ンニャッハッハッハッハッハ! 気分いいぞ〜!」

 酒場を後にしたエルメスは、いつもの様に夜の街を闊歩する。 基本的に、彼の主義『借りは作らない』によって、彼にツケの話を持ちかけてくる者は居ない。 が、彼がそこでマトモに金を支払うことも少ない。
 理由は簡単。 ここ、『アンダー』では喧嘩が絶えない。
 その中に割り込み、両者をボコボコにして沈静化することで、その店からの『感謝』を受け取っているのだ。
 不意に、エルメスを小柄な男が呼び止め、

 「おーい、エルメス! 喧嘩が始まったぞ!」

 店の中へと招き入れる。
 基本的に、エルメスはこの薄暗い町の頂点に位置する『帝王』であり、『ボス』でもある。 そして、その無知無謀さは他を圧倒するものだ。

 「おいおい、ゲイブ。 こりゃ、喧嘩じゃねえだろ」

 店に入ったエルメスは、呆れ半ばに自分の後頭部をボリボリと掻き、

 「よー、リアス。 どうした、また厄介ごとか?」

 ナイフを持った金髪スーツ姿の男に取り押さえられている人質状態の彼女に話しかける。 長い銀髪を地面に擦りかけながら、彼女は小さくため息をついた。
 彼女は、リアス。 彼女もまた、この町に住む人間で、『非合法能力発現者』である。 つまり、政府公認ではなく裏で出回っている『ナノマシン』によって能力を発現させた裏の人間。

 「うん。 私はもう駄目だ」

 彼女死んだ魚のような紅の瞳で助けを求めるようにエルメスを注視し、弱音を吐くと、周囲は大笑いする。
 何故って?

 「おいおい、リアス。 そういうのは本当にもう駄目になってから言うもんだろ? ほら、そこの偉そうなスーツオヤジ、その女の子離せ。 嫌だったら、それで殺せ。そいつは誰にも殺せねえケド」

 エルメスはナイフを指して言い放つ。
 どうも、この男はこの町の奴じゃない。 第一、この町に金髪の奴はまず居ない。 髪の色は基本的に白か黒。 それか茶色。 そして、俺が知らないと言うことはよそ者だろう。
 常人であればナイフの一突きで死ぬ。 もちろん、リアスはその一突きで死ぬ。

 「そうか、私にこの娘を殺せと? 貴様は一体何がしたいというのだ?」

 うーんとね、特に何も。 連続殺人犯が『殺すな』なんていえる義理もないし。
 何より、能力使うのも面倒。 炊きつけて発動させないとこっちからは能力では何も出来ないし。

 「傍観したいだけ。 ほら、さっさとバラせよ」

 エルメスが更にナイフを握る力を強めさせる。

 「ま、殺そうが殺すまいが……結局オマエはこの町からは出れねえよ。 なんたってここは俺の町だからな(町長ではないけど)、オマエがどこにいようと俺にその目撃情報は入るし、この町から出ようにも今は地面の底にしろ、ここは昔、城下町だった名残に城壁が周囲を守ってる。 よじ登ろうとすれば、エレキネットの餌食さ。 それに、地上へ通じるエレベーターに乗るのは勝手だが、地上に出て森からは近い。 オーガの餌食になるぞ。 それぐらい分かるだろう? 元政府のお偉いさん、仕事で失敗して落とされたんだろ? この掃き溜めみたいな町に……さ。 俺の記憶が正しければ……確かあんた、オーガ対策委員会の部長だろ?」

 終にその男は切れた。
 手に持ったナイフを、リアスの首筋へと突き立てる! だが、それは失敗に終わった。
 偶然と言うべきか、はたまた奇跡というべきか。 周囲から見れば、不慮の事故。
 偶然にも腐りかけていた店の天井の一部が落下し、奇跡的にナイフとリアスの喉の中間点でナイフの切っ先を受け止め、その後に連鎖して落ちてきた木片が、男の後頭部を強打し、男は意識を失った。

 「ホレ見ろ、殺せないって言ったろ?」

 エルメスが男の顔面を踏みつけるも、男は反応を返さない。 当たり前だ、気絶している。

 「う〜ん……諸君、この男は好きにしたまえ」

 エルメスが店出ると同時に、男も店から投げ出された。 あろうことか、身包みを剥がされ裸の状態で。
 もちろんエルメスはそれを踏み越え、宿を探し始めた。
 まっじいな、宿探さないと朝まで野宿か〜……。 まあ、何とかなるだろ。

 「そういや……なんでオーガ対策の委員長がこの町に落とされたんだろ? “森”に異変でもあったのか……な……?」

 エルメスはその場で酒に負け、眠り込んでしまった。

Re: 遺伝子コード000±0×0 ( No.15 )
日時: 2011/06/10 13:52
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: xr1in99g)

 「エルメスが目を覚ましちゃった。 もう駄目だ、殺される。 私」

 エルメスは、目を覚ますと同時にその言葉を聞き取った。 どうやら、酒に負けて寝てしまったのを、リアスが家まで運んだのだろう。
 よく運べたな……。
 見慣れない家具、見慣れない部屋。 白くて、何も無い殺風景な……何だか孤独な……。

 「殺さねえよ、むしろ感謝してる」

 エルメスは寝かされていたソファから起き上がると、包丁を持ってブツブツ呟くリアスを制止する。
 だが、リアスは目を剥き、これ以上近づくなと言わんばかりにエルメスを威圧する。

 「どうした、殺さねえって」

 「嫌だ、来るな」

 「だったら家へ連れて帰るなよ」

 「来るな……」

 リアスは完全に怯えきっている。 まーコイツは俺じゃ殺せないし、殺しても利点も無ければ、助けてくれた奴殺すほど恩知らずじゃない。
 それに、コイツはワルイヤツでは無い。

 「大丈夫だ、何もしない」

 エルメスは両手を広げ、害意の無いことを示す。 実を言うと、エルメスは前から厄介ごとに巻き込まれるリアスには興味があった。
 何故、彼女は何事においても絶望するのか。 何故、人を遠ざけ、孤独でいようとするのか。

 「どうした、刺したきゃ刺せば良い。 俺は人殺しだから信用していないんだったら、ほら……」

 エルメスは一歩。 また一歩とリアスから遠ざかる。
 それにも警戒を緩めず、リアスは一向に信用する様子が無い。 何でだ、自分で拾ってきておいて……。 自分で遠ざける……?
 別によそ者なら無関心ではいられるが……生憎俺の支配下でそんな奴が居れば、助けたくなると言うのがエルメスの本音。
 と言うよりこれは……過去の俺自身だ。

 「リアス……オマエ、過去に何があった? 何人かお前みたいな奴を知ってる。 俺も……その一人だ」

 エルメスは包帯に覆われた左腕を露にする。
 そこには、酷い火傷の跡。 そして……肉が削げたまま治癒してしまい、剥き出しの骨。
 明らかに、過去に巨大な闇のある人間の証だった。

 「……私も」

 「オマエも……何かあったらしいな。 話せよ、吐き出してスッキリしちまえ」

 エルメスはリアスに吐き出すよう促すが、

 「エルメス……なんでそんなことになってるの?」

 リアスに先に問われる。 まあ、話さないというのも面倒だし、先延ばしにして後で聞かれるのも面倒だ。
 先に話しておくことにしよう。

 「……ウィズデムの殺戮戦争。 それで負った傷だ」

 ウィズデムの殺戮戦争。 5年前にようやく終結した、人類の歴史上最も残虐非道で非人間的とされる戦争の名称だ。 別名、知恵戦争。
 まあ、俺から言わせればそんな戦争に残虐非道も非人間的もクソもないのだが……。
 初めて、D能力者が動員された戦争。
 ただ、そのD能力適合実験に使用された人間は全て囚人。 そして、そのいずれも、『殺人犯』であり、懲役100年を超える重罪人。
 終身刑または死刑を宣告された囚人の扱いに困った政府が、囚人を兵器として動員したのだ。 その結果、人を殺すことに躊躇しない囚人達は、敵国を襲い、兵士、民間人を見境無く襲い、殺した。

 「俺は唯一、その国の生き残りだ。 相手国で遅れて考えられたD能力適合実験の第一号にして、唯一の適合者。 そして、終戦間近の突然のD能力者失踪事件。 それの真犯人であり、ただの復讐に生きる孤独なバケモノさ。 この町は、俺の仲間のように見えるかもしれないが……俺はただの……反逆者なんだよ」

 エルメスは自ら述べたことに冷笑する。

Re: 遺伝子コード000±0×0 ( No.16 )
日時: 2011/06/10 22:45
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: xr1in99g)

 自分の言葉に呆れてか、エルメスは苦笑い以外出来なくなっている。

 「それに……俺は腕の立つだけの喧嘩狂だからな。 俺のことを本で気自分の見方だと思ってる奴なんて……誰一人として居ないだろ」

 ……。
 この人は、私と同じだ。 だけど、この人と私の背負う闇の大きさは、重さは……この人のほうが圧倒的に巨大で重いに違いない。
 けれど……

 「何故……そんな平然としていられるの……?」

 「そりゃ、楽しいからだろ。 信用されてなくても、俺は面白ければそれで良い」

 ああ、そうなんだ。 私とは……考え方が全く違う。 この人は、とても……前向き。

 「で、そういうオマエの過去はどうだ? 俺よりマシなことを願うが……」

 「私は……犠牲。 もうこの世に居るはずのない、死んだ人間」

 犠牲。 それは終戦後に生き残ったわずかなD能力を持った囚人の処刑のこと。 そして……殺人犯にして重罪人。
 そして、業の犠牲と称し、『処刑された』人間。
 そう、

 「私は……人殺し」

 「気にするな、殺しくらい俺もしょっちゅうだ。 昨日も二人……殺した」

 「違う!」

 エルメスの意見を一蹴する。
 そうだ、私はただの人殺しだ。 私欲に走って人を殺した!
 リアスは体が熱くなるのを感じた。 ここ数年、何も感じなかった彼女からすれば新鮮な感情。 憤怒と……後悔。
 何事においても、何も感じなかった彼女は、戸惑うしかない。 こういうときはどうすれば良い? どうやったら抑えられる?

 「私が殺したのは……そんな殺されるべきじゃない人間……」

 エルメスはその言葉に、

 「人間は殺すべきじゃないぞ」

 一言だけ、反論する。 もちろん、エルメスに言える事ではない。
 人殺しが、「殺すな」「殺すべきではない」などと述べるのは愚の骨頂とでも言うべき発言。 そして、自らを否定する発言だ。

 「何で……あなたが……」

 「そりゃ、殺しても気分よくはならねーから。 そのための酒だし、そのための喧嘩だ。 早く忘れるための……」

 エルメスはコートのポケットを探り、タバコを取り出すが、吸う事を躊躇い、ポケットの中へと押し込んだ。

 「それに……犠牲と称して自分の国を勝利に導いた人間を殺すのは……更に彼等、彼女等の業の上を行く……愚かと言うよりも恥知らずな行為。 ……さて、アンタのおかげで俺は吹っ切れた。 寝床の提供アリガトな。 俺は……この町を出る」

Re: 遺伝子コード000±0×0 ( No.17 )
日時: 2011/06/12 08:53
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: xr1in99g)

 「アクセル全開、締まってこうぜ!」

 エルメスとリアスが包丁を挟み対峙している間、「外の世界」では革命の狼煙が今正に上がろうとしていた。
 理由は簡単。 強い能力者が民間にまで広まったためだ。 
 彼は、大きな鼓動の音を辺りへ響かせ、

 「限界突破【オーバードライブ】……」

 力を溜める。 それを迎え撃つ黒服は、人間ではなかった。 ただ、人間の作り上げた人工物であることには変わりない。

 「十字脳打撃【クロスブレイン】!」

 恥ずかしげも無く、青年はその中二染みた技名を吐く。 しかし、その効果は絶大。
 その黒服は、金縛りにでもあったかのように硬直すると、その場に倒れた。
 何があったのかを周囲に理解させる間与えず、青年は次々と目の前に立ちはだかる黒服をなぎ倒す! 
 そして、彼の能力の正体。 死ぬほど簡単な力だ。 珍しい低数値、1族、『パワーアップ』系統の超特化。
 つまり、彼は相手を金縛りになどしていない。 見えない超高速、超強力な攻撃により、音も立てずに自ら攻撃しているのだ。

 「二重奏【ダブル】」
 「三重奏【トリプル】」
 「四重奏【クアドラプル】」
 「五重奏【クインティプル】」
 「歯車交換【ギアチェンジ】」

 青年の言葉と共に、なぎ倒される黒服の数は次々と増えてゆく。 そして、歯車交換【ギアチェンジ】の後、

 「限界突破【オーバードライブ】……六重打【セクスタプル】!」

 限界突破【オーバードライブ】。 彼の勢いは、止まらない。
 最初100人近かった黒服も、いまや10人ちょっと。 このまま彼が能力を完全に使い切れば、お釣りが来る。

 「七重打【セプタプル】……歯車交換【ギアチェンジ】」
 「限界突破【オーバードライブ】……八連撃【オクタプル】!……打ち止め【ストレイクストップ】」

 彼の言葉と共に、その場に居た黒服は全て、地面へ伏した。 彼はもう、止められない。
 彼が戦う理由。 それは政府への反逆行為。 そして、罪の意識から来る自主救済。
 それ以外に、彼の動く理由は無い。 能力者など、この世には要らない。 ただの兵器でしかないのだから。

 「さあ、戦争を……終わらせよう」

 青年は能力で限界を超え、ガタが来ている体を引き釣り、黒服たちの守っていた建物の中へと踏み入った。
 

Re: 遺伝子コード000±0×0 ( No.18 )
日時: 2011/06/12 15:28
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: xr1in99g)

 「無理だよ、地上に出るなんて」

 リアスが諦め口調でエルメスを引き止める。 だが、エルメスはお構い無しだ。

 「んじゃ、何でオマエは俺についてきたんだ? 無理だと思ってるんなら、オーガに食われるとしか思ってないってことだろ?」

 町唯一の出入り口である大きな鉄格子の組まれたモンを、エルメスは躊躇無く蹴破る。 ギリギリまで老朽化していたのだろう。
 錆びた破片が周囲に飛び散り、門はあっけなく彼に道を譲る。
 この城門は、外へ行くことを拒み、昔の人々が作ったものだ。 それを今、エルメスはその歴史を知らず、外との接触を望む。

 「いや……私も外へ行って見たい」

 リアスの言葉に、エルメスは目を真ん丸くして、

 「オマエ、地上の出身じゃないのか?」

 聞き返す。
 そうだ、リアスはある日突然、ここへやってきた。 地上の受刑者だとエルメスは思っていたが、ここで一気にその考えが変わる。
 地上出身で無いとすれば、一体リアスは何処の人間だ?

 「地上だよ。 けれど、私はこの世界の空を見たことが無い」

 「どういうことだよ?」

 「どういうことも、そういうこと。 ここへ来て、私は真っ先に地上へと出ようと考えたよ。 だけど、私の力ではエレベーターで地上へ昇っても、その先に居るオーガの村落で食べられてお終い。 無理なんだよ、私は戦うタイプの力は持ってない」

 リアスの諦めしかない答えに、エルメスは呆れ、

 「やってみなきゃ分かんないだろ? それに、お前一人の場合だ。 俺が一緒に行く。 如何だ、一緒に行かないか?」

 リアスの手を取り、答えを聞く前に門の外へと引いた。 そこから数歩で、地上と地下都市をつなぐエレベーターに乗り込むと、『地上』とかかれたボタンを押した。

 「ねえ、エルメスは能力を無効化するんでしょ?」

 「よく知ってるな、誰に聞いた?」

 「見れば分かるよ。 大丈夫なの? オーガはただの凶暴な人型の獣だよ……?」

 リアスの問いに、エルメスは少し黙り込むと、

 「問題ない、それ相応に貯金がある」

 静かにその問いに答える。

 「貯金?」

 「ああ、貯金だ」

 会話の最中、エレベーターが停止する。
 故障か? いや、到着したらしい。 ……地上へ。

  

Re: 遺伝子コード000±0×0 ( No.19 )
日時: 2011/06/12 16:52
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: xr1in99g)

 地上について一番最初。 彼等の視界に映ったのは、真っ白い世界。 無理も無い話しだ、今の今まで地下にいたのだ。
 如何に明かりで明るかろうと、地下は地下。 ネオン街のチンケな明りが太陽光に敵うはずも無く、彼等の目は閃光弾を受けたそれに等しいダメージを受けていた。

 「あー……懐かしい感覚だな。 4年ぶりだ、太陽の明りは」

 「何も見えない。 オーガが出たらもう駄目だ」

 リアスのネガティブ思考に、エルメスは特に気にすることも無く、

 「オマエ、自分の能力自覚してるか?」

 リアスの能力、生贄【サクリファイス】は周囲の何かを犠牲にして自分を守る能力だ。 それをコントロールできていないリアスが近くに居ると言う点では、エルメスのほうが不安に駆られていると言うのが現状だ。
 リアスはその死に掛けたような瞳で、まだはっきりとは見えない周囲を見渡す。 その時……来やがった。
 大きな咆哮。 それと共に大地を揺らす、無数の重々しい足音。
 醜い岩石のような顔、大柄な体。 そして、その手には原始的な木に持ち手が付いただけの棍棒が握られている。
 ……オーガだ。

 「リアス、俺から離れるな」

 リアスにエルメスは指示するが、彼の目はまだ完全には周囲を把握できていない。 
 サングラス買って来ればよかったかな。 いや、地下都市じゃそんな需要の無いものは売ってなかったっけ。

 「もう駄目だ、オーガに囲まれちゃった」

 「弱音吐く暇があったら何処に何匹いるか教えてくれ、それだけの情報で十分だ」

 エルメスは迫り来るオーガの一匹が、彼に触れるか触れないかの直前で感知し、蹴り飛ばす!
 その威力は、エルメスの体系から繰り出されるそれではなく、3メートル近い巨体が軽々と吹き飛び、別のオーガへ衝突し、止まった。
 蹴り飛ばされたオーガは気絶して、動かない。

 「あー……やっぱ良いわ。 目、見えてきた」

 その言葉と共に、様子を伺っていたオーガの一匹に人間とは思えない身体能力を駆使し、その間を瞬く間に詰め、その顔面をかするようにして蹴り飛ばす!
 今度は、オーガの体が後ろに吹き飛ぶことなくその場に留まった。 ただ、そのときに出た『ボギンッ』という硬いものが折れるような音。 それは明らかに、オーガの首の骨が捻られ、折られたことを告げていた。
 それを見てか、リアスも一応反撃らしいことを開始する。 自らポケットに入っていたハサミを取り出すと、髪をむんずと掴んで切ろうとする。
 すると、リアスはハサミが髪を切るか切らないかの直線でバランスを崩し、自らに迫り来るオーガの脳天に持っていたハサミを突き刺した。
 オーガはその場で司令塔を失い、リアスを下敷きにするように倒れこむが、別に襲ってきたオーガがリアスを掴み、口に運ぼうとすると共にそのオーガが倒れ、リアスを掴んでいたオーガを下敷きにする!
 そう、リアスの生贄【サクリファイス】は、自分で髪を切ることすらままならない。 ひとたび髪を切ろうとすれば、洗面所がガラスの破片とハサミの切り後だらけになる。

 「漫画みたいだな……。 よっしゃ、このまま森突き抜けるぞ、リアス!」

 「無理だよ。 私なんか時々運がいいだけだ」

 「じゃあその時々を連発しろ、問題ない!」

 

Re: 遺伝子コード000±0×0 ( No.20 )
日時: 2011/06/13 20:50
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: xr1in99g)

 森の中、オーガを打ち倒し進むこと数分。 運が良かったらしい。
 森の規模が、狭まっていたらしい。 すぐに森から外れ、目の前には大きな町が見える。
 大きな城壁に囲まれた城下町。 エルメスの記憶が正しければ、アンダー一番近くにあったとされているエルニドだろう。
 太陽光が反射し、時計塔が光ってよく目立つ。

 「うん、案外平気だったな。 リアス、取り合えず……腹ごしらえだ」

 「私、お金あんまり持ってきてない」

 「あー、じゃあ俺のおごりで。 取り合えずオマエは髪の毛如何にかしろ。 この際麻布でも何でもいいから。 束ねろ、戦闘の邪魔になるだろ」

 エルメスの言葉に、リアスは投げやりに、

 「髪を締め上げるに分類されるらしくて、別のものに巻きついちゃうんだよ……」

 言い放つ。
 成程、ここまで髪が伸びているにもかかわらず束ねない理由はそれか!
 エルメスは勝手に納得し、適当な店に入る。 そして……

 「おっちゃん、取り合えず酒!」

 言い放った。
 それを聞いて、店主は顔をしかめ、

 「オマエさん……地下アンダーの人間かい?」

 エルメスに問う。 もちろん、

 「ああ、そうだ。 俺は追放者だが……何か文句はあるか?」

 エルメスが逆に問う。 すると、返って来た反応は意外なものだった。
 それに答えたエルメスに、店主は銃を向け、

 「この野蛮人が、うちの店に何の用だ?」

 それを聞いて、エルメスは呆れたような表情を浮かべ、

 「野蛮人って言うね。 俺は丸腰、オマエは銃。 どっちが野蛮人だよ。 それが客に対する態度かい?」

 エルメスは呆れた表情のまま手を伸ばし、店主の手にある住のリボルバーを抑え、

 「何時の間に地上はこんな野蛮な所になったんだ? 俺が地上に居た頃は銃を人間に向ける奴は兵隊か警察に限られてたぞ?」

 その握ったリボルバーをそのまま握りつぶす!
 店主は驚いた表情と共に腰を抜かし、その場へ座り込む店主を見下ろし、

 「リアス、店変えよう。 この調子だと毒盛られそうだ」

 その場を後にした。

Re: 遺伝子コード000±0×0 ( No.21 )
日時: 2011/06/13 23:34
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: xr1in99g)

 「エルメス、どうするつもりなの? 地上に出てきて、こんな所でジュースなんか飲んでたら反逆行為なんて出来ないし、政府壊滅なんて夢のまた夢だよ」

 「そー慌てんなって」

 エルメスはオープンカフェでコーラを口にする。 一方、リアスはハンバーガーをほおばり、エルメスをその死んだような目で注視する。

 「ちょっと、良いかな?」
 
 そこへ、一人の女が割り込んでくる。 まあ、自然な流れだ。
 椅子は三つ。 あいている席は一つ。そして、他のテーブルは全て人が居て、空いている椅子もあるが、彼女とは余りに年が離れすぎた老人が殆どを占めている。

 「ああ、どうぞ」

 「うん、私のことは気にしないで」

 「アリガト」

 彼女は許可を取ると同時に、腕に抱えていたその大きなメロンパンをほおばった。 普通に、食べ切れそうに見えない量のメロンパン。
 彼女はその長い金髪がメロンパンにへばりつかないよう、大きなリボンで束ねるとリアスの方を向き、その死んだような瞳を覗き込む。
 まるで、面識があるかのような視線で。

 「どした?」

 エルメスがハンバーガーをくわえ、問う。 だが、その問いに彼女は「なんでもない」というように首を振る。
 だが、明らかにその視線はリアスを知っている者のそれだ。

 「リアス、知り合いか?」

 「いや、違うよ」

 金髪の彼女がその問いに答える。

 「今度の犠牲で使われる子供のリストに彼女そっくりの子供が居てね、姉……じゃないよね? 黒髪だったし」

 その問いに、リアスはしばらく黙り込み、

 「私に姉妹は居ない」

 小さく呟く。

 「ねえ、君たち名前は?」

 金髪の彼女は、リアスの問いを聞くと考え込み、更に問う。

 「俺はエルメス。 そいつはリアス。 アンダーの住人だった」

 「だった?」

 「ああ、オーガの森を抜けてアンダーから4年ぶりに地上へ出てきたんだ。 まだ少しまぶしいが、目はある程度なれた」

 その予想外の答えに、彼女は少し考え込む。
 それが事実であれば、この二人は国軍の一個小隊並みの戦力と同等の力がある。 いや、この二人にはかすり傷すらない。 一個小隊どころではない。 中隊レベル……?
 何にしろ、強いことに変わりは無い。

 「そういうお前の名前は?」

 「私は……イリス。 イリス・バベロ。 D能力者だよ」