ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ─復讐人間─ ( No.1 )
- 日時: 2011/06/04 23:09
- 名前: テントウムシ (ID: BZFXj35Y)
「‘認められぬ者’は‘認めさせる者’に変化する。だが、認めさせるにはどうすればよいか。人間は無知で鈍感な生き物だから理解できぬ。しかし我々は、奴らとは違い理解して感じることが出来る。」
目の前に広がる、ネオンで輝く12月初旬の東京。道を蠢く、小さな車の光。豪壮に聳え立つ東京タワー。
高層マンションの屋上で東京を見つめる、1人の男性─────。
成人の日に両親から貰ったスーツとネクタイと靴,誕生日に彼女からプレゼントされた腕時計と靴下,人生で一番大切ともいえる友人が託したツーショットの写真が入ったロケットペンダント。
僕が身に付けている全ての物は‘彼らの欠片’だ。
「前田殿、そろそろ時間です。」
東京を見渡す前田翔太の後ろには、黒いジャージを着て、腰に回転式の拳銃を4丁装備している若い男性がいた。
「………そうか。それでは、同志たちよ。我々の存在と伝説を刻みに行こうじゃないか。」
「最高だな。まさか、こんな日が来るとは。」
「そうっすね〜ぇ。クズどもをが恐怖で逃げ回る光景が目に浮かぶっす。」
「ヒヒヒッ……早く殺したいぜ。痛めつけて痛めつけて、奴らに苦しみを味あわせよう。」
「私は前田様に従いますよ。無駄な行動は、自分の命取りになるからな。」
前田の後ろに現れた総勢5人の人影は、それぞれの思いを口ずさむと、目の前に立つ前田を見る。
同じく前田も5人の顔を見ると、ニヤリと不気味に微笑み、夜空に浮かぶ満月を見上げた。
「まずは‘金’だ。そのあとは‘権力’。そして……‘力’だ。」
* * * * *
『今日の午前3時ごろ、都内の某銀行4店で銀行強盗の被害を受けていることが判明しました。被害額は4店合わせて総額10億円と見られております。各銀行に設置されていた監視カメラは全て破損しており、警察では犯人によるものと見て捜査をしております。なお、犯人については情報が少なく捜査は困難を極めている模様です。警察は早朝より、都内の約100ヶ所で検問を始めていますが、今のところは新しい情報は入っておりません。では、続いてお天気予報をお伝えします。』
国内最高被害額の銀行強盗事件で盛り上がる、馬鹿な若者達。
または客観的に見て、防犯対策や警察が無知だとか意味がないとか評価している、クズな大人達。
俺も、そんな人間の1人だった。
「凄いよな。一晩で4店も強盗に遭うなんて。」
「うん…それも10億円って……強盗も強盗で、相当のプロなんだろうね。」
リビングで学生服のまま朝飯を頬張る2人の兄妹。テレビを見て、自分達には関係ないと思っているのが当たり前。
東京都内に住む横山兄妹。兄の真弥は高校2年生で、来月には生徒会長となる。妹の鈴音は中学3年生で、空手黒帯を持つ最強の妹。2人に両親はいない、その理由は3年前にある。
真弥が中学を卒業し、鈴音が中学生になったその年に2人の両親は死んだ。死因は事故死だった。
鈴音の中学入学式に向かう途中の2人は、信号を待っていたところを、居眠り運転で突っ込んできた大型トラックに追撃された。そのまま2人を乗せた車は反対車線に進入し、向かってきた観光バスに衝突。車は鉄の塊に変わり、2人の遺体は残っていないと言っていいほど損傷した状態で発見された。真弥達が両親の死を知ったのは、中学入学式が終わった後であった。その後は祖父母の家に引き取られ、真弥が高校生になりアルバイトを始め、安い賃貸で兄妹と暮らしている。
「んじゃ、私先に行くね。」
「おう。気をつけてな。」
鈴音は真弥より一足先に食器を片づけると、鞄を持って足早に玄関へと駆ける。
「あっ!食器は水につけといてね。行ってきまーす!!」
「はいよ。行ってらっしゃい。」
鈴音が出て行ったと同時に食べ終わった真弥は、時間に余裕があるためテレビを見続ける。
テレビでは天気予報が終わり、再び銀行強盗のニュースが始まっていた。
「それにしても、本当に強盗凄いな。外国の奴らか?」
真弥が独り言を呟いた瞬間だった。画面内のアナウンサーが慌ただしくなり、1枚の紙をスタッフから受け取った。
『今お伝えしました銀行強盗についての新たな情報が入りました。4店の銀行の内、松原銀行のある通り沿いのガソリンスタンドに設置された監視カメラに犯人グループと思われる集団が、銀行方面に歩いていく様子が残っていた模様です。検証の結果、犯人の人数は6名であり、今もカメラの検証が行われており、5時間後には犯人の顔が特定できると警察は、都内某ホテルで行われている記者会見で発表しました。』
真弥はニュースを見ると大きなため息をついた。
「な〜んだ。結構早く解決しそうじゃんか、つまんないの。」
真弥は立ち上がるとテレビの電源を消して玄関へと向かう。
リビングの隣にある部屋に入ると、そこには大きな仏壇があり、笑顔で写る家族4人の写真が飾られている。
真弥は仏壇の前に座ると合掌した。
「父さん、母さん。行ってきます。」
真弥は写真に向かって言うと、鞄を持って家を出て行った。