ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ─復讐人間─2話UP ( No.2 )
- 日時: 2011/06/05 17:47
- 名前: テントウムシ (ID: BZFXj35Y)
「ん〜……お金の香りは、いつ嗅いでも素晴らしい香りだ。そこらの高級アロマよりも、綺麗で清純な花よりも美しい存在であるし、何よりも紙きれに価値があるという部分が魅力的ですね。」
どこかのホテルの一室だろう。ベットの上には、溢れんばかりの札束が広がっていた。赤い絨毯が敷かれた床も、ほとんど札束に埋まっている状態である。
緑色の眼鏡をかけてスーツを着ている男性は、札束を手に取り香りを味わっている。
「相変わらずキモいな、クソ紳士野郎。」
罵声を男性に飛ばしながら現れた黒いコートを着た男性は、鋭い目つきで睨みながら言う。
「おやおや、容姿は貴方の方がエグイと思いますが。司馬狼一郎君。」
キリッとした顔つきに以上に伸びた糸切り歯、鋭い眼光が特徴的な司馬狼一郎は眉間に皺を寄せる。
ポケットに突っこんでいた両手を出すと、鉄爪のついた特注のオープンフィンガーグローブを装備していた。狼一郎はグローブに付いた鋭い鉄爪を男性の首元に向ける。
「てめぇは気に喰わねえ。前田が了承してなかったら、俺が殺してるところだぜ。」
「ふふふ。貴方達は私がいないと、‘権力’を手に入れることが出来ないでしょう。その爪をポケットに戻すことをお勧めしますよ、狼少年。」
「…………大体、総理を護衛しているSP野郎が、どうして前田と接点を持ってんだよ。」
狼一郎は両手をポケットに戻し、札束の乗ったベットの上に座る。
見た目からは想像できないが、総理のSPという来栖・M・アーチボルト。イギリスの血が混ざった彼はイギリス生まれの日本育ちであり、そのため日本語は達者だった。
来栖は持っていた札束を床に投げ捨てると、スーツを着なおして眼鏡を掛け直し、狼一郎に一礼をする。
「それは内緒です。防衛省の長官と会食の予定が入ってましてね。また後日、会いましょう。」
「っち!さっさと行け、エセ紳士が。」
狼一郎の罵声に来栖はニコリと微笑むと、部屋を後にして出て行った。
と同時に、2人組の男性が部屋の中に入ってきた。
「司馬先輩、次のお仕事の時間っすよ。」
小柄で、恐らく中学生と思われる青年が狼一郎に言う。
黒色の無地のパーカーにジーンズというラフな姿をした黒尾卓志は、輝きを失った生気のない目で狼一郎を見ながら、子供さながらの無邪気な笑顔を見せる。
しかしその笑顔には純粋さが欠け、何か黒いモノを感じるオーラを放っていた。
「仕事の時間って……俺らは見物だろう。動くのはサンウォンだけだろ。」
「見物じゃねえよ。サンウォンが下手な真似をしない様に360度の方向から監視する。」
「……つまらねえ仕事だな。殺しさせろよ。」
卓志の隣立つ、腰に日本刀を6本も付けている花園竜登は、狼一郎の独言を無視すると窓から外を見た。
竜登の目線の先には、東京に建つ警察の中枢と言っても過言ではない建物が建っていた。
「ショータイムだ。警視庁で大きな打ち上げ花火を見ようじゃないか。」
竜登はそう言うと、狼一郎と卓志と共に札束で埋もれた部屋を出て行った。
* * * * *
警視庁─────
今週の警視庁の建物全体には、重い空気が延々と漂っていた。
どの課も忙しく動いており、廊下で普通に歩いている捜査官等いない。資料片手に足早に歩く警視庁本部の管理官である次屋重之助。キャリア組出身の彼は、今回の組織全体で捜査している事件の担当を務めていた。
その事件は他でもない、前田一派が起こした事件だった。
「都内連続銀行強盗10億円強奪事件」
国内最大の被害額。響はそこまでないが、教科書に載るほどの大事件には発展していた。
次屋は資料を見ながら、捜査本部の設置されてある会議室に入る。
会議室の中にはほとんど捜査員はおらず、前の管理官席に数人の人間がいるだけだ。
「管理官、お疲れ様です。」
「あぁ。それで、例のガソリンスタンドのビデオテープの検証は終わったか?」
「もう少しだそうです。1時間以内には終わりますし、会見までには間に合うでしょう。」
「そうか。何か分かったことはあったか?」
次屋が強面の体つきの良い捜査員である芳賀剛史に聞くと、芳賀はホワイトボードに1枚の写真を張り付けた。写真にはどこにでもいる様な、スーツを着た男性が映っている。
次屋は首を傾げながら写真に顔を近づけて芳賀の方を向いた。
「彼は強盗の被害に遭った4店の内の中央銀行で勤めていた銀行員です。調べた結果、彼は事件の前日に仕事を辞職しております。理由は分かりません。」
「……で、この銀行員の現在地は?」
「問題はそこです。自宅に足を運んだんですが、辞職した日に妻と離婚しているのです。実家にも目星の付く友人の家にも捜査員を派遣したのですが、彼はどこにもいません。」
「この銀行員が、少なくとも事件の鍵を握っているのは間違いなさそうだな。」
次屋は頭を掻き毟りながら、かけていた眼鏡を外すとホワイトボードを見渡す。
色々と事件の詳細や資料が張り巡らされたボードを見渡すと、次屋は一言つぶやいた。
「今回の事件、何か嫌な匂いがするな。」
この次屋の予想は、すぐに当たることになるのだった──────。