ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 最後の審判 キャラクター募集 ( No.3 )
- 日時: 2011/06/05 16:58
- 名前: ショウタロー ◆mOYvzARW6k (ID: d.8YONjT)
第一話
森の中を伊原は無我夢中に、がむしゃらに走る。後ろにはイヌのマスクを被った男が伊原を追いかけている。
「なんで、なんで……なんでこんな事に……」
僕が一体何をしたっていうんだ。伊原はこの状況に苛立ちを覚えた。自分をこんな目に合わせた人間が目の前にいるならば、躊躇なく殺せるのではないか。すでに限界を超えている身体に鞭を打ち、伊原は走り続けた。
イヌマスクの男は疲れていないのだろうか、執拗に伊原を追いかけ続けていた。
呼吸は乱れている、足は震え、意識は朦朧とし始めていた。伊原にはあまり体力が無かった。
「!?」
地面に突き出ていた木の根に足をとられ、伊原は転び、地面に叩きつけられた。疲れと身体の痛みで、立ち上がる事ができなかった。
イヌマスクの男は倒れた伊原の背中を踏みつけ、手に持っていたチェンソーのエンジンを点けた。伊原の耳元でチェンソーの電動音がなる。抵抗する間もない。もうだめだ。尿をちびらせながら伊原は、目をギュッと瞑り、地面に生えている草を掴んで、覚悟をした。
イヌマスクの男がチャンソーを振り下ろす。伊原は唇を噛み締めた。頬には涙が流れていた。下半身は尿で大洪水だった。
なかなか男は伊原を殺そうとしなかった。……。伊原は背中が踏まれている感覚が無い事に気付く。そういえばチャンソーの電動音もしていない。
恐る恐る体を起こし、後ろを見てみると、そこには倒れ込んでいるイヌマスクの男と、それを踏みつける少女が居た。混乱気味に伊原は少女を見つめた。少女はショートカットで、背が低かった。
「……」
視線に気付いたのか、少女は真ん丸な瞳で伊原を見つめる。リスみたいな顔だった。リス顔の少女は急に目を三日月の形にして、くすくすと笑い始めた。
「漏らしたんだね」
いや、哂った。
伊原は顔を真っ赤にした。
「これ、着ときなよ」
少女はハーフコートを伊原に渡した。
「いいの?」
「着ときなよ、それじゃあ恥ずかしいでしょ?」
伊原はありがとうと呟いて、ハーフコートを着てズボンの染みを隠した。ハーフコートのサイズは少し大きめだった。少女の物にしては大きすぎだった。
「君の?」
「いや、コイツのだよ」
「えぇっ!?」
少女は地面に転がっているイヌマスクの男を爪先で突付いた。男は既に息絶えていた。伊原は死体と、死体の衣服を身につけている事に吐き気を催し、すぐにハーフコートを脱いだ。
「あ、脱いじゃうんだね」
「こんなの着れるか!」
伊原はハーフコートを死体に被せ、そして少女を化物を見るかのような目で見た。少女はおかしい。何故、簡単に人を殺せて、そして平然としていられるのか。罪悪感とか、感情はないのか。
そんな伊原の考えを読み取ったかのように、少女は呟いた。
「言っとくけど、感謝されこそすれ、怖がられる筋合いなんてないからね。アナタはマミに助けてくださいって頼んだわけじゃないけど、死にたくないとは思ってたでしょ?それをマミがどんな形であれ叶えたんだから、怖がらないで欲しいな」
少女は死体のそばに落ちていたチャンソーを拾った。
「それに、アナタとマミが同罪って考え方も出来るんだからね」
少女の真ん丸な瞳と、伊原の垂れ目な瞳が見詰め合った。
「アナタが襲われてなかったら、マミはコイツを殺してなかった」
少女はニッコリと笑って、チェンソーを伊原に無理やり持たせた。
「と、いうわけで、マミの名前は堺真美子。気軽にマミって呼んでね。アナタの命はマミが助けたんだから、マミの物。一緒に行動してよね」
マミは親指を立て、ウィンクをした。
「……え?」
状況についていけず、伊原は素っ頓狂な声を上げた。
「ほら、君の名前!マミが教えたんだから、君も教えてよ!」
「え、あ、伊原……清彦」
「よろしく伊原!」
冗談じゃないと伊原が言う前に、マミは伊原の腕を引いて、走り出した。
「それじゃあ、狩りに行こうか!」
「ええぇぇぇええ……」
マミの力は強く、伊原は抵抗することができなかった。