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- Re: Omerta-オメルタ-[我が愛しき悪の世界より]1話更新 ( No.36 )
- 日時: 2011/07/17 22:35
- 名前: 凡(ぼん) (ID: w/qk2kZO)
一章二話 [ ロッソの晩餐会 ]
「うがああああー、お腹すいたー、メシー!!」
ヴィータがテーブルの端にフォークとナイフを連続的に叩きつける。
「ふふふ…よしよし、あとちょっと我慢してください。ボスが帰ってくるまで一緒に待ちましょうね」
マッローネはヴィータの隣で、苦笑しながら彼の頭を撫でる。
「ヴィータ、意地汚い。——−…それにしてもボス、たしかに遅すぎですね。何かトラブルに巻き込まれたんじゃなければいいですけど…」
カステッロはため息交じりにそう呟くと、眼鏡をくいっとあげた。
此処はイタリア郊外のとある高級レストラン。
奥のVIPホールを貸し切り、ロッソファミリーの幹部の3人…ヴィータ・モルテ・カヴァリエーレ、マッローネ、カステッロ=メネストレッロが円卓のテーブルの席についている。
純白のテーブルクロスに赤い絨毯。老舗の有名レストランであり、予約必須のこの店で晩餐会をしようと言いだしたのはロッソファミリーのボスである、トレモロであった。
もともと、多忙な幹部を一定の時間に集めるということは難しい。
しかし、トレモロは「せっかくのファミリーなんだからご飯くらい一緒に食べるだろ!?」というなかば強引な持論を持ち出しては、たまにこうして幹部たちと晩餐会を開いているのだ。
当然、主催者であるトレモロが一番に席に着かなければならない。
彼も、最低限のマナーは守っているようで、晩餐会に遅れることなど過去に一度たりともなかった。
…が、今夜は違う。
もう既に、あらかじめ決めておいた集合時間から約一時間ほど経っている。
今夜の晩餐会の為に思う存分、腹をすかせて来ていた幹部たちのしびれも切れる頃だった。
「まだまだまだぁー!?もうハラペコなんだって!!飢え死にするっつーの!」
ヴィータが足をじたばたさせた。その振動でテーブル全体が揺れる。神経質なカステッロはヴィーダに静止を求めた。
「あと少しの辛抱でしょう?これくらいのことで騒がないでください、ヴィータ。それと、飢え死になんてどうせキミには『できない』でしょう?」
カステッロは再び眼鏡を片手で触ると、ふうっと溜め息をついた。その姿を見遣り、マッローネも眉をひそめながら笑う。
そして、この3人の中では最年長のマッローネは大人びた口調で二人に言った。
「そうですねぇ…。ボスにかぎってイベント行事を忘れることなんてあり得ませんし…、ちょっと胸騒ぎがしますね。おれ、見に行ってきましょうか?道に迷っている可能性もあります」
彼はその茶髪を揺らせ、そっと席を立ちあがる。カステッロもヴィータも、それが賢明であると感じたのだろうか、何も言わなかった。
「じゃあ、ちょっと近場を詮索してみますね」
マッローネが控えめに微笑み、そう言うと、カステッロは「すまないな」と声音を濁して答えた。ヴィータはあいかわらず飢えに耐えるように頭を抱え、唸っている。
そして、事情を話そうと、マッローネがドア付近にいたメイドの一人を呼ぼうとしたときだった…———
…ガタンッ——————————ドスンッッ!
「んん?」
何かが落ちてくる音、と鈍く打ちつけるような音。最初に気付いたのはヴィータであった。
一瞬揺れた円卓テーブル。ヴィータは疑問に思って、テーブルにかけられた純白のテーブルクロスを下からめくりあげる。そして、上体を傾け、かがみこんでテーブルの下を見る。
そこに在ったのは———…
「よっ、ヴィータ」
眼帯の少女———ローザ=ペスコを姫だっこで抱え込み、片手をヒラヒラと振りながら満面の笑みでヴィータに向かい合う男…トレモロの姿があった。
「うおおお!?って、なんでボス!?」
ヴィータは驚いた拍子に態勢を崩し、椅子ごと絨毯の上に放り出される。マッローネとカステッロは彼の叫び声でようやく何者かの気配を直感して一瞬で、ヴィータと同じようにテーブルクロスをめくった。
「おー、カッスーにマロたんじゃん。おっひさー☆」
「「は?ボス!??」」
思わぬところからのボスの出現に驚きを隠せなかった二人の声が綺麗に合わさる。
そしてひとり悠然と軽快に笑うトレモロはのそのそとテーブル下から這って出て行った。
彼は抱え込んでいたローザをテーブルに付属されている大きめの椅子に座らせると、自身もかったるそうに椅子に腰かける。
見た目からしてチャラそうで軽薄そうな彼は、足を組むと、眉をひそめて両手をあげた。
「ん?なんだ?オレに会えて嬉しくないのか3人とも?歓迎が薄いぞー」
トレモロはケラケラを笑うと、床に転がっているヴィータに手を貸した。
「ああ、そういやすまんね、遅刻しちゃってさー。みんな腹が減ったろう?ディナーにしよう。ほらほら、カッスーもマロたんも座って、座ってー」
「ボス、いつも思うんですが…」
「ん?なんだ?」
「急に出てこないでください!!それも変な場所から…ッ!」
カステッロは眼鏡をかけなおすと、トレモロに抗議した。トレモロはあははーと笑いながら片手を後頭部に回し、自嘲の様子を見せる。
「そう怒んないでよ、カッスー!…オレのオメルタ≪異能力≫、扱いにくいんだもん。仕方ないじゃーん」
トレモロはハッハッハと笑うだけだ。その悪びれない様子にローザ以外の幹部3人が一斉に大きなため息をついたのは言うまでもない。
- Re: Omerta-オメルタ-[我が愛しき悪の世界より]1話更新 ( No.37 )
- 日時: 2011/07/17 22:35
- 名前: 凡(ぼん) (ID: w/qk2kZO)
だが幹部たちの冷たい視線を受け、さすがに彼も懲りたのか、トレモロは笑いやめると目を閉じた。
そして右手を頭上にあげると…
———————パチンッ!
…指を鳴らした。すると、トレモロの右肩上にすーっと漆黒のもやが湧き始める。ぐるぐると渦巻き、それはブラックホールのような、底の知れない空間となる。
彼はいたって普通にそのぽっかり空いた深淵に手を伸ばし、何かを探るように腕を動かすと、「あー、あったあった」と呟いて腕を引き上げた。
彼の手が完全に抜けると、その空間は薄れ、しだいに消えてゆく。蜃気楼となって揺れ、しばらくすると辺りの風景に紛れてしまった。これを消失、というのだろうか。
トレモロは深淵からつかみ取ったモノをテーブルにガタン、と置くと自慢げに「どうだ!」と言い放つ。
「ほら、これ!めったに手に入らないと噂される年代物のレアワイン!しかもロゼ!諸君らとの晩餐を飾るには最高の飲み物だろう?どうだ?これで許してくれるか?」
テーブルに置かれたソレは、2本の高級赤ワインであった。
確かに、彼の言うとおりそのワインは名家のもので、売っている店も少ない。それに加えて値段も相当なものだろう。
滅多にお目にかかれないソレに、ヴィータが目を輝かせる。
しかし、カステッロとマッローネの二人は同時に眉間にしわを寄せた。
「もしかして…また盗んできたんですか?」
マッローネが叱るような口調で問い詰める。
「ボス、まさかそれが理由で遅れてきたわけじゃないですよね?」
カステッロが目を細めて静かに言う。
トレモロは図星だったのか、笑顔のままであったものの、両方の問いにピクリと身体を震わせた。
「あっれ?」
その時、ヴィータが何かに気がついたのか、ワインの一本を手に取ると、くんかくんかとワイン全体を嗅ぎはじめる。
「コレ…モストロファミリーのボスの匂いがする——…あと、」
ヴィータはワインをテーブルに戻すと、今度はトレモロに抱きついた。
「うっわ、何すんだヴィータ!」
「うーん…?ボスの身体からは硝煙の匂いがする…——硝酸カリウム…木炭…それと硫黄。花火…?いや、違うな、これは——…」
「お前は犬かッ!」
トレモロが無理やりヴィータを剥がそうとする。しかし、ヴィータは匂いの解析に夢中になって離れない。
その様子を見つめるカステッロはヴィータの言ったキーワードに反応する。
「——…確かに、花火の主な材料ですが、今夜は大雨でした。——ボス、もしかして」
カステッロが先に結論を言う前に、ヴィータが大声で叫んだ。
「ああ、思い出した!これ、爆弾の匂いだ!」
判明される事実。トレモロは苦虫を噛み潰したような面持ちで片手で髪をかきあげると、ふぅっ…とため息をついた。参った…というような表情である。
ヴィータの言葉にマッローネの顔色が蒼白になる。カステッロは当たってほしくない予想が当たった…と、瞳を伏せて眼鏡をあげた。
トレモロはいたしかたなくヴィータをそっと離すと、バレてしまっては仕方ない…といったように3人を正面で見据えて、話し始める。
「いや、たまたま爆発テロに巻き込まれただけだって。なんも心配する必要はねーよ。ほら、この通り、傷一つ負ってないから、オレも、ローザも」
トレモロが両手を上げる。そしてローザも静かに頷いた。しかしマッローネは納得いかないと問い詰める。
「ですが…そのワインからはモストロファミリーのボス——…ユンの香りがついていると。もしや…」
「マロたん、お前は心配しすぎ。——…これは、たまたまワープして爆破の衝撃から逃げたときに入ったホテルにユンが泊ってたから、ちょっとイタズラ代わりにワインをパクってきただけ。爆発とはなんも関係ねーよ」
「そう…ですか」
マッローネは相変わらず不安な表情を残している。彼がいつも持ち歩いている聖書をぎゅっと握りしめていた。
一方カステッロはその会話を聞きながら、じっとトレモロのほうを窺っていた。それにトレモロは気付いて、ヘラヘラと笑いかける。
「オレを心配してくれんのは嬉しいけど、ホントになんもねーから。…オレの言葉が信用できないっていうなら、ローザに聞いてみるか?この子は、嘘はつかない」
「いえ、結構です。時間の無駄でしょう。貴方のおっしゃったことは99%は真実でしょうから」
カステッロがおもむろに呟く。トレモロはその揺るぎのない言葉に拍手した。
「さすが、ロッソファミリーの頭脳のカッスーだね。物わかりが早くて助かるよ。——…説明しなくても、わかるんだろ?お前には、オレの『心の中』も」
「いえ、そこまでは。…僕の力は、貴方には通じませんから」
「それって誉め言葉?」
「事実を述べただけです」
カステッロはそう言うと、改めて席に着く。そしてマッローネやヴィータの方を向き、静かに目を遣った。
「そういうことです。本人も無事だと言っていますし、これ以上は本当に時間の無駄でしょう。僕はこの後、用事がありますので、予定通り晩餐会をするのなら早く終わらせたい」
カステッロがいささか冷たい口調で唱える。マッローネは最後の最後まで不安な表情を崩さなかったが、その言葉に苦笑し、席に着いた。
ヴィータも「やったー、やっとご飯食べれるー♪」とはしゃぎながら席に着く。
円卓テーブルにロッソファミリーの幹部、およびボスが席に着き、やっとのことで全員がそろう。
「まぁ色々あったが、そろそろ始めるかね———…晩餐を!」
トレモロの合図でメイドが部屋に食事を運んでくる。こうして、ロッソファミリーのメンツは集結した。
--—…そして、このメンバーで行われる『最後の晩餐』が、始まった。