ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: death、kill。 ( No.1 )
日時: 2011/06/12 15:10
名前: 玖龍 ◆7iyjK8Ih4Y (ID: ZTrajYO1)

0.序章


——ぽつん。
空の流した大粒の涙が上をむいたボクの頬を伝って地に落ちる。
嗚呼、この世界は何て残酷なんだろう。
見上げた灰色の空はちっぽけなボクを、ボクの心を蝕んでいくようにししとしとと、ボクに当たって地に落ちる。

真の涙だ。

壁に描かれた英語も、地に落ちた涙も、塵の山も、地に広がる深紅の液体も、全てがかすんでモノクロになっていく。
——なんでボクは、逆らえないんだろう……。
地に目を落としたボクを襲う自己嫌悪。

「もう、駄目だよね」

呟いてみる。

「ごめんね。ボクは——……」

続きを言うのが怖くて、僕は口を閉じた。
目を閉じる。
ボクの愛した人。ボクのモノクロの人生に色をつけてくれた唯一人の愛しい人。
手ににぎったままの血のついたナイフも、ボクの隣に横たわっている、心臓に大きな穴が開いたあの子も、全部嘘だったらいいのに。全部、全部幻で、夢だったらいいのに。
夢なら、サメロ。

「……戻ろう」

何分か自己嫌悪と戦った末に、ギブアップをしてボクは立ち上がった。
誰が許してくれるだろうか。
ボクの罪を。上に逆らうのが怖かったちっぽけなボクを。
誰も、許してくれないから。

ごめんね、ともう一度呟いて、ボクはその場を後にした。



魔術が進化した今では、もう地球に戻ろうなんて人は一人もいないだろう。ボクらの住む世界では、全てのことを魔法で、魔力で行うことができるのだから。
宇宙に水ごと浮かぶ五つの島。その島では今、闇の勢力が強まりつつある。
理由は誰にもわからない。けれど、失われつつある魔力を何とかするための計画を実行に移したのは、闇の国の組織に変わりはない。
その名も、〝人間絶滅計画〟。
自分から魔力を生み出さないのに、魔力を使う人間を絶滅させれば、使う魔力が減る。
各国でこの計画が実行された。魔力を持たない者は全部、殺された。

ボクは、最愛の人を、さっき殺した。
やっぱり皆、自分の命が失われるのが怖いだけなんだね。
自分のぶんの魔力が失われるのが怖い。
だから——……。

ボクは——

そこに闇の組織が居るような目で空を睨んだ彼に迷いはなかった。



死ぬ、殺す。
どちらを選ぶかは、自分しだい。