ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 世界が壊れゆくとき〜The Ability〜 ( No.1 )
日時: 2011/06/13 19:40
名前: みすたー・えっくす (ID: BZFXj35Y)

「遊也、あの光何?」


彼女のその一言が、僕達の運命を変える始まりだったのかもしれない。
僕はワインの入ったグラスをテーブルに置くと、立ち上がってベランダにいる彼女の由紀の元へ行く。
由紀はまるで、不思議な物を見るかのような表情と目で一点を見ており、僕もその方向を見る。
マンション8階から見下ろすイルミネーションで彩られた東京の夜景は、絶景中の絶景といっても過言ではない。目を凝らせば、小さな車の光が忙しく道を動いている。
「あそこだよ、ほら、あそこ!!」
由紀は僕の腕を引っ張り、ちょっと離れた所に立つ高層ビルと高層ビルの間付近を指差した。
確かに見てみると、ビルの間にイルミネーションではない‘謎の真っ赤な光’が見える。
ここからは真っ赤の光までの距離は結構離れている。なのに、こちら側から見ても、その赤い光がどれほど強く発光しているのかが覗えた。最初、僕達には赤い光の正体が分からなかった。

「待って。スカイツリーの一番上、あそこも赤く光ってる!!」

視界を少し左にずらすと、そこには完成したばかりのスカイツリータワーが見える。そのスカイツリーの一番上も、先程の場所と同じく赤い光が発光をしていた。
「嘘!!向こうも光ってない!?え……あ、あそこも………」
この時、僕と由紀が見た赤い光の数はざっと数えて約20数個。真冬の夜の東京のあちこちで、謎の赤い光は確認できた。
「なにかのイベントじゃない?花火でも打ち上げるんじゃないの?」
「……遊也、怖いよ……………」
なぜか、由紀は震えていた。それは寒さや高さのせいではない。
細い白い手が、僕の腕を弱くも強い力で掴む。その、直後だった。



ボォォォォォォォォン!!!!!!



       ズゥゥゥゥゥウゥゥゥゥゥン!!!!!!



  ズドォォォォォォォォン!!!!!!



鼓膜を突き破る様な爆発音が聞こえた瞬間、僕と由紀の顔に熱風が襲いかかった。
「きゃぁぁぁぁぁ!?」
「由紀!!!!部屋の中に!!!!」
僕は‘何か’の危険を察知し、由紀の手を引いて部屋の中に戻った。

その瞬間、激しく横に揺れる地震が襲いかかった。

リビングに置いてあるテレビは床に勢いよく倒れ、キッチンの方からは皿やコップが割れる音が響き渡る。
「ちょ、ゆ、由紀!!おいで!!」
僕はパニックになりながらも冷静さだけはしっかりと保ち、由紀の手を引いて自室に掛け込む。
揺れに倒されない様に壁を伝い、由紀をベットに座らせると布団を被せた。
最早、最善の策はそれしか思いつかなかったのだ。
揺れは時間が経つたびに大きくなり、僕はとうとうバランスを崩した。
「うわっ!?」
直後、観音開きのタンスもバランスを崩して、運悪く僕の目の前に倒れてくる。

「う、わぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!!」

そこで一旦、僕の記憶が途切れてしまった。








───────「……うや…………ゆ……や…………遊也!!!!起きてよ!!遊也、起きて!!!!」








聞き覚えのある声で、僕は目をゆっくりと開けた。
身体にはタンスが僕の数倍の重さはあるタンスが乗っかり、目の前には涙目で僕の名前を何度も呼ぶ由紀の姿が。
「由紀……大丈夫?」
「わたしは……大丈夫だよぉ…………でも、遊也の頭から血が……」
僕はかろうじで動く右手を、自身の頭に伸ばす。血は頭からでなく、額から流れている。だが、少し切れているだけだ。
僕は両手でタンスを少し浮かせると、その間にタンスの真下から抜け出した。
と、その瞬間に由紀が抱きついてきた。
「うぅ…もう怖くて怖くて……心配したよぉ…………」
「怪我はない?」
「うん。地震も止まったし、さっきの赤い光も消えちゃった。」
由紀の手を握って立ち上がると、自室からベランダに出た。外はまだ暗い。気絶していた時間は短かったようだ。
だが、明らかに気絶前とは光景が違っていた。

「真っ暗だな……赤い光も消えてる……」

先程までイルミネーションで輝いていた夜景は一変し、東京の街は暗闇の中に沈んでいた。
赤い光はおろか、見渡す限り「光」というものはない。勿論、僕の部屋の明かりも消えていた。
「携帯で電気の復旧目途を確認しよ……」

「無理だよ。携帯も使えなくなってる。」

「え?携帯は別に大丈夫なんじゃ…………」
使えなくなっている。携帯を開いても起動せず、電源を入れても入らない。いつも充電は満タンの筈だ。
この時、僕は、いや、由紀も異様な状況に嫌な予感を感じていた。
12月24日の東京の夜は、不気味なほどに静まり返っている。部屋の中にいる僕と由紀の呼吸音しか聞こえない。
「外に出てみる?ここにいても、状況がどうなってる変わらないし。」
「大丈夫かなぁ?」
「とりあえず行動を起こさないと始まらないよ。行こう。」
怖がっている由紀の肩に手を置いて声をかけると、僕と由紀は家を出た。




しかし、この行動は「初めての失敗」となるのだった。





無論、僕が預言者やエスパーでない限り、そんなことは知る由もない。