ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 世界が壊れゆくとき〜The Ability〜 ( No.6 )
- 日時: 2011/06/18 18:50
- 名前: みすたー・えっくす (ID: BZFXj35Y)
「どういうことだ……なんで、電気が復旧しないんだ?」
マンションから表の大通りに出て確認しても、やはり同じ光景が目の前に広がった。
停電で闇に包まれた東京は、不気味なほど静かだった。とても今日がクリスマスとは思えない。
「携帯まで繋がんないし…………お母さん達、大丈夫かな?」
「僕のバイクで行ってみる?ここにいても意味ないし。」
由紀の実家は、僕の家からバイクで20分程走った先にある。
しかし、僕はここで予想以上に現状がオカシイということに気付いた。
大通りをよく見ると、車が立ち往生していた。いや、車のエンジン音が聞こえない。それが静かな状況の原因だった。
「んでエンジンかかんねぇんだよ!!!」
「おーい!!早く前進めよ!!」 「ちょっとー、エンスト?」
「携帯も繋がんないし……」 「電気まだ復旧しねえのか?」
「お巡りさーん!」 「くそっ、機械が全部オジャンになってる……」
周りから聞こえる批難の声。マンション下の駐輪場に向かい、自分のバイクにキーを差し込んだ。
しかし、エンジンはかからない。燃料も満タン、損傷している所はない……タイヤの空気もパンパンだ。
これは、この状況はオカシイじゃなくて‘異常’だ。先程の赤い光も謎のままだし。
由紀の冷たい手を握り、僕はマンションのエントランス付近で辺りを見渡す。冬の中、僕も由紀も薄着だった。
「冷えるね。コート着てても寒いよ。」
「僕のパーカー着てなよ。どうせすぐに、電気も復旧するだろう。」
僕は着ていたコートを脱ぎ、下に着ていたパーカーを脱いで由紀に渡した。男性用でも、女性は着れる。
「ありがとう、遊也…………え?」
由紀にパーカーを渡した直後だった。
僕の足もとだけが、赤い光で薄らと照らされている。足を動かしても、その赤い光は僕の足にまとわりつく。
「なんだこの光?」
光に顔を近づけた瞬間だった。
「わ、わァァァあぁぁぁぁァァァァァぁぁぁぁ!!!!!!!!」
赤い光は突如、強く眩く光り始めて僕を包み込んだ。
「遊也!?遊也!!!!」
由紀の手が僕の方へと伸びる。僕も精一杯手を伸ばし、由紀の手を掴んだ。が、握っていた力が、なぜか抜けた。
「ダメ!!離しちゃダメ!!!遊也!!遊也!!!!!!」
「力が……入らない…………」
視界も赤い光のせいで見えなくなり、やがて由紀の手から僕の手も離れた。そして、意識がプツリと切れた。
───────
『由紀!!死ぬんじゃない!!!』
『勇気があるから勝てるとでも?能力を持っていれば成功が続くとでも思ったか?甘い考えだな、人間よ。』
『それがお前の答えなら、お前は永遠の時を迎えることになる。』
『これが全ての答えだよ…………』
『樋口……遊也君………』
気絶している筈なのに、脳の中に響き渡る色々な人たちの声。聞いたことのない声が、頭の中を飛び回る。
全ての答え?由紀に何かあったのか?由紀の名前を叫んでいたのは、僕だ。僕自身だった。
能力とはなんだ?永遠の時って……死を意味するのか?
考えて悩んでいるその時、僕の目の前に謎の光景が広がった。
先程の暗闇の東京とは違い、東京は明るかった。しかしそれは、明かりのせいではない。
東京のあちこちから炎が上がり、空を見上げても青空はなかった。国運で埋め尽くされた曇天の空。
僕はゆっくりと、一歩進んだ。歩いている感覚はあるが、なぜ気絶しているのに………。
進んでいると、道端に自衛隊員の死体が転がっていた。どの隊員も肩から心臓に掛けて、鋭利な刃物で切られている。
「東京……だよな?ここは。」
まるで現実離れした東京の光景に、思わずここが東京ではないと錯覚してしまう。それほど状況は酷いものだった。
路地を抜け、渋谷109の大通りに出た。しかし、そこには人の姿はない。
渋谷も炎に包まれ、道は建物の残骸やガラスの破片で一杯である。
「あれ?」
大通りを歩いていると、数メートル先に誰かが立っていることに気付いた。
サラリーマンが着る様なスーツを着ている。だが、その後ろ姿はどこかで見覚えが………
「やぁ、樋口遊也。」
振り向いた男性。白い髪に蒼い目。その姿は紛れもなく「僕」だった。
「え……な、なんで僕が…………」
「考えるな。今はとりあえず、向こうへ戻るんだ。そして、君は由紀を絶対に死なせてはいけない。」
近寄る「樋口遊也」らしき人物は、僕の肩に両手を置くと蒼い目で見つめてきた。
「お前はこれから悲惨な運命を過ごしていくことになる。出会いよりも別れが多い人生となるだろう。だけど、お前の存在が人類には必要不可欠なんだ。由紀と共に前へと進め。その先で仲間となる者は大切にしろ。この先、非現実的な状況が襲いかかるが、それは全て現実だ。お前が必要なんだよ。お前が、お前が死ねば、全ては終わると言っても過言ではない。」
「樋口遊也」らしき人物は僕にそう言うと、スーツのポケットから蒼いビー玉を取り出した。
僕の左手をとり、蒼いビー玉を握らせる。
「これは後々、お前を助けてくれる品物だ。失くすなよ。」
「………あなたは、誰なんだ?どうして僕と同じ姿を……」
「俺はただの使者だ。お前の姿を借りている。少し髪の色とか違うけどな。」
「使者って、誰の使い……」
「もう時間だ。俺と握手した瞬間、激痛が走るが表の世界に戻れる。」
僕は彼の言葉を一瞬疑ったが、すぐに理解した。いや、理解するしかできなかった。
「向こうの世界に戻ったら、すでにお前には能力が受け渡っている筈だ。その力で、由紀を守れ。」
「の、能力って何?」
「戦って生き延びろ。俺よ。じゃあな。」
─────────