ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 死亡フラグ。 ( No.4 )
日時: 2011/06/20 20:00
名前: 機械人間α ◆faeEHB.vks (ID: ZTrajYO1)




部屋の埃っぽい匂いと、小さな虫の動く気配を感じた。
布団の上のノートパソコンに小さな虫が乗っかったので、私はその白っぽい虫をつかんで口に放り込んだ。
埃っぽくてあんまり美味くないや。
私は虫を飲み込むと、溜息混じりに呟いた。

「死にたいわぁ」

いつの間にか口癖になってたこの言葉。自分でも嫌な口癖だなあとは思うけど、何かというと飛び出してくるからしょうがないのだ。もっとも、私の吐く言葉は私の心で嘘なんかじゃないから良しとする。聞いてる人なんか誰も居ないけどね。

現在、水曜日の午前十一時。
これでも立派な女子高生の私は、学校には行かない。
私の不登校暦は友人の二週間を更新してベストコードを伸ばしつつある。もしも私に親がいたのなら必ず、「成績落ちるでしょ!!行きなさい!!!」と家から追い出されるであろう。
カーテンを閉め切った暗い部屋で小さく溜息を吐いて、開いたノートパソコンの画面を直視した。

「外とかまぢ明るすぎるよねぇー。もうさぁ、布団から出るのも面倒で困るww」

白い画面に浮かんだピンク色の文字を読み上げて、私はふっと笑った。
幾ら同類が集まるチャットだって言っても、タイプは全然違うんだよねー……。

【そうそう、分かるわぁー】

お、共感返信が集まってるぞ、すげえすげえ。
……あーもう面倒くさいから落ちよう。

【落ちるね】
【うそー】
【ばいばーい】
【またな】

返信はせずに、灰色のノートパソコンを閉じた私は、ノートパソコンを布団から外れたフローリングの床に押しやって、埃っぽい枕に顔をうずめた。
……計二年、か。本来ならば青春を楽しんでいる筈の高校三年生。もしくは、受験に追われている筈の高校三年生。
一年の時は学校が楽しくて楽しくてしょうがないくらいだったけど、今思えば何であんなに楽しく思えたんだろうと思うほどだ。
同じパターンなんだ。生活パターンが同じでつまらなかった。
こんなんだったら行かないほうがマシだと思って、不登校を決意したのが二年前。

今では私のことを覚えている生徒なんて一人もいないだろうし、第一私は嫌われ者だったから。
一言で言えば、変わってる子。
虫とか普通に食うし、雑草食うし、蛙見つけて大喜びして食うし。いや、変わっているって言うか、悪食って言うのかな?笑える。

こんな私になってしまったのも、全部親のせいなのかな。
酒好きの父に、男遊びが好きな母。父は毎晩すっごい酔ってて暴行加えるわ家破壊するわのお騒がせ。夜は母が男とホテルとかで遊んでるから、被害にあうのは私だけだ。
そんな親も、幼稚園くらいのときに殺された。正直、嬉しかったけど。
私はその現場を見ていたんだ。私と同じくらいの幼稚園児がさ、拳銃もって私の家に入り込んできてさ、バーンってやった。
男の子は、「お前、助けを求めてたろ?俺が助けに着たんだよ、正義の味方だからな」とか何とか言って去っていった。
親がいないことをいいことに、我が子を恥だと思っていた母親の親、つまり私の祖母が私を引き取ってくれた。
それはもう幸せだった。
ロクに食事も与えられていなかった私に真心を込めて美味しい料理を作ってくれるし、私と遊んでくれるし。
そんな祖父母も、死んだ。寿命だからしょうがない。
私は其の時、人の死に対して初めて涙を流した。
其れからは一人暮らし。おばあちゃんに料理は多少教えてもらっていたから、食事には困らなかったけど、何より寂しいのが一番痛かった。
かつて住んでいた古いアパートの方が家賃が安いから引っ越して、父の母と父が残した財産で暮らす。
しまいには買出しの金さえもったいなく思い、その辺の草や虫を食べるようになった。

それが、小4の時。分かるかな、この空しさ。
私の周りには誰もいなくなって一人ぼっちで泣くんだよ。〝何で自分は生きているんだろう〟って。
意味が無いなら、死んでやる。
そう思っても死ねないんだよね。何か、何となく私はこの世界にいなきゃいけない気がして。そういう宿命なんだ、って気がして。

何か、疲れちゃった。
私は頬を濡らした雫をシーツでふき取って、眠りについた。

無論、こんな午前中にぐっすり眠れるはずも無く、二十分程度で目覚めた——……いや、起こされた。

「おいお前。何午前中から寝てやがるんだよ」

それが彼の最初の言葉だった。