ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 異世界少年。-届いた叫び- ( No.3 )
日時: 2011/06/21 21:35
名前: くっきー (ID: ErINZn8e)

第一話 「悪魔」

どのくらい走っただろうか。
距離は少しずつ縮まっていく一方、離兎は離兎で曲がり角をドンドン曲がっていく。
こいつん家ってこんなに複雑な道してんの?!

「も〜っ・・・・何なのよ!」

悪態をつきながら羅羽は走り続ける。
中学生時代の陸上部で鍛えた体力のおかげで、まだまだ走れるんだけどね。

やっとのこと、離兎が立ち止まった。
いきなり立ち止まったせいか、上手い具合に足を止めることが出来ず、危うくバランスを崩し欠けた。

「わわっ!」

素早く羅羽は片方の足でバランスを保ち、ふぅーっと安堵のため息をつく。
その言葉に気づいたのか離兎が後ろを振り返った。

「・・・・?あんた、確か・・・」

何でいるんだよ、ここに。ってでも言いたげそうな顔だ。
っていうか、入学してからもう二ヶ月以上経ってるのに覚えられてないんだ。ちょっとショック。
羅羽は気を取り直すと、離兎の方へ一歩、二歩と近づき握っていたリストバンドを差し出した。

「これって冷木のだよね?廊下に落ちてたよ」

離兎は驚いた表情をすると、リストバンドを受け取る。

「・・・・どうも」

ボソリと離兎が呟く。そのままリストバンドを右手首につけ、ため息をついた。

「何で届けようと思った?」

いきなりそれかい。
少し考えてから羅羽が言う。

「分からない・・・けど、届けた方がいいかなあって。直感的?って言うの?そう思った」

離兎があきれ顔で羅羽を見た。
な・・・・何その顔。

「何で呆れてんの?あたし悪いことした?」

ホント、意味分からないんだけど。何でそんな顔されなくちゃいけないの?

「・・・いや、お人好しな奴もいるもんだなーって思って」

そのまま、離兎があきれ顔のままで言った。
その場で思わずズッコケそうになったのはおかしくないよね?

「何それ。っていうかあたしみたいなのがお人好しなら、みんなお人好しになっちゃうと思うんだけどな」

羅羽の言葉で、離兎の表情が無表情になる。
あれ、あたし変なこと言った?

「馬鹿か、あんたは」

何の感情も無い離兎の言葉に、羅羽は少し揺動する。
そのまま離兎はカバンを肩に担ぎ、くるりと背を向けた。
何こいつ、こんな感情の無い声、出せるの?

「今までろくに会話もしなかった奴に、わざわざ落とし物を届けにくるかよ。それもみんなが」

無言で羅羽は離兎の言葉を聞いていた。
いや、正確に言うと『何も言い返せなかった』。
同情している自分も、心のどこかにいることが分かったから。
そしてもう一度離兎は羅羽の方を振り返る。

「あんたって変な奴。天然?こんなお人好しの奴に初めて会ったよ、俺」

離兎の声が、ロボットみたいな声に羅羽には聞こえた。

「んじゃ、届けてくれてどうも。俺は用事があるから」

また前に向き直ると、スタスタと離兎は歩いていく。
何それ、何か変だよ。何で無表情でさらりと言えるの?

「・・・・馬鹿なのはどっちよ・・・」

思わず本心から出た言葉。
離兎にも聞こえたのか、立ち止まった。

「そんな・・・何の感情がこもって無い・・・・。まるでロボットみたい・・・」

振り返らず、無言で離兎はまだ立っている。
馬鹿なのはどっち?

「冷木・・・あんた人間じゃないよ!!」

気がついた時にはもう叫んでいた。
はっとなり、口を手で押さえる。
何言ってんの、あたし。人間に決まってるじゃん。何失礼なこと言ってるの?
かすかに離兎が笑った気がした。

「そうだな、そう思われてもおかしくない、か」

離兎はそう呟くと再度羅羽の方へ振り返る。
表情からは何も感じられない。

「あんたの言うとおり、俺は人間じゃない」

冷たい声と「人間じゃない」という言葉に羅羽は驚く。

「な・・・に言ってんの・・・?」

声が震えた。
意味分からない。人間じゃない?

「だから言っただろ、俺は人間じゃないんだよ」

「意味分からないよ・・・・冗談だよね・・」

震える声で羅羽は言った。
冷たい離兎の言葉が心に突き刺さる。
そして羅羽を見据える離兎の眼差しも冷たかった。

「俺はもう人間じゃない・・・・悪魔だよ」

                      To Be Cohtihued....