ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

姫は勇者で魔法使い。 ( No.105 )
日時: 2011/12/11 16:27
名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: DvMOJ6NL)
参照: 今回はモチベーションが上がっていたので、長めです

「そんなものに協力するようなアホは、そこには載っていない。 少なくとも【不知火の血族】は不参加を表明する」

刺々しく冷たい声で、雨音が言い放つ。
ようやく何が起こっているかを飲み込んだらしい黒髪の青年が、口を開く。

「勝手にそんなこと言っていいのか?」

不安げな表情で言った黒髪の青年を、雨音が「どうせこうなるだろうから、大丈夫だ」と言いながら腕の中から解放する。

「……汝が【不知火の血族】なのか?」

雨音に問いかける。
すると、雨音は不機嫌そうな表情をして頷く。

幸か不幸か何の覚悟も準備をしていない内に、探し人のうちの一人が見つかってしまった。
しかし、異常なまでに警戒心を抱かれているため、下手に動けない。

そして、何より恐いのは黒髪の青年の存在だ。
彼はどうにもオルドルの好みのタイプと完全一致をしているようで、オルドルが今にも襲いそうな雰囲気を醸し出している。
それを実行すれば、雨音が攻撃を仕掛けてくるだろう。
オルドルもそれを懸念して動くのを我慢しているらしい。

「雨音、翔。 遅いから迎えに来たよ」

そんな一発触発の状態に、黒髪の青年に少し似た美しい顔立ちの青年が現れる。
これで数は四対三になった。
とは言っても、欠片も戦力にならない妾を数にカウントしなければ、ちょうど同数じゃな。

「……お前はどうして、姿を確認していないのに俺か相斗か分かるんだ?」

雨音が不機嫌そうなしかめっ面で、突然現れた青年に問う。
それに対して、彼は雨音に飛びついてからこう言った。

「オーラと匂いで簡単に判断出来るよ。 相斗がふわふわしたオーラと甘い匂いで、雨音が」
「やっぱり、忍は黙ってろ」

突然現れた青年——改め、忍の言葉を遮り、彼を自身から引き剥がそうと襟首を掴んで引っ張る。

「嫌だ!! 兄さんは雨音が甘えてくれるまで、絶対に離れない!!」

しかし、忍は凛々しい声と表情で変態としか思えない言葉を口にし、必死に雨音の体にしがみつき続ける。
「あ、あれ? 忍さん?」

少し間を空けて、金髪の青年——雨音がさっきよりも僅かに高い声で、更にはキョトンとした表情を自分に抱きついている忍へ向ける。
忍は顔を向けられるよりも前に、察したようで子供のように小さく頬を膨らませる。

「雨音が逃げたぁぁぁ!! でも、兄さんは雨音が甘えてくれるまで相斗にだって、抱きつき続けるからね」

…………【不知火の血族】について、分かったことがある。

「……変態率が高いのぅ」

思ったことがつい口に出てしまった……!
いくら攻撃的な雨音が大人しくなっているとは言っても、流石に誰かに起こられそうな気がする。

攻撃されたら恐いから、あらかじめクロヌの影に隠れておこう。

「大丈夫だ、聞こえてないみたいだからな」

妾の前に立つ、クロヌが妾の頭をワシャワシャと撫でながら言う。
忍達の方を見ると、確かに忍は雨音に必死にしがみついているし、雨音は何が起こったのか分かっていないらしい。
黒髪の青年——改め、翔は忍を引き剥がそうと忍を全力で引っ張っている。

「ん? あいつら、誰?」

ようやくこちらの存在に気づいた忍がこちらを振り向く。

「申し遅れました、私は王国の第一王女の執事を務めているオルドル・ヴェリテと申す者です。 そして、こちらの方は第一王女のサフィール・アミュレット様でございます」

オルドルが執事らしい丁寧な口調で妾と自分の名を名乗り、続いてクロヌとミコガミを紹介する。
クロヌもミコガミも若いが、騎士団や隠密機動隊では確かな実力で、かなり高い地位にあるらしい。
うむ、初耳じゃ。

「へー、興味ないや」

聞き終わるや否や忍がそう吐き捨てて、雨音の方へ顔を向けて、「雨音、出ておいで」と言いながら彼の腕に頬ずりする。
雨音が嫌そうなのにどこか嬉しそうな表情で、忍の身体を遠ざけようと、彼の身体を押す。

「兄貴のせいで、しばらく雨音は出てこねぇよ」

翔が忍を引き剥がすために引っ張りながら、雑な口調で言った。

「しょうがないなぁ……。 予定を変えて今日は相斗をモフモフすることにするよ。 とりあえず、家に帰ろうか? 兄さん、ご飯作らないといけないから」

翔の言葉に対して、忍が矢継ぎ早にまくし立てる。
分かったことは、雨音を離す気がさらさら無いということくらいじゃな。

「いや、でも、サフィールだっけ? あいつらは俺らを探してたみたいなんだが……」

翔が忍に事情を説明する。
実際に資料を読んだのは雨音だけだから、断片的にしか分かっていないようだが、上手く内容を要約して伝えている。

しかも、ちゃんと資料を読んだ妾よりもしっかり理解している。

「うーん……正直、弟以外の話なんてどうでもいいんだけど、これはフランか父さんに聞かないとどうしようもないしね」

忍が困った様子で呟く。

一番この状況を切り抜ける案を持っている可能性が高いオルドルを見上げる形で見やると、翔達三人を恍惚とした表情で見つめていた。
…………相手が美形になると、此奴は一番頼りにならなそうじゃのぅ。