ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

姫は勇者で魔法使い。 ( No.4 )
日時: 2011/07/07 07:16
名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: AzZuySm.)

「そう青筋を立てるでないぞ」
「誰のせいだと思っているんでしょうか?」

温厚なオルドルがこめかみに青筋を浮かべ、刺々しく言い放った。

「この国はお先真っ暗だな」

続いてクロヌがこちらに向かい、嘲るように言い放った。
主に対してここまで反抗するとは、本当にこの使用人共は、好き勝手しすぎなのじゃ!!

「本当にあなたはもう……。 賽国の襲撃という問題もあるというのに……」

オルドルが右手を額にあて、深く深くため息をつく。
しかし、妾にとって、一番の問題はオルドルの苦心などではない。

「賽国が攻めてきておるのか!?」

我が国に敵が侵入してきているということは初耳だ。

「何を言ってるんだ? もう何日も前から攻め入ってきているではないか」

クロヌが知っているのが当たり前といったていで、返事を返してくる。

賽国は我が国の隣国の隣国であり、かなりの軍事力を誇る。
特に魔法、及び最近、発見された【憑獣ひょうじゅう】という強力な魔術を扱える『物』が大量生産されているという噂を聞いたことがあるしのぅ……。
しかも、残念なことにその噂は信憑性がかなり高い。

「大惨事ではないか!! お主らは何をしておるのじゃ!?」

特にクロヌは前衛の剣士、魔術師として我が国最高クラスの最高を誇る騎士である。
敵が攻めてきた時点で、前線に投入するべき人材だ。

「しっかりと以前、お伝えしましたが……?」
「まさか、『聞いてませんでした☆』とか言うんじゃないだろうな……?」

オルドルとクロヌが私の珍回答を見た瞬間の比ではないほどの、黒い笑みを浮かべる。

「き、聞いてなかったのじゃ」

言い訳しても逆鱗に触れるだけだと判断し、正直に自己申告をする。

「…………」

クロヌが無言で床に降ろしていた大太刀を拾い上げ、切っ先をこちらに向けて構える。
状況的に気持ちは分からないでもないが、だからこそ、本気っぽくって怖い……!!

「クロヌ、流石にそれは駄目でしょう」

オルドルが冷静にクロヌを制止する。
うむ、流石、執事。 一応、身分を弁えているようじゃな。

「この場にあるものでないと、足がついてしまいますよ? えーと、この花瓶なんてどうでしょうか?」
「よし、それをよこせ」

……オルドルはオルドルで怒っているらしい。
しかも、クロヌが無駄に大きな花が入っている花瓶を振り上げている。
これは新手のいじめか何かか!?

そんなことを考えている間に、クロヌが目にもとまらぬ速さで、花瓶を放り投げた。

「待て待て待て!! それがあたったら、流石に妾の命が消え——って、あれ?」

クロヌが投げた花瓶は見事に妾の頭上を通過し、そのまま後ろにあった窓を粉々に粉砕した。
運動神経が非常に優れているクロヌはコントロール力も高い。
それなのに外したということは————

「うむ! 妾を本気で殺すつもりはなかったのじゃな」

そういうことにしないと辻褄が合わない。
さっき、感じた殺意は本物だった気がするが、どうせ、段々と冷静になってきたのだろう。

「姫様、伏せてくださいッ!」
「ふごぁ!?」

オルドルに思い切り頭を掴まれ、床に押し付けられる。
かなり加速されていた為、床との接触と同時に、床がマンガのように派手な凹み方をしている。
……妾の頭がい骨の方は凹んでいなかったから、まぁ、良しとしよう。