ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 姫は勇者で魔法使い。 ( No.60 )
- 日時: 2011/08/27 09:58
- 名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: yjIzJtVK)
現在は春だが、ミコガミは割と肌の露出部分が多い服を着ているため、布団を奪われれば、それ相応に寒く感じるだろう。
「ミコガミ、早くしないとお叱りを受けますよ」
オルドルがめげすに、脅しかけながら、ミコガミの筋肉質な体を揺すり、声をかける。
布団を剥がすのはどんなに引っ張っても離そうとしないため、諦めたらしい。
「……母さん、俺は神になれそうにもないから、それは諦めて」
一体、どんな夢を見ていたらこんな寝言を吐き出せるんだろうか。
今のセリフに対する母上のリアクションが気になったのは、妾だけではないはずじゃ。
幾ら声をかけても、目を覚ます兆しすらも見当たらないミコガミに痺れを切らしたクロヌが、通常の靴よりも少し底が厚い茶色のショートブーツを履いている足でミコガミをソファから思い切り蹴り落とす。
「んぅ……? オレ、まだ寝たりないんだけど」
背中をクロヌの馬鹿力で蹴られた上に、寝心地の良いソファから、寝心地の悪い床に叩き落とされたミコガミが、眠たそうに右の手の甲で自らの目をこする。
ここまでされても、布団を手放さないくらい肌寒く感じるなら、上着を羽織るか厚手の生地の物に替えれば良いのに……。
「やっと、起きましたか……。 それでは、いきますよ」
オルドルが燕尾服の内側のポケットから取り出した懐中時計を見てから、溜息混じりにミコガミを急かす言葉をかける。
「え? どこに?」
寝起きで僅かに乱れている白色の髪を手櫛で軽く整えながら、ミコガミがキョトンとした表情で尋ねる。
「女王陛下に呼ばれたって言っただろうか……」
クロヌが溜息混じりに、ミコガミの問いに答える。
コレは一から説明しなくてはいけなそうじゃな……。
* * * * * *
女王陛下——つまり妾の母親の部屋の扉をオルドルがしっかりと二回ノックする。
すると、すぐに部屋の中から「はーい、何かしら〜?」という快活そうなのにのんびりした女性の声が聞こえてきた。
「シャルロット様、サフィール様を連れて参りました」
オルドルが扉を通しても聞こえるようにと、普段よりも大きめの声で返事をする。
「入っていいわよ〜」
中から返事が来てすぐに、オルドルが扉を引く。
妾とクロヌ、ミコガミを先に通してから、最後にオルドルが入り、扉を閉める。
こういう動作を見ていると、オルドルが執事なのだということを実感する。
普段は、教育係と世話係のような仕事が多いからのぅ。
「そこのソファに座って頂戴」
母上が、自分の座っている書斎机の前にある、無駄に横長くて価格も高そうなソファを指さしながら言った。
言われたとおり、ソファに腰掛ける。
ソファは妾の部屋にあるものよりも良質な触り心地で、座った瞬間、体重に比例して体が沈む。
一番、筋肉質で体重が重いクロヌが右隣にいるため、どうしても重心が右に傾いてしまう。
うぬ……。 ぐらついてしまって、バランスが取りにくいのぅ……。