ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 姫は勇者で魔法使い。 ( No.86 )
- 日時: 2011/09/30 18:35
- 名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: Hfcg5Sle)
- 参照: 第2話、スタートなのぜ!
【腐槌】
極東に位置する国、日本。
その国のとある路地裏でのこと。
昼間でさえ、人通りが皆無に等しいのに、現在時刻である深夜2時にそこを通るような人は普段ならばいない。
だが、今に限っては、そこで2つの影が対峙していた。
1人は大きな槌を持った少女、もう1人はちょうど中年くらいの男性、とアンバランスにも程がある組み合わせだ。
「命だけは助けてくれ!! 俺が悪かっ……」
その中年男性が、自分の目の前に立った大きな槌を振り上げた少女に使い古された言葉で命乞いをしていた。
しかし、その少女は彼を見下した表情で、容赦なく男性の頭部目掛けてその手に握っている大きな槌を勢いよく振り下ろし、トドメを刺した。
巨大な槌によって潰された男性の頭から血飛沫が飛び散り、彼女の白い肌に返り血がこびり付く。
「…連続殺人犯の最期が見覚えの無い奴に殺されただなんて、なんて皮肉」
少女は頬についた返り血を手で拭いながら、少し間のある独特のしゃべり方で独り言を呟く。
人を殺しておきながら、何事も無かったかのような表情をしている少女の容姿は、薄い緑色の腰のあたりまで伸ばしたストレートの髪、髪と同じ色のジト目、雪のように白い肌、出るところは出ていて締まるところは締まっているスタイル、スラッとした足という、男性は愚か女性さえも振り向いてしまいそうな美貌をしている。
髪よりも濃い緑色のカチューシャにセーラー服風のワンピース、首もとには鈍い金色のロケットペンダント、白いニーソックス、学生が履くような茶色のローファーと至って普通の服装だ。
両手首についた太めの黒いブレスレットから伸びた鎖に繋がる鉄球を除けばだが。
これらは彼女が、『彼ら』に誉められたらのが嬉しくて、常に身につけているものらしい。
「…懐かしい」
そう言って、彼女はロケットを開き、その中に収められた写真を懐かしそうに眺める。
さきほど自分が作り上げた屍の横だというのに、柔らかに微笑んでしまうのは、彼女にとって『彼ら』との思い出はとても大事なものなのだろう。
しかし、その可愛らしい笑みを崩し、ハッと目を見開く。
その視界には、先ほどの男性の屍が捉えられていた。
「…あっ。 処理を忘れてた」
そう言って、少女が屍に素手で触れる。
刹那、彼女の左手が触れた屍の胸から円形の波紋を描きながら、骨ごと朽ち果る。
路地裏を吹き抜けた風が、朽ち果てた際に小さくなった残骸を根こそぎ吹き飛ばしていく。
「…これで今日分は終わり。 帰ろう」
彼女は自分自身に確認するかのように呟き、言葉通り、その場からすぐに立ち去っていった。