ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

姫は勇者で魔法使い。 ( No.90 )
日時: 2011/10/07 22:55
名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: Hfcg5Sle)
参照: 助太刀部のネタバレどころの騒ぎではない件についてw

【百鬼夜行の主】【紅響曲(スカーレットワルツ)】

「誰かいるかしらぁん?」

極東に位置する国、日本。
その国のとある森の中に建っている鮮やかな青色の屋根が特徴的な家に1人の女性が扉を開け、中にいるであろう住人に呼びかける。

「いるに決まってるだろ。 ここはオレの家だぞ?」

中から女性と同じくらいの歳の男性が出てくる。
実際に、彼女らは同い年で幼なじみでもある。

「買い物に行ってるかもしれないじゃないのよぅ」

女性は口を尖らせながら、本人も自慢にするほどに大きな胸を強調するかのように腕を組む。
それに対して、男性は苦笑いを浮かべながら、家に入るように指示する。

「襲おうだなんて考えてないわよねぇん?」

女性が冗談混じりな口調でちゃかす。

「まさか。 そもそも、兄ちゃんも黄緑もいるからな」

そんな女性の冗談に男性が真面目に答える。
すると、その答えを聞いた女性が自らの胸の前で腕を交差させ、カッと目を見開く。

「葵と黄緑がいなかったら、襲ってくるのかしらぁん!?」

女性が最後に「まだまだ獣盛りにねぇん」と付け足すと、男性の方が引きつった笑顔で「うるせぇーな」と返す。

「最近、忍は来てないのかしらぁん?」
「ん? あぁ、忍は翔達と一緒にフランに拉致されたっぽい」

女性が自分と男性のもう1人の幼なじみの所在を尋ねると、拉致という物騒な結論が導かれた。
しかし、何故か女性が安心したような表情になる。

「よかったわぁん。 フランのところなら嫌という程、可愛がってもらえるだろうし」
「嫌、と言っても愛で続けるだろうな」

彼らは忍という名の幼なじみを連れ去っていった、フランという人物について話を始めた。

「んー、どうにもあの血族の人達は、同性愛の気があるわねぇん」

女性の方が、話題をフランという個体ではなく、その血を分け合っている人達全般に話を移す。

「まぁ、光と相斗はバイセクシャルだし、忍はブラコンだし、翔から下とエリーとモアクは普通だし。他はアレだけど」

男性の方もその話に乗っかり、返事をする。
その答えの後、二人とも懐かしそうに僅かに目を細める。

「皆、今頃、何してるかしらねぇん……。 忍とはよく会うけど、翔クンは子育てに追われてるし、なかなか会えないのよねぇん」

女性が懐かしそうに呟く。

「……子供って、もう年齢3桁いってなかったけ?」

男性が、人間ではありえないことをさらっと流し、他の部分について怪訝そうに尋ねる。
それに対して、女性が涼しい顔で頷く。

「それどころか、全員揃って翔クンよりも身長高いわよぅ」

そんな女性の言葉に、男性がこの場にいない苦労人に同情の念を送った。
自分もそれなりに苦労してきたつもりだったのだが、それを超える人が現れたとなれば同情せざるを得なかったのだろう。
どんなことでも上には上がいるものだ。

「で、お前は何しに来たんだよ」

男性が女性に問いかける。

「お酒を呑みに来たのよぅ。 失恋にはお酒よねぇん……」

女性が机に突っ伏しながら言う。
他人の家だというのに、ここまで傍若無人な振る舞いを出来る彼女に半分呆れながら、男性が棚からお酒の缶を取り出し、女性の前におく。

「えー、瓶じゃないのぅ?」

女性がしっかりと缶を掴みながらも、不満を垂れる。

「お前はあるだけ呑むからな。 瓶なんて渡したら潰れても呑み続けるだろ。 んで、失恋相手は誰だ?」

男性が女性の悪いくせについて指摘する。
その後、プライバシーも何もあったものじゃない質問をかます。

「翔クンよぅ!」
「何百年前の話!? 引きずるにもほどがあるだろ!」

男性が少しズレたツッコミをいれる。
それを聞くと、女性がムスッとした表情になりながら、缶のプルトップを開けてグビグビと酒を呑む。

「んー……。 久しぶりに会いに行こうかしらぁん……」

女性が窓の外の青空を見つめて、小さな声で『彼女』のシナリオ通りの言葉を知らず知らずのうちに口にしていた。