ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 風プロ パラノイア 〜Ep1〜 3−2更新 1000達成! ( No.100 )
- 日時: 2011/08/10 21:17
- 名前: 風猫(元:風 ◆jU80AwU6/. (ID: COM.pgX6)
Episode1
Stage3「楽しもうぜ? 基本なんて良いじゃない適当で? 基本疎かにすると死にますヨ?」Part3副題『冬音とストレンジア』
※微エロ注意(苦手な人は読まない事を推奨)
「へーぃ、そこの忍者ボーイ! あったしと一緒にデートしなーぃ?」
苛立ちを前面に出した表情で声のする方向へと焔錠は、顔を向ける。
其処には、つい数刻前、酔ってバニーガールなどと叫んでいた栗毛のツインテールの童顔の陰陽師の女が立っていた。
「何の用で御座るか?」
彼女は、警戒の念を抱き後退する。
そんな彼女の様子に陰陽師の女は、臆面も無く近付いて行き、ついには壁に追い詰める。
「そんなに逃げなくても良いじゃない?」
小首を傾げ壁に手をつけながら女は話を続ける。
「基本的なことなんだけどさ? このゲームでは、ミッションを開始する寸前まで仲間集めが出来るよね?
まぁ、フリーの奴かメンバーに空きの有る奴しか出来ないけどさ? んで、あたしは、フリーなわけ!
詰り、何が良いたいのかと言うと……貴方と一緒したいなって事。
良いでしょう? 貴方一人じゃどうせあのクエストは突破できない」
目を逸らす彼女の事など気にせずに冷淡な声で彼女が一人では、任務を突破出来ないと言う事と今、この瞬間でも仲間を作る事もできるという事を伝えていく陰陽師の女。 僅かに当る呼気が酒気を帯びて臭う。
そんな中、目の前の女の行為を迷惑に感じながらも自分自身、一人でこのクエストを制覇するのは今の時点では不可能だと考えていた彼女は、目の前の女を仲間に加えれば任務を制覇できるだろうと推断した。 見るからに格上の女だ。 役に立つ。
そう、言い聞かせながら彼女は頷いた。
「君は、良い判断をしたよ。 是で君は、新しく来た初心者達の中で一歩抜きん出た存在になる事を君は、確約された!」
嬉々として笑いながら陰陽師の女性は、握手を求めてくる。 焔錠は、其れを面倒だと黙殺し歩き出す。
そんな釣れない態度を取る彼女に、「そんな態度も素敵」等と、女は冗談めかしに言って後ろを付いていく。
「しかし、強い仲間を獲得するだけで下位のクエストなど易々と突破できるで御座ろう?
拙者が、確実に同期の上位になれるとは……」
歩きながら焔錠は、ふとした疑問を口にする。
其れに対して、彼女はあっさりと答えを提示した。
理由は容易く、初心者のクエストは報酬が極端に低い故、有る程度以上の水準に達する者は態々率先してやることは無いそうだ。
ならば、何故、彼女は……そう、怪訝に思い焔錠は、眉根をひそめる。
「あぁ、あたしが何で君のクエストの手伝いしてるのか不思議って感じだねぇ?
簡単な理由だよ? あたし貴方のファンになっちゃったの。 孤高って感じが溜んないのよね!
このゲーム内では、珍しい感じの性格だしさ?」
何時の間にか焔錠の前へと飛び出していた彼女は、その表情の動きを察知し理由を述べる。
精々、此処に来て三時間程度しか経っていないのにファンなどと言って寄って来る奴が居るのかと面倒そうに嘆息する焔錠。
焔錠は、彼女の事を昇進のために利用するだけだと心に言い聞かせ成るべく面倒にならないようにと離れて歩き出す。
既に、彼女を仲間として同行させた時点で面倒の引き金は引かれていると言う事を心の底で打ち消して。
一方、彼女等が、一夜限りの同盟を組んで街の北部の門を出た頃。
ギルド内で動きが起っていた。 焔錠に付随した陰陽師の女の話のようだ。
ギルドの入り口付近で武勇伝をジェスチャーを交え大声で語っていた、海賊姿の無精髭の大男が捲し立てる様に話す。
初心者用受付嬢であるノーヴァの表情に険が滲む。
「それは、本当ですか!? 彼女が……冬音と同行しているなど!?」
その声には明らかな焦りがあった。 海賊姿の男は、ノーヴァが焔錠を彼女と言っていることを奇怪に思いながらも今は、それを聞いている場合では無いと判断し彼女の問いを肯定する。 自分も目撃したら危ないと思って報告に来たと。
「兎に角、ヤバイぜ……最近、なりを潜めてたがアイツの性欲のやばさは尋常じゃねぇ!」
冬音とは、陰陽師の女のHNだ。 海賊の男は、一ヶ月程度前までは、彼女と友にチームを組んでいたので彼女の特性を良く理解している。 彼女の変態的な性欲に付いていけず他の仲間の男と一緒に脱退したのだ。
「彼女は、男の姿をしていますが現世では、女性です。 恐らく、冬音様はそれを何らかの方法で把握しているかと……」
ノーヴァは、更に懸念事項を提示する。
其れに対して、成程そう言うことかとかと男は頷く。
そして、直ぐに彼は、焔錠が更に危険な目に合うことに直ぐに気付く。
「あーぁ、そう言えば、死ぬと現実世界の姿に戻るんだったな。
しかも、死体は現実と同じで燃やしたり何らかしない限り腐るまで残り続けるって話だ!」
初心で若い男女が冬音は好きなのだ。
詰り、女性と男性の両方を味わう事が出来る本来の性別を偽って入ってくるプレーヤーは、彼女にとっては、最高の供物なのだ。
海賊の男の背中を氷解が滑り落ちる様な冷たい感覚が襲う。 昔は、一緒に戦った仲だ。
何度も彼女の悪癖には苦労したが、それでも、人間としての義理が彼女が悪行に手を染めるのを見たくないと悲鳴を上げる。
男の表情が鬼気迫る物へと変っていく。
「待てよ、成神? てめぇは、そう言う許可は落ちてねぇだろうが……
あいつに対して思う所が有るのは俺様もなんでな。 少し俺様に任せろ!」
海賊姿の男が、まだ、間に合うかもしれないと思い立ち上がった瞬間だった。
後ろから忘れられない低い声が、覆い被さる様に響く。 ギルドに所属する全ての戦士達の頂点に立つとさえ言われる男。
ストレンジアだ。 成神と呼ばれた男は、汗を噴出させ後退りする。
そんな彼を視界にも居れずストレンジアは、ノーヴァ達受付嬢一同に目を向ける。
「申し訳ありません」
受付嬢一同の代表格であるノーヴァが、目を落として謝罪の言葉を述べる。
実は、冬音は目の前の男の妹なのだ。 そして、その両刀遣いと言う変態的な欲望は、彼との幼少期に有ると目されている。
否、彼本人が、それを明言している。 彼の妹は、昔から女子校に通い男性との付き合いが疎らだった。
そして、彼女の好く先々で会う僅かな数の男性よりストレンジアは、遥かに端麗な容姿を持っていた。
何時しか、彼女は彼の事しか見なくなり男性では彼以外に興味を示さないようになっていた。
一方で、女子校に通う彼女にとって魅力的な女性を見つけることは容易かった。
彼女は、生来より他より高い性欲を仲の良い女性で処理するようになっていく。
そして、兄を異性として気にする故に、兄を喜ばせられるほどの女になるために少しずつだが、顔や声など劣ってもそれなりの男とは付き合いそして、体を重ねる様になって行く。 歪な正常が冗長し彼女は何時しか、両方の性欲へと目覚め戻れなくなった。
「俺の責任だ……もし、そいつが死んだりしたら正にな……」
そんな冬音の兄であり現プレイヤー中、最強の称号を持つストレンジアには、特殊な資格が有った。
それは、街等、人がコミュニティを成す場所以外での違反者を罰する資格だ。
強大な能力を有する実力者達五人が、彼以外にもその権限を有しているが、それは一重に、受付嬢達が、コミュニティの有るフィールド以外でのユーザーの処断を許されていないからである。
嬉々として殺人の理由が出来たとでも言う風情で彼は、歩き出す。 既に、街の北門から沼地へと彼女等が出たことは、ノーヴァ達には、報告されている。 此処から先は、元々彼等の領分だ。 もし、目の前の男が、妹を殺害しても彼女等は、文句を言えない。
「待て……本当の妹だぞ!?」
何の感慨も無く冬音を殺せるだろう目の前の愉快犯の様な男を許せなくて成神は、彼の肩を掴む。
「どうだって良いだろう? あの女は、俺に殺されることが望みなのさ……
だから、こんな楽しい真似をしてくれる……くくっ、あははははははっあひゃっ、ひぃーっはははははは!」
正に狂人と言った感じの盛大なる笑い声。
愉悦に歪んだ禍々しい笑顔。 其処には、家族の情など微塵も無い事をありありと証明出来た。
ストレンジアがギルドを出て二時間が過ぎた。
冬音は、容赦なく切り刻まれ無残な姿で横たわっていた。
細い腕を切り捨てられ、胸を貫かれ口内から大量の血を流して。
「 」
最後に、彼女は、涙を流しながら消え入る様な声で兄、ストレンジアに語りかけた。
何と言ったのかは分らない。 ストレンジア自身も聞き取れなかっただろう。
彼は、最後に、一筋の涙を流した。 彼の中にも人間としての愛情が残っていたのか。
それとも、恐らくは彼の人生史上初めての殺人に身を染め興奮しているのか。
誰も分らない。 彼は、普通の人間が図るには余りにも現実離れした人間だから。
「冬音殿……死んで……しまったの……か?」
圧倒的な死の存在感が其処にはあった。
露出度の高めだった陰陽師の衣装は霧散して消え此方の世界での姿とはまた違った美しさを持った冬音の本当の姿が顕になる。
どちらかと言えば童顔だった冬音の本当の顔は、大人の色香に溢れたなまめかしい顔立ちだった。
正直、本当は女である焔錠さえ一瞬頬を赤らめた。 そんな彼女の死体を見て彼は言う。
「殺されかけてたのに何で同情するんだお前?」
その言葉には、何一つ感情は無かった。
唯々、彼女への純真な疑問しか無かった。
確かにそうだ。 任務終了後、冬音は豹変し自分の体を強引に抑え付け衣装を力付くで破り出した。
実力差が有りすぎて本来、体力の少ないはずの陰陽師の彼女に全く焔錠は、手出しできなかった。
男の姿で女を相手に初めて性を交あわせるのかと大きな悲しみに駆られていた時だった。
ストレンジアに救われたのは。
そして、直後に彼女が、自分を殺して現世の姿となった自分を犯して遊ぼうとしていた事を知ったのは。
「面倒で御座るな……本当に、人間ってのは…………面倒で御座る!」
混みあがる思いは沢山あった。
初めて人の死を目撃した。 飛び交う鮮血……声、鼻を突く咽返るような血の臭い。
喉がざらつくほどの嗚咽。 まるで生気の無い土気色の肌と文字通り死んだ魚の様な双眸。
美しい女性の死体だったからこそ余計におぞましく……何処か妖艶な死骸。
言いたい事は沢山有った。 だが、口に出して言う事は出来なかった。
————救われたのか? この心の鬱積は、取り払えるのか? 何の罰だ? 私が一人を望んだからか?————
焔錠より——————
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