ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 風プロ パラノイア 〜Ep1〜 1ー3 執筆中 ( No.12 )
- 日時: 2011/07/08 18:40
- 名前: 風(元:秋空 ◆jU80AwU6/. (ID: L0.s5zak)
- 参照: 葵へ こっちでOKです。 予約もOKです! でも、書き終わるまで待って(汗
Episode1
Stage1「痛みを感じ感触が有り涙が本当に出ている感覚になるのが、このゲームだ」Part3
「なぁにー? 見ない顔ねぇ?」
「大した実力じゃねぇな……初心者よりはマシだがよ」
レンガ造りの家々の間に有るこじんまりとした木造の建築物。
扉には、カエルゴギルドと書かれている。 カエルゴとは、この港町の名前だ。
そこは、プレーヤー達からプレーヤーズギルドと総称される場所だ。
プレイヤーズギルドには、基本的には、このアストラルをプレイする者達のクエストの依頼所の役割が有る。
他には、メンバーの指南や基本情報の開示と言ったバックアップなどもしている。
詰り、プレーヤー達が、ゲームの主目的である任務を進めるには、此処に来てクエストを選び、契約を結ばなければいけない。 カエルゴギルドと言えばギルドのカエルゴ支部と言う意味だ。
二人は、慣れた様子で颯爽とギルドの扉を開く。 其処には、多くのこのゲームに魅せられた者達が居た。
何人かは、呼び鈴の音に新客の登場を察知し彼らを見詰る。 装備品で大体の実力が分る。
何故なら、任務をこなした数の証明になるからだ。
基本的に、クエストをクリアすれば軍資金や生活費となる、金が手に入る。
当然ながら、普通は、更なる任務成功率の上昇のために金を使う。
生き残り有意義に過ごすためには、自身の戦闘力の上昇と装備の上質化を図るのが、常識的だ。
彼らは、二人の装飾品の程度を見て、大した実力は有していないと判断し、大概が鼻で笑った。
当然だろう。 此処に居る者達は、基本的には、日中は来れない風やリノウェイ等とは違い、昼夜を問わずこのゲームに明け暮れる者がほとんどなのだ。
彼らは、二人を品定めして小さな声で仲間内と話をして居た。 恐らくは、評価は芳しくない。
何だか視線が、気分の良い物ではないので風は、目を下にやり何とか彼等と目を合せないようにする。
そんな彼女を見て「可愛い反応だねぇ」などと冷やかす者が居たが、其れは同胞の女性に、殴られていた。
恐らくは、彼女を庇ったと言う訳ではなく他の女に目移りするのは赦さないと言う所だろう。
昼間と深夜一時以降は、群雄割拠だ。
一般社会人や学生達が帰宅する夕方四時ごろから明日の仕事や学校が、有る者達の大半が、眠りに就く十二時位までの間が、一番、雑多な人間が交じり合う時間だ。 その時間では、流石に人が多すぎて実力者達も弱者にまで目を向けない。
リノウェイ達のような普段、夕方からしか来れない者達は、そう言う昼夜問わず着ている者達からは、弱者として軽蔑されるのだ。
しかし、彼は、そんな視線を物ともせず風をエスコートする様に優雅に歩き出す。
「へぇ、中々、肝の据わった良い男じゃないか?」
「…………其処の子、可愛いね? そんな弱そうな奴じゃなくて俺と付き合わない?」
野卑た顔つきの明らかに上段者の雰囲気を漂わせた武士姿の男の誘いも、赤の野生的な髪型の闊達な盗賊姿の女の言葉も無視して、黙然と彼等の座るテーブルの横を通り抜けていく。
彼の眼前には、木造りのカウンター。 ランク、総合五段階に分割されていて夫々、五人の受付け嬢が居る。
彼等は、ランク二。 初心者から脱却した程度の者達だ。 基本的には、下級者と呼ばれる。
そんな、彼等の向かうカウンターには、紫を基調とした青のツインテールの笑顔の似合う美女が待っていた。
彼女の名前は、リノア。 無論、プレイヤーでは無く、RPGなどで言うモブだ。
彼女から任務の依頼書を見せて貰い確認し選択し受注する。 そうすれば、この汚い目からも解放する事が出来る。
男の足は、無意識に速まっていく。 無言のプレッシャーを感じ風は、目を細めた。
「依頼を受けたい」
カウンターに着くや否や彼は、用紙を見せるように促す。 すると、彼女は、用紙を出しながら、彼に話しかける。
「珍しいですねぇ? お二人が、こんな現実世界では、明るい筈の時間に、此処に訪れるなんて?
さてはさては、リノゥエイさんは、サボりだったりしますな? サボってまで来て貰えるのは嬉しいんですがぁー
仕事を辞めて毎日、朝から晩まで嵌っちゃって貰えるとあたしとしては、もっと、嬉しいかなあぁー!」
真剣な面持ちで配布された用紙を見詰る彼に、退屈させないために彼女は、話し掛ける。
モブだが、何ともリアリティが有るものだ。 彼女等は、笑い泣き理論を持ち成長し記憶し忘れ嫉妬し愛する。
現実世界で生活する人間では無いと言うだけでそれはもう、リアルの人間の如くだ。
心底、珍しそうな表情で風とリノウェイを見詰ながら彼女は話す。 リノウェイは職場勤めで風は、家の仕事で朝は、基本的に来れないと言う事を把握した上で彼女は、話を続ける。 彼女にサボりかと問われた瞬間、彼は、薄ら笑いした。
そんな、彼の表情に怪訝に眉根を潜めながら彼女は、話を続ける。 サボりなんかじゃなくて、どうせなら仕事を辞めて永遠に、アストラルを楽しんで貰えれば良いのにと彼女は、冗談めかして言う。 無論、実生活が掛かっているのだからそのような事は出来ないだろうと理解した上でだ。 しかし、その言葉に、彼は、更に口角を上げて凄絶に笑う。 何が可笑しいのだろうと、リノアは呆然とする。
隣に居た風も狂気染みた彼の表情に恐怖を感じ眉根を潜める。
「はははははっ! 勘が良いなぁリノア! そうさ、俺は、辞めたよ……このアストラルは最高だ。 是から俺は、先駆者になる!」
笑いながら彼は、言った。
ゲームのために辞職したのだと。
其れを聞いたリノアは、愕然とした表情をして居た。
現実での生活はどうするのだろうと言う疑問が鬱積しているのだろう。
憐憫にも似た表情だ。 現実とゲームの区別がつかなくなった人間の末路を知っているからこそだろう。
仕事を忘れ稼ぐ事を忘れ辞職金で暫くはゲーム三昧の生活も出来るだろう。
しかし、その後はどうだ。 何れ金は底を尽き住む場所は追われやがて、食事も取れなくなる。
結果、命を失いアストラルに二度と訪れる事は出来ない。
現実的な未来を予測しながらも風は、彼のことが理解できる気がした。
現実などより耽美で刺激的で余程楽しいこの世界、永遠に居られるものなら居てみたい————……
心の底から……そう、思えた。 現実が嫌いな彼女には、此処は、天国だった——————
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