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Re: 風プロ パラノイア 〜Ep1〜 1ー4執筆中 ( No.13 )
日時: 2011/07/08 22:58
名前: 風(元:秋空  ◆jU80AwU6/. (ID: L0.s5zak)

Episode1

Stage1「痛みを感じ感触が有り涙が本当に出ている感覚になるのが、このゲームだ」Part4

「俺が、囮になる。 風は、後ろをついてターゲットを倒してくれ」
「分った。 無茶はしないでね?」

  リノウェイの爆弾発言の直後、クエストが決まり彼は、クエストを受注した。 
  内容は、このカエルゴに巣食う悪党のリーダー格の暗殺だ。 
  今回は、この町の外れの裏通りで同業者同士での情報交換が、行われるらしい。 
  そこで、情報交換を阻止するとともにターゲットを暗殺すると言う内容だ。
  無論、任務依頼の内容には、他にも種類が有る。 要人の護衛や屋敷や会社の警護。
  他には、町の外で跋扈する怪物の討伐や怪物たちの生態調査や捕獲。 危険地帯での情報の収集及び情報の伝達。 そして、他国からの攻撃の防衛。
  唯一つ、共通しているのは全ての任務が、戦闘力を必要とする傷つく危険性の高い物だと言うことだろう。
  
   指定の通りへと到着した二人は、懐中時計の時間を確認する。 対象の待ち合わせ時間までは、まだ暫く有る。
   二人は、夫々役割分担を決める。 
  先ずは、銃による遠距離攻撃が出来る後方支援型のリノウェイが、相手の注意を惹きつける。
  そして、それに敵が、気を取られている隙に、海賊と盗賊の特技である忍び足で相手側の背後へ回りこみ殺害対象を殺す。
  尚、任務は、護衛の部下達を倒さずともクリアとなる。 最も、部下を倒したほうが高得点なので倒すのが常識だが。

  カチカチと言う時計の秒針が進む音が、緊張感を煽る。 定時の時間を時計が告げる。
  しかし、暗殺対象である男も取引相手も来ない。 焦燥感が、襲う。 良く有る事だ。 
  より、現実性を出す為に必ず待ち合わせ時間通りに現れない様に調整されている。
  プレイヤーの焦燥感を掻き立てると言う二段構えだ。 
  無論、この世界にも組織間での信頼関係は有る。
  故にほとんどは、待ち合わせ時間通りに来るが。
  十分ほどして風達の正面の方から対照の男が現れる。 護衛は二人。 黒いスーツに身を包んだサングラスの巨漢だ。
  なお、彼女らの姿は、彼らには見えない。 当然ながら相手にばれない資格に隠れている。 
  程なくして、大きなバックを持った女が現れる。 ワインレッドのジャケットが似合う背の高い美女だ。 
  どうやら、暗殺対象の男の交渉相手だろう。 
  役者は、揃ったと言う事だ。

「すまないね……少し、遠回りしていた」
「いえ、此方こそ。 約束の時間に遅れましたのでおあいこです。 此方が例の物です」

    男は、女に優しげな口調で語りかける。 恐らくは、尾行に注意して遠回りして居たということだろう。
  其れに対しあらかじめ了承していた風情で女は頷き、例の鞄をアスファルトの通路に鞄を置く。

「少々、お待ち……」

  女性は、鍵を開ける素振りをしながら鍵を開けるまでの間、辛抱するように頼もうとする。 
  しかし、その瞬間、銃声が響き渡り女の後頭部に銃弾が命中する。 女は、ドサリと音を立てて倒れ込み痙攣し息絶える。
  突然の襲撃に、男の部下達は浮き足立ち荒い声を上げる。 部下達が、うろたえている間に、銃撃が更に放たれる。
  しかし、その銃弾は、男に容易く防がれてしまった。

「……そこ、敵は、あの建物の最上階に居るようだ」

  うろたえる部下達を牽制する男。 流石は、リーダー格という風格だ。 しかし、彼らは、風と言う伏兵を知らない。
  早足に、遮蔽物を利用しながらリノウェイの居る場所へと近付いていく。
  しかし、幾つかの十字路を進んだ後だった。 突然、暗殺対象の男は、背中から血を噴出し倒れこむ。
  巨大な何かにより骨が叩き砕かれる音が、遅れて響き渡る。 部下達が振り向くと其処には、青い目の勝気な海賊姿の女。
  ギルドの手の者として男達は、座り込み「見逃してくれ」と降伏する。
  だが、降伏する男の脳漿を容赦なく、弾丸が襲う。 一人の男が、倒れこむ。

「ヒイィ!」

  今や、唯の肉塊となった仲間を見詰め男は、怯えた声を上げる。 彼女は、そんな男を見詰め渋面を造りながらも大斧を振るう。
  グシャッ……肉に刃物食い込む嫌な感触手が手に伝わる。 そして、その重量で骨を容易く砕く武器は、不快な音を奏でる。
  夥しい血の量。 獣相手なら気分も爽快になれるが、人間相手だと本当に悲しくなる。
  しかし、そんな現実では味わえないリアリティが好きなのだから笑うしかない。
  しばらくの間、立ち尽くしていた彼女は、リノウェイが来るとケタケタと狂人の様に笑い出した。

  任務の成功をギルドに伝え二人は、新しく手にした報酬で道具を買おうと店へと足を運ぶ。
  ゲームの中では、既に八時間が経過しているが、現実世界では二十分しか経っていない。
  二人は、先ずは、武器や回復道具の店へと行きワイワイとショッピングを楽しんだ。
  そして、その店を後にして直ぐ、事件は起こった。

「はぁぁ、一杯、買えましたね! 何だか気分が良いです!」
 
  良い買い物を出来たと満足げな表情で風は言う。

「そうだろう? 一杯、物を持つと裕福な感じになって満たされる……なぁ、風? 俺が、気分を良くしてやっているよな?」

  彼の理屈に成程と相槌を打っていると彼は、突然、表情を湾曲させた。 凶器に歪んだ顔だ。
  言葉は疑問系だが、確実に答えの内容は狭められている感じだ。 彼女は少し後退りする。 しかし、男は、見逃さない。

「俺は、お前の事、前から可愛いなと思ってたんだ。 興味が有って調べてたら俺と同じ福島県の中通の出身じゃないか?
運命を感じたね……そして、俺は、本当の君を見た。 このゲームでの普通位の大きさの普通位の体格の可愛い君じゃない。
それは、スラッとした痩せ型の長身の美人だった。 憧憬を感じたね。 こんな綺麗な女の子と一緒できたらって夢が膨らんだ!
なぁ、風? 男と一緒に遊びたいだろう……はは、良いだろう? お前みたいな女、男が放って置くわけ無いって!
初めてじゃないだろう? ほら、いつまでも女友達と生温い馴れ合いしてないで欲望を……」

  彼は、彼女の手を握り捲し立てるように話し出す。 彼女の中のリノウェイと言う男の姿が崩れていく。
  自分を裏でストーカーする変態男。 そして、今まで、何度か一緒して語り合ったのは唯、体が目的だったからと言う事実。
  更には、心底、楽しんで信頼して付き合っている野宮詩織と月読愛を強く否定する言葉。
  ゲームのために仕事を捨てたと聞いた時は、哀れみを感じた物だが今は、そんな物は無い。
  巨大な憤怒の炎が、彼女の中には燃え上がっていた。

「お言葉ですが、私は、彼女達との関係を心の底から楽しんでいるし彼女たちに深く感謝しています!
そもそも、体が……顔が目当て!? 女を馬鹿にするっ……」

  精一杯、対抗するために彼女は、声を張上げ手振り身振りをして反論する。
  しかし、男は、聞く耳持たず彼女の手を強引に握りラブホテルと書かれた看板の有る方へと歩き出す。
  男の力には敵わない。 ゲーム内の設定では、ガンマンは海賊より基本的に、腕力は劣る。 しかし、それは、クエスト中での話だ。
  そんなゲームの設定に苛立ちを感じる。 何故なら、素での腕力では男である彼には、彼女は全く敵わないのだから。
  抵抗虚しく、男の目的地へと彼女は、ズルズルと連れて行かれる。 涙が、自然に湧き上がって来る。

「誰か……助けて」

  幾ら、助けを求めても誰一人助けようとしない。 それどころか、その状況を楽しんでいるようでさえある。

「誰も助けないさ……男なんて精々、お前の泣き叫ぶ顔を見て欲情しているだけだぜ?」

  絶句する彼女に彼は振り返り、凄絶な笑みを見せ無情なる真実を告げる。
  風は、絶望に嗚咽するしかなかった。 
  しかし、其処に、突然、一人の女が現れる。 ツインテールの紫を基調としたメイド服。
  リノアだった。 彼女は、ギルドの下級者のクエスト受付で有ると同時に下級者の取り締まり役だ。
  それは、全ての暴力行為やルール違反を取り締まることは出来ないが今回は、運良く来てくれた様だ。
  彼女は、リノウェイの腕に手刀を入れる。 痛みに呻き彼は、風の腕を放す。

「リノア……さん?」

  風は、彼女を認め安堵した様子で肩を下ろした。 
  其れに対してリノウェイは、歯軋りをして追い詰められた表情だ。
  間違いなく取り締まられ最悪、ゲームへのアクセス権を永久に失う。 
  彼は、逃亡を図る。 捕まらずペナルティを押されなければ大丈夫なのだ。 ルール違反者とゲームのシステムが認識しない。
  だが、彼女から逃げられると思ったのが彼の間違えだった。
  逃げる彼に彼女は疾風のように追いつく。

「女相手に力付くですか? はあーぁ、なっさけなっ! モテない男の真骨頂ですね?」

  追いついた彼女は、ゲームのシステムが違反者だと区別できるように識別コードを彼に刻み付けようと彼の胸部に手を当てる。
  仕事を辞退してまで、このゲームに集中しようとした男にとっては何としても避けたいシナリオだ。
  彼は、手を振り翳し必死に対抗する。

「くっ……くそおぉぉぉ!」

  しかし、彼の拳など彼女には、静止しているようにしか見えず容易く止められる。 そして、棟に×の形の紋章が刻まれる。
  瞬間、彼の体が透けていく。 このマークを彼女達受付兼取締官付けられると現実世界に強制送還されるのだ。  
  
「…………有難う御座います」

  彼が、消え去ったのを確認して風は、彼女に駆け寄りお詫びをする。
  其れに対して、彼女は、自分の仕事をしただけだよと少し嬉しそうに答えてくれた。
  安堵と共に風の心の中には、彼への憐憫の情が流れていた。 
  彼女自身に対する仕打ちは許す気にはなれないが、あれ程、ゲームにのめり込んでいたのに……と。


            ————しかし、強制送還された彼は、幸せだったのかも知れない


                              是からの未来を考えうると——————……


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