ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 風プロ パラノイア 〜Ep2へ移行 アンケ実施中 ( No.164 )
- 日時: 2011/08/26 22:52
- 名前: 風猫(元;風 ◆jU80AwU6/. (ID: COM.pgX6)
————————Ep2 Prologue A————————
Ep1「アストラルからパラノイアへと変る世界」
から、
Ep2「何もかも鎖された嘘の集合体」
へ、
移行する事を決定する。
————————————————Ep2開幕を此処に宣言する。
——————メインプログラム「テッサイア」より
————響き渡る、無機質な声が……何者可の夢の中に。
その者は、理解できない。 その言葉の意味に————
理解できる筈も無い。 全てが彼の思惑通りだなどと感じたくなかったのだ。
否定したかったのだ。 そして、それは、強く強く彼の者の心の奥底で反響しあい次第に膨大な怨嗟へと変貌していく。
————人間は、多くの失敗を犯す。 それは、多くが無思慮と思い込みからなる物だ
思い込み思考を停止させ嘘の記憶で過去を取り繕い未来に目を背ける————
その結果は、因果と言う形で現実から目を背けた者を業火の濁流へと飲み込む——————…………
⇒Prologue Bへ
Prologue B 「藍色のイレギュラー」
(一人称視点:HN・葵 本名・雨水 蒼点)
「愛ちゃん、媚薬買いに来たあぁ」
「……何に使うのですの? いえ、聞くのが間違えというものですね。 一番安いので五千ガルになりますわ!」
私の名前は、雨水 蒼であり葵。 この世界、あぁ、名前変わったな。 今は、パラノイアと言ったっけ?
この世界では、ゲーム内でのHNと現実の名前の二つの名前を持つのが当たり前だ。 無論、私もそうだ。
最初に名乗ったのが、本名で次に名乗ったのがHNだと言っておく。
あたしは、カキコでも多少、交流のある愛から良く媚薬を買う。
この世界の媚薬は、人間に近い姿の種族の怪物から抽出されるフェロモン成分から生成出来る物だ。
基本的には、フェロモンなどと言うものは肉体を拝借して顕微鏡などを使い作るのが、愛の話では常識らしい。
最も、それには精巧な技術が必要らしく彼女のように媚薬を造ることを出来る物は少ない。
最初も言ったが媚薬は色々と役に立つ。 そして、特定の人物しか造る事は出来ない。
彼女のように特殊な才能がある存在は、唯それだけで莫大な金を手にすることが出来るってこと。
正直、一番安いもので五千と言うのさえ顔馴染みに対しての優しさが入っているのは間違えないのだ。
ちなみに、ガルとはこのゲーム内での通貨単位の一つで一ガル十円に相当する。
「買った……一万ガル以下無いんだけど良いかな?」
「お釣は、渡しませんわよ?」
やれやれ、すっかり大金持ちの気分だ。
私は、あの地獄から帰還してから何とかネット環境の整った親戚の家に匿ってもらうことが出来。
このオンラインゲームが、解説された時から足しげく通っている。
今の私の財布には、一万ガル以下のお札が無いのだ。
そんなことを自慢する訳でもないのだが、素直に一万ガル以下が無いことを愛にカミングアウトすると……
愛は、何食わぬ顔でお釣を払う気は無いですと気楽に答えた。
その表情がどこか小悪魔的で、あたしは、苦笑して彼女を許しかなかった。
「良いよ。 お金は、それなりに有るし!」
所詮は、商売ではなく交友のような物だから監視者でもあるノーヴぁさんたちが、動くことは無い。
気になると言えば、周りの目だが、幸いなことに誰もいなかったので事なきを得た。
私は、手をひらひらと振りながらその場を去る。
さてと、媚薬の効果を教えておこう。 文字通り、女なら男を男なら女を惑わす薬と言った所かな?
ラブホテルを良く利用する人は、結構使うらしい。 あぁ、後、フリーの私みたいな人間が、他者をたぶらかす為とかな。
私は、後者だ。
「愛ぃ? そうやって媚薬とか造るのやめない?」
「駄目……ですの? 結構、儲かりますわよ? あっ、私、少し風に使いたい媚薬が有りまして……」
私が、彼女に背を向け歩き出すと直ぐに、近くに待避していた風が、愛に話しかける。
まるで保護者のようだなと微笑ましい目で見ながらそれが、彼女の弱さだと私は、認識する。
まぁ、愛には、全く風の言葉なんて届いてないっぽいけど?
それにしても、私の耳に届くところでそう言う話をするのはどうかと思うんだなぁ……どうでも良いけど。
「さてと……誰に使おうかな? やっぱり、面白いのは、あの焔錠ってくの一青年かな?」
私は、しばし誰に媚薬を使おうかなと思案する。
出来ることなら精神が安定していない状態の簡単に、弱みを握れそうな奴が良い。
例えば、初心者でいきなり地獄を見た奴とか最高ね。
誰って? ほら、冬音さんに捕まったあのリアルでは女の子って言う娘が、私の脳内には、浮かび上がっているよ。
昨日の今日で悪いね。 まぁ、幾らなんでも本当に昨日の今日だと流石に、酷い気がするから一日位待とうかな?
私も眠いし……ふわぁぁーっ、盛大に欠伸が出る。
私は、行き付けのホテルへとチェックインし部屋の鍵を貰うと早足で部屋へと向かう。
いつもこの時に思い出す事がある。 忘れてはならないと心の底で決めている事だ。
此処は、私の生きる現実ではなく……あくまで私が足跡を残してきた現実ではなくゲームの中なのだと。
入り浸りすぎて忘れそうになる事実。 この世界から二年間出ることが出来ず……
更に、純然たる死すらも存在することになってしまったこの世界を自分の生きる現実ではないと区切るべき境界線。
「パパッ! パパァッ!」
「蒼! 蒼ッ……お前は、生きてくれ!」
私は、三月中旬に起こったあの大震災の被害者だ。
実際に多くの人間の死を目にしたものだ。 今、こうして親戚の家でゲームをやっているのは本当は、許されないことなのだろう。
父を失った。 私と母が助かり逸早く救出されたのは、本当に偶然だ。 多くの友人も失った。
母は、父の死体を見たとき泣き崩れうずくまっていた。 私は、それが死だと理解できず涙も流すことは出来なかった。
人の死を家族の死を受け入れるなど当時の私には出来ず。 受け入れた時には、このネットという世界に逃走していた。
逃げるしかなかった。 恐ろしかった。 迫りくる確実な死の姿。 生き延びた唯の偶然。
死んだほうが良かったと思う生き地獄。
「私……ママよりパパのほうが好きだったなぁ」
いっつも、過去の記憶を紐解くと最後にこの言葉が出てくる。
本当は、どうか、分からないんだ。 ポッカリと家族という記憶があの時から消えているような気がして……
悲しさを絶望を紛らわせる術が無くて。
今、恐らく目の前で人間の死を目撃した、あの焔錠って子もそんな絶望感を覚えているだろうと推測する。
私は、部屋へと入りふかふかのベッドに寝転がる。 一人で寝るには、広過ぎるベッドだ。
誰か近くに居てほしいと思える程に。 あぁ、寝よう。 今日は疲れた……
「お休み、パパ……ママ」
幾ら、手を伸ばしてももう、届かない幸せ。 どれだけ声を上げても助けなど来ない。 人の力など儚い。
ならば、せめて夢の中でだけでも会おうと……私は。
夢を見よう。 幸せな夢を。 その夢が嘘でも良いから、叶わない物でも良いから。 すさみ切った心を慰めよう。
本当は、慰めにもなっていないのに……
幸せな団欒。 いつも通りの挨拶。
望んでいた日常的な光景。
そんな私の夢の中に突然、チュンチュンと言う小鳥の鳴き声が響いてくる。 いつも、こんな夢の終わり。
あぁ、朝がきたのか。 私は、重い瞼を開く。 すると燦燦とカーテンの合間から光が、差し込んでくる。
「あっつぃ……あぁ、そう言えばテッサイアが言ってたな。 是からは、人間界にあわせた環境、気候にするとか……
ははっ、少しは気が利くな。 是で少しは、現実感を保てるよ」
日差しがやけに暑い事を認識して私は思い出したように呟く。
私は……数少ないテッサイアと交流を持つことのできる存在だ。
このアストラル……いや、今は違うかな。 パラノイアか。 全く、唐突に名前変えやがって。
正直、テッサイアと交流を出来るようになったのはこの世界に入り浸っていたからであって、誇れることではないのだが……
「あぁ、はははっ……テッサイア、私は……お前を信じていないぞ?」
誇れる事ではなく、テッサイアという暴走した悪魔が、手綱を握る唯の部下だ。
手綱を握られたとは気づかなかったよ……五天に入ったときは……
声が響く。 低く良く通る声。 私の脳内に……
あぁ、何でそんなこと言うんだよ? 言われなくても……テッサイア。 私は、焔錠君に媚薬を……
寝巻き姿から何時もの服へと着替える。 そして、外に出る。
日差しが暑い。 UV対策くらいするべきかな?
そんなことを思いながら歩いていると……直ぐにその時は訪れた。
「あぁ……見つけた」
焔錠君と私は、交錯した。
私と彼……彼女かな? まぁ、どうでも良いか?
それにしても何で……テッサイアは、この人を指定してきたのだろう。 腑に落ちないが……
彼女を彼が利用しようとしているのなら……私が、逆手に取ってやる。
面倒だけど……
〜The End〜