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- Re: 風プロ パラノイア 〜Ep2 1-3更新 9/19 コメ求む ( No.202 )
- 日時: 2011/10/16 22:52
- 名前: 風猫(元:風 ◆jU80AwU6/. (ID: rR8PsEnv)
Episode2
Stage1「慟哭が心の空を貫くがゆえに……」Part4副題『無知』
知らないことが罪なのなら……世界のほとんど人間は咎人なのだろう。 人間は、余りにも無知だから……————
「余裕だなぁ、ノーヴァさんよ! 俺は、吹っ切れたぜ! さっきとは、違うんだよッッッ!」
空をつんざく様な奇声を上げトレモロは、最初から配布されていた投げナイフを三つ夫々、違う位置に投擲する。
ノーヴァは、それを槍を回転させえの部分で弾く。 その瞬間に、槍の回転により一瞬視界が遮断される。
その隙を彼は逃さない。 容赦なく距離を詰め盗賊の初期装備である標準的なダガーを死角から振り翳す。
「甘い!」
「甘いのはあんただ……俺達は、一人じゃない!」
しかし、彼の行動は、彼女に読まれていた。 すぐさま、彼の攻撃を払いのけ胴に柄の先端部分を叩き込む。
ガハッと咳き込み彼は、倒れこむがその表情には、絶望感は無かった。
むしろ、上手く行ったと言う自信に溢れた意思表示が有った。 彼女は、忘れていたのだ。
本来、後方支援を専門とする盗賊である彼が、真正面から突っ込んできたせいで感覚がズレたのだろう。
本来のアタッカーである彼の幼馴染である凡の存在を視野から外していたのだ。
しかし、すぐさま悶絶するトレモロから目を外し彼女の方へと目を向ける。
そして、彼女の攻撃を易々と盾で防ぎ突きを放とうと構える。
しかし、トレモロが全力でノーヴァの肩に飛び掛りそれを阻止した。
その瞬間だった。 盾を縫って振上げられた凡の剣戟によりノーヴァの手から盾が放された。
グルングルンと回転しながら盾は、空へと舞う。 ノーヴァの中の時間が止る。
まさか、たった二人の初心者にここまでやられるとはと油断しすぎていた自分を叱責する。
しかし、そのような反省をしている間に勝負は決していた。 二人の武器がノーヴァの喉元に添えられている。
彼女は、ごくりと唾を飲み込み負けを認めた。
「手を抜いていたとは言え大した物です。 はぁ、私の危惧は杞憂に終りそうな気分ですわ」
最後の何時もと違う彼女の口調、二人は微苦笑した。
こうして、二人のチュートリアルは一端の幕引きを迎える。
風、野宮詩織、月読愛の三人は、トレモロ達がチュートリアルを終えた頃、クエストの目的の近くの門前へと到着していた。
「覚悟は宜しいですの風? 今まで以上に注意が必要ですわよ?」
釘を刺すように棘っぽい声で風に月読が問う。
それにたいして風は一度、瞑目し「行こう」と、合図する。
三人は、ひとしきり自分たちの用意してきた道具を調べ合い門をくぐった。
その先には、見渡す限りの草原。 所々に丘陵が有りそこに上がる道が幾つか存在している。
空は、今にも泣き出しそうな曇天。 彼女達が、フィールドに足を踏み入れた瞬間に、ポツリポツリと雨が降り出す。
彼女達の髪の毛を濡らし雨粒は頬を伝う。
「雨か……初めての天候だな」
「不安ですわね。 天候云々で生物の営みは随分と変るものですし……何より、媚薬……効果半減以下ですわ」
三人は、同時に同質の不安を感じるのだった。
天候の変化により地形も変更するしモンスターの行動パターンも変化するのだ。
更に、同じモンスターでもフィールドによって行動パターンが変更する。
つまり、何度もこの任務を達成している彼女たちにとってもこの天候でのクエストは、未体験なのだ。
初心者のような不安に晒されるのは当然のことだ。
三人は、神妙な表情をして歩き出す。
しばらく草丈の高い所に身を隠しながら歩いていると眼前に敵影が現れる。
三人はそれを見た瞬間に、「装備」を唱え武器を顕現させる。
風の武器は、昨日新調した長い柄を中心に、巨大な円形を描いて作られた大鎌、円陣鎌の一種。
緑色の刀身を持つブルスヴェイブ。 攻撃力は、二百二十と言うし彼女級の戦士が持つには最高威力の武器だ。
そして、愛が、持つのは、長剣ほどの長さがある六本の刃を何本もの長いワイヤーで装備者の体に巻きつけて、繋がった刃を操る武器、ABYSS。 魔法使い様に作られた武器による後方支援をするための武器だ。
魔法より武器の方が効き目が良い相手が、居る事にたいする対策と言う意味で作られた武器。
魔法使いの武器としては最高威力を有する。 その中でも彼女達のクラスで持てる最高の威力を有する武器。
九つ全ての刀身に爆発の魔法の呪譜が貼られた爆撃孔雀だ。 刀身が、孔雀の羽に似ている事から付けられた名前である。
そして、チームの最大のアタッカーである野宮詩織の武器は、巨大な太刀、大振りの太刀と言う名の青龍刀に似た反りのある形だ。
極限まで斬る性能を高めた殺傷能力に優れた武器で威力は、風の有するブルスヴェリブと同等である。
三者が三者、現時点での自分達が装備できる最大威力の武器を大枚を叩いて買ってきたと言うことだ。
決して、今の状況を楽観視していないことは分るだろう。
彼女達は、身を屈め陰影の主へと慎重に最大級の警戒を払い近付いていく。
既に、雨は土砂降りに近くバチバチと肌を叩きつける大粒の雨が痛い。 伝い体を濡らす雨が鬱陶しい。
しかし、彼女達は、体温を奪われて死ぬような愚は冒さない。 そして、声を上げて敵に警戒心を与えるような愚も。
距離が徐々に詰る。 遠距離攻撃の可能な愛の射程圏へと到達する。
音も無く魔力を開放し愛が相手の姿を確認する。
魔法より武器に弱いモンスター、頭の天辺が剥げている紫色のダチョウを退化させたような化物カルクオットゥアだ。
彼女は、弱点部分である頚椎の部分を正確に爆撃孔雀で狙い打つ。
瞬間、血飛沫が上がり続き魔力による爆発が発生する。
突然の襲撃に一瞬にして一匹のカルクオットゥアが命を落とす。 しかし、相手は一匹ではなかった。
他に三匹。 彼等は、既に爆発の音で敵襲を察知し警戒態勢に入っている。
だが、相手は、所詮は、主賓を相手をするには邪魔と言う程度の雑魚である。
敵襲に気付いたとは言え浮き足立っている状況にある程度では、彼女達の相手になるはずも無い。
何の危なげも無く彼女達は、三匹を蹂躙した。
「はぁっくしょん! うぅ、さびぃ……どっかで雨宿りしようぜ? 流石に、少しヒットポイント減ってるしよ?」
「そうですわね……お手頃な洞窟が近くに有りましたわね?」
血の鉄錆びた臭いが充満する。 雨により臭いはすぐにかき消されるが三人は、そんな血の香りを全くなんとも感じず会話をする。
この世界に来て先ずなれるのは痛み。 そして、次に慣れるのが血。 三番目に死、最後に腐臭と言う言葉がある。
彼女達は、それら全てに既に慣れている状態にあった。 これが何を示唆するかは、分らない。
「よし! 周りには何も居ねぇみたいだし競争だ! 一番乗りが、夕食おごりな!」
「は——、餓鬼ですわねぇ……まぁ、やるからには、負けられませんけどね!」
野宮の提案により三人は、雨宿りするために近くに有る洞窟地帯へと駆け込む。
一番、遅かったのは、風で一番速く到着したのは、愛だった。 風は、罰ゲームの内容を聞いていなかったのか愛の肩を揉みだす。
それを見た詩織は、態と最後になったなと苦笑した。
「えっ? 罰ゲ違った!? って言うか愛、相変わらず肩柔らかっぐぁ!?」
「セクハラは……めっですわ?」
愛は、彼女に向かって頭突きを食らわせ小指を立て彼女の唇に押し当てて小悪魔的な笑みを浮かべる。
そんな二人の仲睦まじい様子を見て詩織は一人疎外感を感じながら呟いた。
「あたしだけ距離を感じるんだよなぁ……」
二人には聞こえない声で。 それでも自分が此処にいるのは、彼女たちと居るのが心地良いからだと知って。
二人のじゃれあいを見詰ながら彼女は、しけって居ない草木を集め火をつける。
愛と風のじゃれあいが終ったころには、紅蓮の炎が燃え上がり此処地良い暖かさが骨身に染み渡り始めていた。
パチパチと言う火花の音が胸に響く。 三人は、寄り添い合い夫々の思いを語る。
「あたし達さ。 まだまだ、これからだよな。 こんな所で死ねないよな!」
「当然だよ……この洞窟の中に潜んでいる可能性も有るし油断はしないでよ詩織?」
夫々の思い、夫々の将来の夢を語り合う。 生延びるためのエンジンを充足させる。
茶々を入れる風に「お前らがじゃれ合ってる間、あたしがずっと気をはってたんだぜ?」と、胡乱げな目で詩織は答えた。
十数分が過ぎた。 ある程度以上、服も乾き三人は、移動を開始する。
その瞬間だった。 聞き覚えのある咆哮が、洞窟内を乱反射する。
それは、今回の攻略対象の泣き声。
近くに居る。
三人は臨戦態勢に入る。 反響音のせいでどこから声が聞こえてくるのか良く分らない。
しかし、彼女たちとて馬鹿ではなく、どこから相手が来ても対応できる場所で暖を取っていた。
前方、後方、左右、四箇所。 上空は警戒対象として有り得ない。 どこから来る。
緊迫感が伝染する。 心臓が早鐘を打つ。 妙な冷や汗が、体を覆う。
「どちらから来るか賭けません? 四箇所……良い数字ですわ! 私は、正面!」
「面白いね! あたしは、左側だな! 風は?」
彼女達は、良く賭け事をする。 彼女達なりの緊張の解し方だ。 賭け事の勝利金は、大した物ではなく仲の良さが伺える。
野宮の質問に、風は、「じゃぁ、後ろ」と答え、罰ゲームは何? と、言い出した愛に促す。
そんな事をしている間にも大音響の泣き声とずんずんと言う胸に響く足音が、耳朶を付く。
容易い言葉を掛け合っていなければ正気を保っていられないのだ。
愛は、少し逡巡した後、口を開く。
「負けた二人は、勝者にマッサージしろっ! ですわ!」
「何て嬉しい罰ゲー…………真正面ですね。 負けました。 有難う御座いました!」
風にとっては、愛が勝者であれば有る意味嬉しいゲームである罰ゲーム。
風は、是非、愛が当りますようにと祈りを捧げる。 願いは届いたのかその祈りは叶い真正面から小赤竜は現れた。
紅い外殻に覆われた尖鋭的なフォルムで尾の側面にも棘がびっしりとついている。
口からは、日をチロチロと出している。 間違えなく小赤竜エルティグマだった。
「グガアアァァァァァアああああああアアアァァァァァァァアあっアァッッアァァァああアアああアァアアああぁぁあアアッッッッ!」
見慣れぬ生物を見つけ興奮したのか彼は、大きく息を吸い威嚇のために精一杯の咆哮を発した。
ビリビリと大地が揺れる。 先ほどの小物とは違う強者と呼べる存在だ。
一瞬の油断が、死を招くだろうと彼女達は察し武器を構える。
「詩織! 正面は任せますわよ!」
「了解!」
重装備の詩織が、モンスターにとって一番目に付きやすい場所で動き回り比較的軽装で機動力に優れた風が、死角へと接近する。
一番、防御力に劣る愛は、常に相手の後ろを付くように動き、援護射撃や回復を行う。
騎士、海賊、魔法使いと言ったバランスの取れたパーティの基本的な戦術を彼女等は、忠実に再現する。
あっと言う間に、エルティグマは痛苦に悲鳴をあげ逃走した。
逃げ足が速いこともこの小赤竜の特徴である。
「思った以上に簡単に遭遇できましたわね。 幸先が良さそうですわ」
「あぁ、次の遭遇で倒せそうだしな! そもそも、直ぐに追い付けそうだし!」
エルティグマを追いながら小さく安堵の溜息をつくように愛は言った。
それが、甘かったことを直ぐに三人は知ることになる。
⇒Part5