ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 風プロ パラノイア 〜Ep1〜 1ー5執筆中 ( No.21 )
- 日時: 2011/07/12 16:34
- 名前: 風(元:秋空 ◆jU80AwU6/. (ID: L0.s5zak)
Episode1
Stage1「痛みを感じ感触が有り涙が本当に出ている感覚になるのが、このゲームだ」Part5
「おいちぃっ」
風は、ゲーム内の店舗で買ったチューハイに口を付ける。
ゴクリと音を立て飲み込むと炭酸飲料の様な感覚が喉を通り踊る様に弾けた。
彼女は、最初の一口を堪能し一気にグビグビと呑み始める。
まるでリノウェイが自分に行った悪行を忘れようとするかの様に。 一気に、酒を流し込み派手に音を立てて呑み出した。
「プハァッ! はぁ、今は、現実では三時半くらいかぁ……愛達が来るのは八時位からかなぁ?」
空になるまで飲み干し彼女は、無造作に缶を握り潰す。 そして、外を見やる。
外の人間達は皆、一様に彼女とは、時間が隔絶されたかのような速度で動き回っている。
今、彼女が居る場所は、アストラルの中の宿屋だ。
基本的には、此方の世界の一日は、現実世界の一時間だが、宿屋などの幾つかの場所では、現実と同等の時間の流れになるのだ。
彼女は、何時も付き合っている仲間達を待つ事にした。 仲間でる月読愛や野宮詩織は現実世界での八時頃に主に此処に来ている。
それまで、アストラル内での時間間隔の中で居たら感覚的には、五日分の時間を孤独で過ごすと言う事になる。
親しい仲間が来るのを待つ為に宿は、良く使われる。
宿主に、相手の名前を伝えて置くと対象が来ると同時に、個室に電話が掛かってきて知らせる仕組みになっている。
彼女は、まだ、当分有るなと一人ゴチながら仮眠を取ろうとベッドへと向かう。
『ふかふかだ……こんな寝心地の良さそうなベッドは初めて』
アストラルにログインする時間が大体決まっていて、基本的には何時も仲間達と一緒に居る事の出来る彼女は、宿を使ったことが実は、今まで無い。
入室した瞬間は、畳み十五畳分は有ろう広い間合いと高い天井、控え目ながら絢爛とした内装に愕然とした物だ。
見た雰囲気だけではなくて使われている素材も最高の物の様だと肌で感じる。
彼女は、しばらくの間、ベッドを愛撫する様にして触り心地に感嘆する。
そして、十秒以上が経過し彼女は、はっとなる。 何故、ベッドに近付いたのかを思い出し彼女は、ベッドへと横たわる。
目を瞑っていると頭がボーっとしてくる。 部屋は、冷房が効いて寝心地が良い。
だが、あの男との忌わしい時間が消える訳ではない。 あの短絡的で身勝手な発現。 獣の様な行動。
全てが、鮮明に思い出される。 彼女は、眠りながら渋面造る。 しかし、そんな中で最も嫌だった事が有る。
彼に手を引かれ抵抗しながらも彼女は、ある種、恍惚とした感情に襲われていた。
男が嫌いだ。 身勝手で下品で女を性欲の捌け口としてしか見ていない気がして。
彼女は起き上がり、電話を取り更に、チューハイを二本ほど注文する。 それを直ぐに飲み干しまどろみの中、眠りにつく。
兎に角、忘れたかった。 リノウェイという男の事を……
数時間が過ぎた。
テレホンの音が、部屋に響き渡る。 彼女は目を覚ます。 そして、眠たそうに眼を擦る。
そして、覚束ない足取りで電話を取りに向かい、受話器を取り耳に当てる。
「月読愛様と野宮詩織様、両名が到着しました。 ギルド五十七番テーブルにてお待ちです」
淡々とした口調で従業員らしき女性が、仲間の到着ち居場所を知らせる。
風は、眼を輝かせ、外していたヘアピンを着け顔を洗って部屋を出た。
そして、彼女は、月読達の居る場所へと足を進めた。
現実では、夜の筈だが、ゲーム内での時間は、夕方の様だ。 彼女が寝てから、五度目の夕方だろう。
やっと、安心してこの世界を楽しめると彼女は、少しスキップするような感じで二人の下へと進む。
「よっ、災難だったみたいだな姉貴? つーか、リノウェイの野郎、ザマァだぜ! 野郎の分際でよ!」
五十七番テーブルへと向かう彼女を見つけて、小柄で細身な姿には不釣合いな甲冑と大太刀を背負った、肩につく程度の長さの髪の人物が話しかけてくる。 仲間の野宮詩織だ。 現実の彼女は、河倉 美子と言うらしく貧乳なのだが、巨乳願望が有りゲーム内では巨乳である。
既に、二人とも今日、彼女が何をされたのかは、リノアから聞き及んでいるらしい。
開口一番に、女性優先主義の詩織が、彼女の代弁をする。 実に、彼女らしい言葉だなと風は、微苦笑を浮かべる。
「詩織……愛」
感極まり風は、涙を浮かべながら二人のHNを呼ぶ。
「なっ……何ですの? 改まって!?」
いつもと明らかに違う雰囲気の彼女に驚き、もう一方の仲間、月読愛が、口を開く。
緑色を基調とした魔女姿の前髪は整えられた紫掛かった黒の腰まである髪が特徴的な女性だ。
実は、現実世界では目と髪の色が赤と言う珍しい容姿だそうだ。 本名は、志摩 桜子と言うらしい。
三人は、夫々の本名を知る程度には、親しい。何しろ、彼女たちの交流は、このオンラインゲームだけではない。
小説投稿を主とした大型サイトである小説カキコと言うサイトでこのゲームが出来る以前から付き合っていた。
「んっ……何か、こんなに愛達に会って嬉しいと思ったの初めてで……是からも友達で居てくれるよね!?」
大きく腕を広げて抱きついてくる彼女を二人は拒まなかった。
そして、二人は苦しそうにしながらも夫々の顔を見回して言う。
「当たり前じゃねぇかよ? そんなこと聞くなんてよっぽど怖かったんだな!」
「当然ですわ! 風は、月読のお姉さんですもの?」
その当然の言葉に、彼女は思わず涙ぐんだ。
余程、嫌な経験だったのだなと二人は、涙する仲間を見て察し彼女が落ち着くまで彼女に抱き付かれたままで居た。
「ふぅ……ゴメン、そろそろ、クエスト依頼してスリリングなゲームをしようか?」
落ち着きを取り戻して周りを見回し彼女は、二人から手を放す。 苦しかったと言う様子を二人は、態とらしく顔に出す。
風は、二人に謝り、落ち着いたからゲームの本懐を始めようと促す。
月読と野宮は、目を見合わせて呆れた風情の顔を見せると風の言葉に賛成した。
————温かい友、その存在が、どれだけ大事か、彼女達は、この後、知る事となる————……
〜Epsode1 Stage1「痛みを感じ感触が有り涙が本当に出ている感覚になるのが、このゲームだ」 The end〜