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- Re: 風プロ パラノイア 〜Ep2 1-5更新 9/26 コメ求む ( No.214 )
- 日時: 2011/10/01 19:49
- 名前: 風猫(元:風 ◆jU80AwU6/. (ID: rR8PsEnv)
Stage1「慟哭が心の空を貫くがゆえに……」Part6副題『過去を断つ覚悟』
(一人称視点:HN・月読愛 本名・志摩 桜子視点)
何故、お姉様が? 何故、彼女が犠牲になってしまったのですの? あいつなら……まだ、良かったのに——
月読愛——————
“死んじゃってゴメンって言ってたって……”ですって?
何で……なんでそんなに馬鹿なことを言い残していくのですの?
本当に、どうしようもない馬鹿ですわ!
「私が、あんな油断さえしなければ……お姉様は……」
涼しい夜風が今は鬱陶しい。
誰もがインターネットと言う名の脱出不能の堅牢な檻に収監された今、ここは、以前よりはるかに人口密集度が増している。 行きかう人々の声がうるさい。 うっとうしい。
分っていますわ。 それは、ここを歩く人々の中にも私のように仲間を失い沈んでいらっしゃる人々がいることくらい。 でも、一人で何も聞こえない所で喚きたいのですの!
わがままですわね……ハァ、少し前は……結構、一人になれる場所もあったのものですのに。
「おっ、黄昏てるそこの美少女! 俺が、このゴールデンハンドで癒してやるぜ!」
黄昏ている美少女……一体誰のことでしょう? 卑下な男の声を考えるに狙われている少女は危険なのでは……
そんなことを他人事のように考えている私に声の主は、近づいてい来る。
卑下た声にお似合いの下賎な身なりの男。
左目を眼帯で隠した無精ひげの角ばった顔つきの男。 年齢は四十台半ば位かしら?
見るからに馬鹿丸出しで下品そうですわ! 汚らわしい、来るなとオーラを飛ばしては見たけれど相手は、全く気付かぬ様子。
相当、女に飢えているのか……私の情動などまったく察せず、ズカズカと進軍してきますの。
私、胸の鼓動がドクンドクンとうるさく感じるほどに緊張してきましたわ!
正直、怖いですの。 女子高の出身と言うこともあって男性経験も乏しいですし……何より近寄ってくる男は威圧感が……凄いの。
「っ……それ以上近寄るなですわ! 変態野獣男! 汚らわしい手を近づけるなと言っているのです!」
でも、何の抵抗もしなかったら良いようにやられるのも明白。
私は意を決して大声をはりあげ男を罵倒する。 周りの目も加わり相手は、行動に出にくくなるはず。
逡巡しているすきに、ダッシュで逃げれば振り切れるはず!
周りの目……えっ、何ですの?
皆さん……女の子が叫んでいるのに……悪漢に襲われているのに何のリアクションも無しって……
あっ、ここは、そうだ。 歓楽街のような場所。 ラブホテルの乱立する場所。
比較的静かな場所で心の整理をしようとしていたらこんな場所の裏通りにきてしまったのですの私。
これじゃ良いカモじゃありませんこと!? ヤバイ。 周りは、襲われる弱者を見て快楽を覚えるような変態ばかり!
危険……危険危険危険……あぁ、貞操の危機という奴ですの? こんな野獣のような粗忽物に……やられるのは絶対、ごめんですわ!
でも、退路は絶たれていますし……どうすれば? くっ! 風……なにをもう、居ない人に頼っているの!?
詩織……リノアさん……助けに来てですの! 自分の不注意で助けを求めるしかないような私が情けないですわ!
「誰も君の心配なんてしてないぜ? ここに来てるってことは欲求不満なのかとばかり思ってましたお姫様」
「あら? 貴方のような粗野で無学そうな男でも一応の敬語は話せるのですね……」
逃げ場はない。
なるべく時間を稼いで急所に一撃入れて……逃走するべき! そうですの!
何を甘えたことを考えているのですの志摩桜子! いつも優しくしてくれた風は、もういないのですの!
私を護ろうとしてくれる存在なんて後は、詩織位なものですの! 私自身が、シャキッとしないでどうしますの!?
なるべく隙を見せずこの場を自分の力で切り抜けるのですわ。
正直、相手の体の幅は広くこちらを逃すつもりも無いようで退路を断つように上手く近寄ってきていますわ……
でも、言葉の押収をしている間で奴の動きを一瞬でも止めれる言葉を発することができれば……
無理矢理一気に私を抱き込もうとしてこないコイツなら何とか……
「言ってくれるね子猫ちゃん? そう言う女王様気質ってここらへんじゃ始てだぜ! きゅんと来るじゃねぇかぁ!」
男は、私の罵倒に恍惚とした表情を浮かべる。
こいつ、マゾですの? 何だか相当な性的嫌悪感を感じましたわ。
断定ですの! コイツからは何が何でも逃げ延びねば!
しかし、無骨で馬鹿そうな男ではあるけど何度もこの手のことを成功させてきたのでしょう……
手馴れているというかこちらの動きを制限するのが上手い……
うぅ、こうなったらいっそ挑発して動きの単純化を……狙いましょうか。
いえ、相手の体の体積は広く、単純になったとしても回避しきれるとは限りませんわ。 リスクが大きい。
そんなことを考えている間にもやつは、じりじりと近付いてきて……
「もう、逃げれないぜ子猫ちゃん? つーかーまーえー……」
「ふわあぁぁぁ……あら、ごめんなさいね。 あまりに冗長なのであくびがでてしまいましたわ。
本来なら貴方、とっくに警察呼ばれて刑務所行きですわね?
もっとも、現実の世界では、できないことをこちらでやっている臆病者なのでしょうけど」
男が私を捕獲する動作に入る。 その瞬間、私はわざとらしくあくびをして長髪の言葉を並べたてる。
瞬間、男の動作が緩慢になったのを私は見逃さずすかさず股間に膝蹴りをくらわす。
悶絶し苦悶のうめきを上げくずれおちる男。 私は、それを一瞥もせずに全力疾走しましたわ。
だって、振り返れば捕まる気がして……私を逃した男の怒声が耳に響く。
速くあの野卑な奴の声の届かぬ所へと逃れたい。
過去に思いを馳せたい。
同じポッキーを一緒に食べてデュエットしかけたときのこと、私のことの妄想で転がり回って頭を打った馬鹿な風のこと。
私に大学進学についての手引きを初々しい雰囲気で慣れない手つきでして下さった風のこと。
あぁ……一緒に、私の街に来て夜空を見上げて……
私のお父上の船で一緒に海に出て……そんな日々を暮らしてみたいと誓ったあの日。
思い出される過去の残影。 その全てに浸りたいですわ。
何で……何でですの? 何で死んでしまったの……なんで私のために命を捨てたのですの!?
私のために命を捨てたなど傲岸不遜にすら聞こえる自分勝手な夢のはずなのに……
彼女は、私のために本気で命を捨てた。 そこに彼女自身のなにか、彼女自身への言い訳があったとしても……
本来……しえないことですわ。
私は、彼女を犠牲にして生き延びた。 そうなら彼女の分も人生を謳歌しないといけないという義務があるはず。
今まで、彼女に沢山助けられきた。 でも、彼女はもういない……いないのですの。
「はぁはぁはぁはぁ……どうやらおってこないようですわね」
「やっぱ、愛は、はぁはぁする声がエロいよな。 釘宮さん……いや、堀江さんみたいで」
何分走ったでしょう。 足は既にガクガクして酸欠状態で呼吸が困難でめまいがしますわ。
体も火照って汗ばんでいるようですの。 息が……苦しいですわ。 息ができない感覚。
彼女を失ったときのような感覚。 あのときにあった切なさと喪失感がこみ上げてきて涙が流れる。
生暖かい涙、流れたら止まない……雨のようですわ。
変態男をまいたと安堵したら瞬間に私は、過去の記憶にしがみついていた。 そう言うことですの……?
泣き崩れそうですわ本当……立ち止まり呼吸を整えていると聞き覚えのある声。
顔を上げてみるとそこには、見覚えのあるボーイッシュな少女。
華奢で小さな体に反して、大きな胸のアンバランスさが特徴的な私の友人。
「詩織……こんな所で何をしてましたの?」
「あぁ、リノアの姉さんに愛がピンチになってるって聞いてな。 あたしが助けた方が良いんじゃないかってさ」
なるほど、機械とは思えない感情を考慮した判断ですこと。
そんな判断ができるからこそ私達は、彼女達受付嬢システムと人間を相手にするように楽しくコミュニケーションできるのですけどね。
それにしてもその根回しは少しありがたかったですわ。 私、籠の中の鳥のような状況でしたもの。
きっと、風と一緒だったらいつまでもこれからも長い間、そうだったのでしょうね。
勿論、それでも私は、彼女が大好きですし……彼女に感謝して尊敬してを何度も繰り返すでしょうけど……
あぁ……少しは、自立したいから私のやりたいようにさせて! とか、彼女に言って困らせてみるのも楽しいかもしれませんわね?
楽しいか……もう、会えないのですね。 本当に、もう、会えないのだから。
「詩織。 私、本当は風を失ったとき貴方が犠牲になってくれれば良かったのにと思っていましたわ。 ごめんなさいね?」
「良いって良いって! きっと、あたしが死にかけて愛と同じ状況になったら似たようなこと言ってるから!」
一歩ずつ前に進みましょう。
存在しないものを見ていてもなにも前には進まないのですから。
そう、少し開き直ることができた気がした。
だから、私は、思い切って詩織に言ってみたのですわ。 本当なら胸のうちに閉まっておくべきことを。
すると彼女は、眉一つ動かさず達観した表情で言いますの。 似た様なことを思っていたと。
つまり、彼女も私のことより風のことの方が好きだったって事実。
なんだか、嫌悪感より親近感を感じましたわ。
はっきり言っていままでは私、彼女のことが苦手でしたの。 女性ですのに男みたいではしたなくて……
でも、そんなはしたなさと言うか男らしい一面を憧れる自分がいて……
そこも嫌で……女性とは清楚であるべきだからと認めたくなくて。
「はっきり言いますのね?」
「案外、突っかかってこないな? キーキーと反論してくれよ? 萎えるだろ?」
だからこそ、彼女の言葉があっさり肯定できましたわ。
あぁ、やはり私達は反目しあっていたのだと……良い部分を見出しながらもどこかすれ違っていたのだなと。
そんな達観した私の胸のうちを見透かしたように詩織は、質問攻めと言うか何と言えばいいのですの?
自分の理想を私に押付けてきますの。
反論するのが私の良い所? なんだか、こちらこそ萎えるですの。
「何だよ、何か可笑しい?」
「いえ、少し……気が楽になったと言いますか……詩織、これからも宜しくお願いしますわ」
えっ、私、笑っていましたの?
あぁ、数刻前に大事な人を失ったばかりなのに……人は、笑えてしまうのですわね……
何だか儚いような虚しいような……でも、哀れみの気持ちが離別した存在への手向け酒ではないような……そんな気がして。
きっと、彼女も私が笑っているほうが嬉しい気がして……
「当たり前だろ?」
詩織は、私の申し出に間髪いれずに答えてくれた。
私達は、この日を機に正式なチームを組むことを決意したのだ。
——————ねぇ、愛? 愛は、笑っているほうが可愛いよ? だって、愛の笑い声可愛いもん——————
風より————————
〜Stage1「慟哭が心の空を貫くがゆえに……」The end〜