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Re: 風プロ パラノイア Ep2 2-2更新 10/31 コメ求む ( No.242 )
日時: 2011/12/02 12:52
名前: 風猫(元:風  ◆Z1iQc90X/A (ID: rR8PsEnv)
参照: リノウェイさん復活!!!

Episode2

Stage2「現実も非現実も分らないんだ……だから、赦してくれよ」Part3副題『裏側 1』



     ————弱さとは罪なのだろうか。 ならば、弱者を踏みにじり叩き落す強者は罪ではないのだろうか?————



  
                                  リノウェイより——————




  男は、唸り声を上げた。
  その声は、追い詰められた獣の威嚇の声のようで。 
  世界と自分に対する乖離を感じた時の世界への憎悪の声のようで————……
  ギロリと細められた双眸からは憎しみが滲み出ているのが理解できる。
  男の名は、伊崎朱馬。 アストラルの元ユーザーだった男だ。 
  彼は、アストラルの中でガンマンの職業に就き主に暗殺を生業として居た。

  当時のユーザーネームはリノウェイ。 
  プレイ時間自体は少ないが、現実世界での射的の腕の高さも有り実は、一部界隈で有名になっていた男だ。
  だが、彼は一つのミスをおかしそれが明るみに出たことでアストラルを追放される。
  一人の女性を無理矢理、誘拐しようとしたところを警備プログラムに発見され拘束されたのだ。
  愚かしい蛮行と多くのプレイヤー達はライバルが減ったことを喜びこそすれ怒る者はいなかった。
  そして、アストラルがパラノイアと名前を変えプレイヤーを収監する檻と化してから一週間。
  彼の名は風化し今や誰の心にも残ってはいない。 
  それが事実。 
  プレイ時間が短めにも関わらず狙撃手としてのある程度の地位を確立していた彼は、永久追放される少し前。
  このアストラルがパラノイアと変容し殺戮ゲームの舞台になることをメインプログラム、テッサイアの声により理解していた。
  故に、彼にとって何の足しにもならない何も満たしてくれない下らない現実など断ち切った。
  彼にとって現実世界の人脈も職場も家族も空虚な幻影のようなものだったのだ。

  当時の彼は、仕事を辞職した日、早速アストラルへと行く。
  手始めに彼は、みずからの求める血と憎しみに満ちた混沌の階段を登ろうとかねてより興味を抱いていた女性に手を出した。
  女性の名を風。 読みはフォン。 住所も本名も本当の容姿も把握して彼は彼女をターゲットに選んだ。
  本当の容姿を確認したのは、彼はパラノイアで死ぬとアバターが砕け現実世界の姿とおなじになることを理解していたからだ。 
  
「あぁ……良いだろう。 なぁ、何で……あの程度のことで永久追放なんだよ?
乾いて乾いてたまらねぇ! 俺は……俺は、こんな刺激の足りない世界は大嫌いだ! 破滅しても構わねぇ!
ヒヒッ! ヒャーッハハハハハハハッハハハハッハッハッッッッ!」

  男は、何の変哲もないオンラインゲームをしながら突然、笑いだす。
  瞳は、世界への憎悪とアストラルへの渇望で満ちていて。 
  椅子の上で不規則に揺れる体は、まるで何かの禁断症状を訴えているかのようで。
  彼は、父と母、そして五歳離れた妹との四人暮らしだがすでに誰一人手に終えず時おり発する奇声に耳を塞ぐばかり。
  金や他人の眼に見える証拠が有れば家から追い出し隔離することもできるが、生憎と彼の家族にはその資産はない。
  そして、リノウェイをあの痛みを感じるオンラインゲームでリノウェイを名乗っていた男、伊崎朱馬は、絶妙に本性を隠していた。

  そんな彼は、明らかな異常者だ。
  混沌と狂気を渇望する異端者だ。 
  ゆえに、恐怖と絶望がない交ぜとなっている今のアストラルに憧憬の念を感じずにはいられない。

「行きてぇ……行きてぇよぉ……そのために会社辞めたのによぉ!」

  怒り狂ったようにバンっとキーボードの鍵盤を男は叩く。
  そして、半狂乱になって猛り狂う。 猛りくるっては退職金で買った酒を口に流す。
  喉をごくりと鳴らすと口角をつり上げおぞしい声で嘲笑を始める。
  これほどまでに歪んでいるのにこれほどまでに自室では、狂っているのに彼の狂気は近隣には気付かれない。
  それどころか、人に優しい好青年で通っている。
  彼の実家と近隣との距離がそれなりに離れていること。 
  それを全て計算に入れ男は社交の場では好青年を演じ家の中では、牙剥きだしの悪者となっている。
  家族を嘲笑う悪魔。 それが、彼だ。

  夜中の十二時をすでに過ぎていた。
  三人の家族たちは、彼の独壇場であると知り彼の狂気に満ちた笑い声を聞くまいと耳を塞いで震えながら眠っている事だろう。
  そんな満たされぬ狂った男の耳に聞き覚えのある声が突然、響く。


「久し振りだな。 お前の狂気とくと見たぞ」
「あぁ……アンタか? ゲームマスターとか言って完全に枠内越えてるんじゃねぇか?」

  その深く通る男性は、伊崎朱馬にとっては聞き覚えのある声だった。
  いや、アストラルから追放される前までは聞き馴染んだ声だったとすら言える。
  彼は、大した驚いた様子もなく微笑を浮かべた。 ようやく来た。 待っていた、そう言いたげに。
  常に、狙撃手としてレベル以上の実績を上げてきた朱馬。
  彼は、あの巨大オンラインゲーム、アストラルのメインプログラムたるテッサイアに大いなる興味を示されていた。
  彼の誘惑の声に伊崎は直ぐに飛びつこうとする。 しかし、一瞬躊躇う。
  そして、挨拶代わりの皮肉を漏らす。
  彼が声を掛けてきたと言うことは恐らくは、嘲笑や侮蔑ではない。 彼と付き合いの長い朱馬は直ぐに理解した。
  感謝の念と昔のいつものやり取りを篭めて皮肉を投げかける。
  事実、一オンラインゲームの管理者を遥かに越えた枠に存在する人工頭脳に——————…………

「で、話は何だ?」
「分っているだろう? 私は、狂ったお前を愛しているのだ」


  それ以上の言葉は要らなかった。
  伊崎朱馬は、一瞬にして彼の意図を理解し凄絶な笑みを浮べる。
  まさにこの瞬間、リノウェイが復活したのだ。


  一方、その頃、あの殺戮ゲーム“パラノイア”で死んだはずの人間が目を覚ましてた。
  目を覚ましたとはいっても現実の世界に転換されたわけではない。
  そこは、狭い空間だった。
  空間は、区切りは分るが透明で生四角形をしているらしい。
  黒髪で肩に掛かる程度のセミロング。 長身痩躯で色白。 
  優しげな顔立ち、男受けしそうな少女と呼ぶには少し行っているが十分に若い女だ。
  名を国枝円。 アストラルでは、海賊となり風と名乗っていた。 

「あれ? 何であたし……」

  訳が分らず額に手をあてがう。
  確かな温もりが、額から掌に伝う。
  あの時、確かに死んだはずだ。 あの強烈な痛みと鮮血に満たされら光景。
  フラッシュバックする体に大穴をあけた仲間の姿。 そして、焼き尽くされるときの明らかに処理能力を超えた高温に対する痛み。
  死ぬ前日にメインプログラム、テッサイアから発せられた言葉。
  あのゲームで死んだプレイヤーは、完全に死んだ事とされるはずだ。
  そして、自分は、仲間である愛を助けるために自分の生命力を全て捧げて自決したはず。
  
「嘘だった? あいつの言葉は……」
「違うな。 嘘ではない。 あの後、ゲームオーバーになったプレイヤーで生き延びたのはお前を含めて五人だ」

  厳かな声。
  あの日、聞いた絶望の象徴。
  忘れるはずもない空虚で無感情な声。
  メインプログラム、テッサイアだ。 脳内に直接語りかけているらしい。
  しかし、突然の彼の言葉に信憑性は感じられず信じる気にはなれない。
  風は、彼の言葉を聞いて反発する。

「ふーん、証拠は?」
「証拠が必要なのか? かりに必要としてお前は何を提示すれば証拠として認識するのだ?」

  何を言っているのだろうと彼女は、怪訝そうに眉根をひそめる。
  その表情を何らかの方法で遠方から察知したのかテッサイアは続ける。
  現実と虚構を認識できない愚者に善悪、真偽の評価が下せるのかと。
  ある種、至極最もな答え。 彼女達は、現実よりも現実的なアストラルで長い時間生活し思い知った。
  現実とバーチャルとは、情報量の違いに過ぎない。 事実、痛みや匂いすらあの世界は完全に再現した。
  現実と寸分違わず。 
  それは、人の触れてはならない禁忌だったのだと今更に思い知らされる。
  彼女は、すでに現実と虚構が綯交ぜになっている脳髄を抉り出して踏みにじりたい衝動に駆られた。
  その様を嬉々としてみているのだろうテッサイアはなおも言葉を紡ぐ。

「もし、月読愛が死んでいればこうやって転生していなかっただろうな」
「転生……?」

  理解できぬ言葉に再度、円は、眉根をひそめる。
  転生という言葉の意味は知っている。 しかし、それは、不可能なはずだ。
  一度死んだら生き返れない。 命は、だからこそ重い筈だ。 そんなことは、幼稚園製でも分る倫理のはずだ。
  
「…………墓穴掘ったね? 生き返るなんて有り得ない!」
「正確には、違うな。 ヒットポイントがゼロになり元の世界の姿を晒してすぐに死ななかったのを疑問に思わなかったか?
あれが、生死を別ける審査時間だったのさ」

  益々、分らない。
  仮に、彼の言う事が真実としてなぜ、自分は延命させられたのか。
  疑念が鬱積する。
  自分が優秀だったから。 まず、それは有り得ない。 なぜなら、彼女は、底辺のプレイヤーと言えるからだ。
  何せ、プレイ時間も短く腕前自体もそれ程ではないからレベルも相当低い。
  容貌、性格、人徳、レアな武具を所有していること。 思いつく限りの条件をピックアップしていくが全く、見当違いだ。
  彼女は、途方にくれて遠くを眺める。
  次の瞬間、テッサイアの声が耳に響く。

「お前は、死の瞬間……最後まで他人を思っていた。 それは、稀有なことだ」

  その言葉の意味は、彼女にはそのときは理解できなかった。


  一方、時間は一週間前の深夜、伊崎朱馬の実家での出来事に遡る。
  テッサイアに言われるがままに彼は、パラノイアとログインした。
  血が沸々と煮え滾っているのを彼は理解して改めて疑問をテッサイアに投げかけた。

「ところでよぉ? 俺は何で復帰を許されたんだ?」
「お前の狂気は、パラノイアに災禍を巻き起こす。 そう、私の演算プログラムが教えているのだ。 導くのだリノゥエイよ」

  解を聞きリノウェイと言う最も思い入れのある名前で呼ばれた彼は少し照れ臭そうにする。
  そして、彼は意気込む。 文字通り災禍を引き起こし混沌へと導いてやろうと。
  そんなことを考えながら彼は独り言のように言う。 
  より凶悪なジョーカーが居ても良いだろう、というテッサイアに対する彼なりの提案だ。
  その条件とは、チートを許せということに他ならない。 
  二重職業の許可。 つまり、通常は一つしか選択できないはずの職業を自分だけは二つ有する事ができるということだ。
  テッサイアは、それを受諾する。
  かくして高速アタッカーであるドライヴとガンマンと言う近距離と遠距離の両方の超攻撃型の戦士が完成した。

「なぁ……テッサイア。 俺は、今、最高に興奮してる」
「私もだよ。 リノウェイ」



       猫被って社交辞令言って何がリアルだ? リアルとは力だ。 卑怯も何もかも全て許される——————



                                    リノウェイより——————



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