ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 風プロ パラノイア 〜Ep1〜 2−1執筆中 ( No.25 )
- 日時: 2011/07/13 21:49
- 名前: 風(元:秋空 ◆jU80AwU6/. (ID: L0.s5zak)
Episode1
Stage2「物語の歯車が動き出す……アストラルと言う名の檻へようこそ」Part1
——世界は、檻だ……常識と言う都合の良い言葉で塗り固められた異常者を収監する檻だ。
アストラルもまた、檻だ。 異常者を捕らえて離さず異常者の中に僅かに有った常識を鎖す————
七時十五分。 風が、野宮達と会う一時間程度前の話。
何処かの居住区。 バスが止る音がする。 一人は男で一人は女。
一時間以上隣の席に座りバスに揺られながら家から最も近いこのバス停で降りる。
何時もの事だ。 二人は、まだ、残っている友人に会釈して並んで歩き出す。
適度に涼しい風が吹いていて日中と比べて心地良い。
バスが停車をやめ動き出し少しして女性の方が話し出す。
男の方より頭一つ分くらい小さい黒髪黒目のボーイッシュな娘。
「ねぇ、アストラル、面白そうでしょう? 一緒にやらない!?
風さん達もやってるみたいだしさぁ?」
慣れた様子で話しかける彼女。
どうやら、話の内容は最近、噂のあの痛みを感じるゲームだ。
其れに対して男の方は、全くと言って良いほど表情を動かさず仏頂面に面倒そうな口調で答える。
「うーん、そうだな不知火。 お前を含むハーレム王国を創造できるって言う確証があれば俺は迷わず!」
生憎な事にそのオンラインゲームに嵌っている者達でネット上での知り合いは、女性だけだ。
風も月読愛も野宮詩織も小説カキコというサイトでの知り合いだが皆、女だ。
不知火と呼ばれた女は、男の言葉に草臥れた様に首を振って立ち止まる。 そして、上目遣いで彼に訴えかける。
「あーぁっ! もう! アンタってばそんなだから何時まで経っても持てないのよ! ったく、馬鹿みたい!
博樹! 先に言っておくわね! あたしは、ゲーム内では絶対、男役だからそこんとこ宜しく!」
博樹と呼ばれた黒髪の青年は、彼女の言葉に立ち止まる。 善ジュの通り彼女も無論、彼のハーレム計画の中に入っているのだ。
彼女が、ゲーム内で男の姿では満たされないではないか。 普段、仏頂面の彼の顔が、渋面を造る様が街頭の灯りに照らされる。
「マジかよ! そんな……いや、男の娘!? それはそれで……燃えるぜ!」
ハーレムを体験したいなどと言う不順な動機でゲームに参加されても嫌だと言う思いにより、彼女の口から出た言葉は、博樹に意外な勘定を芽生えさせる。 彼女は、彼の多少ポジティブ気味な発現に失言だったと反省しながらも思う。
長年付き合ってきて分っていた。 彼の行動原理はあくまで女性なのだと。
「はぁ……アンタらしいよ」
「大丈夫! 人は簡単に変れないから」
知り合いが居るとは言え、一人でログインすれば風達と合流するまでの最初の間は、一人になってしまう。
不知火は、それに大きな恐怖を感じていた。 だから、有る程度提携を組むことが出来る近場の友人である彼を誘ったのだ。
本当は、女性と付き合うことが目当て等と言う不純な動機ではなく、ゲームを楽しむと言う気にさせたかったが面倒になった。 彼もアストラルの中を体験しているうちに嵌っていくだろう、彼女は、そう心に言い聞かせた。
呆れた口調で返答する彼女に彼は、軽い口調で流すように答えた。
了承のサインだ。 取り合えず、一人でログインしないで済みそうだと、彼女は安堵する。
その時だ。 彼が、不知火の肩に手を置く。
「なぁ……お前さ? そのゲーム痛みとか感じるんだろう? 人助けだ……とか無茶するなよ?」
先程までの適当な様子とは違う真剣な口調。
彼と彼女は昔からの知り合いだ。 二人は、大事な友を失ったことが有る。
親友だった。 素敵な女性だった。 だが、虐められていた。 必死で二人は、助けようとした。
しかし、彼女を救うことが出来なかった。
結果、彼女はマンションの屋上から飛び降り自害した。
そんな過去のトラウマが鬱積して博樹の女性擁護と不知火の人助け精神が、形成されたと言える。
この二人の夫々のトラウマが、ゲームの中で強い波紋を造るのはしばらく後の話だ。
「何よ? 改まって……」
さっきまでの軽い口調はどうしたのだ。 突然の変化に彼女は最初、動揺と気持ち悪さを感じた。
「無茶はするな……きっと、体の傷は残らなくても心の傷は残る!
本当ならそんな危険そうなゲーム、俺はお前に推奨しない。
でも、お前、強情だから一回、やると決めたら行っちまうからなぁ」
しかし、直ぐにそれ以上に違う感情が込上げてくる。
幼馴染の腐れ縁の自分を良く観察し理解している優しい言葉。
大事な親友を失って心にぽっかりと穴が開いてしまったのは自分だけじゃ無かったのだと理解する。 友達からの誘いと好奇心と言う面白半分な自分に、彼は、本気だった。
本気でストッパーになろうとしている。 思わず涙が出る。
前情報として分っている事が有る。 傷つくと現実的な痛みが体を襲うと言う事実。
浅はかだったと反省してゲームに参加するのを止めようかと彼女は自問自答する。
「止めるなよ? 友達との約束なんだろ?
俺がケアするから……本当にヤバイと分ったら皆を説得しようぜ?」
立ち止まる。 街頭の下。 ジジジッと言う街頭から発せられる音が虚しく響く。
時が止ったような感覚。 彼女は、しばらく俯き意を決したように、上目遣いで博樹を見詰る。
何を言わんとしているのか理解し彼は、不知火を制止する。
そして、彼は、ネット上のつながりを今は、優先しようと言った。
優しく……そして、絶対護ると言う強い意志を篭めて————
「ありがとう、今までで最高に格好いいよ今のアンタ」
彼女は、博樹に心の其処からの感謝の念を篭めて言った。
——強い意志は美しい、しかし、其れは思い込みと近しい
特に、護ると言う意思は時に厄介だ……彼等は、後に悲劇を見るのだろう————
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