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- Re: 風プロ パラノイア Ep2 2-3更新 12/2 コメ求む ( No.251 )
- 日時: 2011/12/08 23:21
- 名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: rR8PsEnv)
Episode2
Stage2「現実も非現実も分らないんだ……だから、赦してくれよ」Part4副題『砕ける音』
(一人称視点:HN・菫ーsumireー 本名・橘 菫視点)
「いつまでも準備ばかりしてもられないな。 現実に変える条件は、厳しいから遊んでる余裕はないぜ」
「あーぁ、全くだよ。 覚悟しないとなぁ……」
Neuron様とだいこん大魔法様と同行し始めから五時間が経過しました。
ようやく、わたくし達は準備を終え本格的なクエストへと今から出向きます。
わたくしは、ゲームオーバー=死と解釈すべき今の状況に胸が高鳴っています。
速く体感したい! そして、試してみたいのです。そんな中に、矢張り死の恐怖も強いウェイトを占めていまして。
わたくしは、今までの準備に不安は無いか再確認する。
わたくし達は、先ず、十回ほどフリーダ様の全員、チュートリアルを受けまして……戦闘の基本を体に染み付けましたわ。
本来、普通のゲームならこんなにチュートリアルなどしないのですが、命が掛かっているのなら別ですわよね?
本当に、命が掛かっているなんていう自覚も有りませんが。
わたくし達は実際に、体ごと別世界に移動するかのようなオーバーテクノロジー技術を体感してしまいましたの。
慎重には慎重を喫するべきとの推断は、多くの面々がしている様子。
わたくし達以外にも多くのユーザーと呼んでも良いのかも分りませんわね。 まぁ、この際は、ユーザーとしておきましょう。
それ以外では、良い呼称が思い浮ばなくってごめんなさいな。
まぁ、とにかく、皆様チュートリアルで基本動作などを入念に確かめていましたわ。
十回のチュートリアルに現実時間にして二十分。
チュートリアルの空間では、一分が一時間になりますから二十時間、修行をしましたわね。
正直、思った以上に本格的で何度かフリーダ様には「お前、本当ならこれで死んでる」って、指摘されたなぁ。
最後のほうでようやく三人がかりで、彼女に一本取れましたわ。
彼女は、反射神経と攻撃速度だけはゲーム内でのモンスターでも最高クラスと言うステータス状態で戦いを挑んできましたので。
彼女に一撃与えられる状況を作ったと言うことは、つまりどのようなモンスター相手にも攻撃を与えられるということ。
無論、回避もできるわね。最速状態の彼女と渡り合ったのだから……
まぁ、攻撃範囲が広いとかそう言うのも絡んでくるでしょうが……
そして、二十時間におよぶチュートリアルを終了したあとは、操作性の基本や武器の調達。
便利な店の発見。基本ルールや応用ルールの検証。武器防具、道具などの使い方等の確認。
最後に、今、装備できる最高の武具と最高級の道具を買える限り買いましたわ。
うむ、こう考えるとやれることは全部やった感じですわね。これで駄目だったら運が悪かったってことかしら。
はぁ、まぁ、正直、友達とか家族とか鬱陶しいし現実に未練とか無いし。
むしろ、此方の方が生延びられるようなら楽しそうですわね。
だって、漫画とか本とかゲームとか化粧品とかも普通にあるそうですし。
もっとも、そういうのに手を出すのは、高レベル帯に至り経済的余裕がある程度出てきてからでしょうが。
「まぁ、やるべきことは、やったのですから……後は、挑むのみですわ! 大丈夫ですわよ。最下級のクエストですよ?」
「最下級って言っても死ぬのは嫌だよ。死ぬ可能性はあるわけだよ? 僕以外が死ぬのを見学するのは良いけどさ?」
緊張気味というかやる気のなさげな殿方達を見て、わたくしは、苛立ってらしくないことを口走り口をつぐむ。
そんなわたくしのことなどお構い無しにローテンションこの上ない声で、Neuron様がボソリ。
いえ、全くその通り。他人が死ぬのを見学したいとか良い趣味です事。でも、それってアレじゃなくて?
つまり永遠にここから出れないのでは?
あぁ、彼は、世界が大嫌いだというのは、この数時間の付き合いで分っているのだけど。
一応、このまま居られても困るので聞いてみましょうか。
「貴方、一生、ここで暮らしたいんですの?」
「それも良いかなと思うけどさ。ほら、こっちでもゲームとか小説とかは事欠かないみたいだし?
でもさ。流石にやばそうだよね? この手のこみようと世界観の精緻さ。このままうだうだしている奴に優しいとは思えないな」
質問に目を伏せる事も無く嬉々とした様子で彼は、それも良いなと笑みを浮かべながらこたえる。
どうやら、心底、自分の居た環境が面白くなかったのでしょうね。家庭環境、人間関係? それとも彼自身が普通じゃないのか?
率直と言うか鬱陶しいくらいに暑苦しいだいこん大魔法と比べると観察のしがいのある殿方ですわ。
でも、そんな彼は、中々に観察眼に優れている様子。だからこそ、世界の穢れを察知し易いのかもしれませんわね。
そう! こんなデスゲーム紛いのことをさせるのなら安穏と暮らしてられるような本末転倒なことはしないはず!
何か必ず、ルールが有る。わたくしたちに否が応にもこの遊戯を強制させる何か……
軍資金? いや、ある程度、力が付くものが増えてからの弱者が持つ欲求からくる焦り?
もっと、根本的な……例えば一定レベルに達さない人間の排除とか?
「どうした? 菫。顔色が優れないぜ。今日は、やめるか?」
「ちょっと、何を戯言を言いますの? わたくし、うきうきしているのですわよ。全く、殿方達が情けないから冷や冷やしてたのよ!」
場違いにも心配して話しかけてくるだいこん大魔法。大方、女の子が悲しい顔しているのは嫌だとかお節介をいうのでしょうね。
女の子大好きだからとか女性は大切にって教え込まれたからとかって感じ? どこまでも単細胞で鈍い男ですわ。
まぁ、その分、扱い易そうですけどね。あのやる気無いくせに感が良くて疑り深いもう一人と比べれば。
とにかく、話が進展しないというか、この調子だと折角、受注したクエストの取消しを要請なんてなりかねないから。
わたくしは、躊躇わず本音を口にしてみる。二人とも情けない殿方扱いされて憤慨するかと思いきや。
片や情けなくてすみませんと真摯に謝り、片や情けなくたって良いよとなんともない様子。
あぁ………不安になってきましたわ。腑抜けばかりですの。
「まぁ、ここでいつまでも立ち止まって立って意味ねぇし出向こうぜ!
任務は、簡単! どこにでもある唯のキノコの採取だしよ!」
ふぅ、やっと話が進みましたわね。
少し不安になったとか言っても正直、不安って言うのは、死ぬとか痛い目あうとかに対してじゃなくてさ。
腹立ってわたくしが、こいつ等殺しちゃったらって話ですし。まぁ、なったらなったですが。
絶対、ペナルティ有りそうで面倒ですの。
もしかしたら、処刑なんてもありかもですし。
死んでもかまわないとは言ってもここは、現実世界より気に入ってますからなるべく生きたいですしね。できれば気楽に。
「では、門を潜りますわよ。さぁ、行きましょう」
「はあーぁ、めんどうだなぁ……」
Neuron様の妄言は無視! 先陣を切ってわたくしは歩き出す。門の先は、闇の空間。
しかし、これがバグではないのは事前に聞いているので躊躇はない。
門を抜けた瞬間、何か身体が湾曲するような感覚に襲われて目の前が波形上に揺らめく。
そして、数秒。周りの風景は一変する。起伏に富んだ山々が聳えていて深く青い空が、見上げればあった。
基本的には廃退的な感じの荒野だ。グランドキャニオンの谷の間にいるような感じかしら。
通路は狭く周りは、大きな丘が囲んでいる形だ。
正直、敵に囲まれたら逃場のない面倒な地形といえるだろう。最初の簡単なクエストでこれか。
『侮っていたな。これは、後半クリアさせる気のないクエストがドンドン出てくる予感がしますわ』
微笑む。なぜだか楽しい感情が心の底から湧き出てくる。
二人の殿方達は、まだこの世界の風景を見ている。きっと、どのような地形かできる限り把握しておきたいのだろう。
それは、そうだ。どこが広いか、どこが行き止まりか。把握していないとしてるとでは勝手が違う。 何せ命が掛かっている。
しかし、このフィールドは、どうやら人が周りを見回すには、障害物が多すぎるようだ。
正直、それでもなるべく把握したいと丘の岩肌をつたい登ろうとする姿を見るとわたくし楽しくて…………—————
あれ? わたくし、いかれているのかしら?
「あーぁ、やっぱりあそこしか無いか。簡単なクエストとか言ってたからすぐ近くに採取ポイントが有るのかと思ってたのに」
「仕方ないな。だが、場所は有る程度把握したし、モンスターの多い危険な通路も確認できた。収穫はあったぜ」
十分ほどが過ぎ二人が、ほぼ垂直な壁を走りながら降りてくる。
会話していますけど舌を噛まないのかしら。いっそ、噛んでくれると失笑物で最高なのですが。
成程。採取場所の確認や敵モンスターの居る座標の確認なんても基本ですわね。わたくしとしたことが忘れてたわ。
まぁ、二人の殿方が思ったよりは少しだけ使えるということで安心ですの。
「支給品は人数分拝借しておきましたわ。では、進撃を始めましょう」
「進撃とか……スニーキングミッションの方が効率的な件」
支給品というのはあらかじめギルドからメンバーの支援のために送られる物資のことですわ。
大概、自費で道具を購入するのが困難な初心者のためのものでそれ以上のものは置いていないのですが。
無論、わたくしたちは初心者ですので重宝するものですの。これから末永くね。
いや、二年で最上級クエストをクリアするという条件を考えると初心者で居ていい期間など短いのですが。
とにかく、わたくしは、高鳴る鼓動を抑えきれず握り拳をつくり空に掲げましたわ。
それを見ただいこん大魔法様は、微笑ましそうな顔でわたくしを見ていて。まるで、子煩悩な親馬鹿かって感じ。
まぁ、Neuron様はというともっと、ムカつく反応をみごとにして下さりましたがね。あとで締めましょう!
何がスニーキングミッションよ!? メタルギアなら全てクリアしましたし他のも何個も踏破してますわよわたくし!
正直、このゲームはレベル制。それも、フィールドでの行動がレベルに関連してくるみたいですから。
モンスターを多く狩れるようにしたほうが良いのでは? っと、そんなことはどうでも良いですの!
速く、クエストを楽しみましょう!
悲しみも絶望も恐怖も全て——————
「なぁ、幾ら彼女が俺たちのチームの唯一のアタッカーだからって女の子が先兵ってどう思うよ?」
「そういうプライドは強くなってからに取っときなよ。そういうこと彼女の前で言ってみ? 殺される」
後ろから聞こえる声。余計なお世話ですわ。そう、声を荒げそうになったとき、Neuron様が見事な突っ込み。
全くその通りですの。英雄気取り騎士気取りのお馬鹿より勘の良い殿方のほうがやはり良いですわよね?
「よぉ……初めまして。わたくし、リノウェイと申します」
敵に遭遇する恐れのない道をだいこん大魔法様達の指示で歩いているせいか。
わたくしは、気楽な事を考えていて注意力が散漫になっていた。
そんな私たちの目の前で突然、摩訶不思議な現象が発生する。
空間が湾曲し切裂かれテンガロンハットとジーンズといったガンマン風の服装に似合わない刃物を持った男が現れたのだ。
男は、百八十後半程度の長身で青と翠のオッドアイで綺麗な顎のラインをした流麗な顔立ちの美男子。この殿方は一体? そもそも、わたくしたちの前に新手のプレーヤーがなぜ?
ありえない。このフィールドにはわたくし達しか居ないはず! 乱入など出来るはずもない!
モンスターハンターのような同じフィールドがプレイヤーの数だけある仕様になっていて……
つまり、同じフィールドで狩をしていてもそこで違うパーティのプレイヤーと遭遇することは有りえない。
———————ーイレギュラー
心臓が、警鐘を鳴らす。
相手の男は、何もしていないのに。ただ、わたくし達に人の良い笑みを浮かべているだけなのに! 強烈な重圧が圧し掛かる!
明らかな格上だ。
「そして、さようならとでも言っておこう!」
数秒のにらみ合いの後、男は、何も無いはずの空間に手を翳し突然、ナイフを召還してみせる。
そして、一瞬にして強靭な脚力でわたくしたちとの距離を詰め切りかかってきた。
しかし、その刃は、わたくしが防御するより前に止った。 澄んだ衝撃音が響く。
目の前には、動き易く改造されたローブを着た男。
「おいおい、いきなり切掛るとかいかれてんのか!?」
「てめぇから先に死にたいかだいこん大魔法君?」
だいこん大魔法様だった。
本当にお節介極まりない馬鹿らしい。
やれやれだ。こういう奴は速く死ぬ。絶対だ。現実は甘くない。
あーぁ、萎えたな。
「え?」
「あの……貴方。凄く魅力的ですわ! わたくし、貴方と組みたいですの」
わたくしは、躊躇い無く彼の心臓部を自らの武器である刃渡り三十センチメートルほどの青色のナイフ属性の武器“クールナイフ”で突き刺す。 一瞬、目の前の殿方が目を見開く。
正直、何の躊躇いも無く人間に切掛れるとか……わたくしと同じにおいがして本当に親近感が湧きましたのよ?
だいこん大魔法様とは数時間の付き合いですしどうでも良いわ。
初めての人を刺すという感覚。長く長く手に伝わり続けている。
あぁ、返り血でドレスが汚れてしまいましたわね。
ナイフを抜けばきっと夥しい量の血が流れるのでしょう。
そして、その鮮血は、大地に汚い染みを作るのでしょうね。
あぁ、それが、この殿方の最後の情景にして最後の記憶。素晴らしいですわね本当に!
それでは…………
「お休みなさい。だいこん大魔法様」
「お前、良いね。最高だぜ!」
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