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- Re: 風プロ パラノイア Ep2 2-4更新 12/8 コメ求む ( No.263 )
- 日時: 2011/12/17 18:14
- 名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: rR8PsEnv)
Stage2「現実も非現実も分らないんだ……だから、赦してくれよ」Part5副題『砕ける音 Part2』
(一人称視点:HN・だいこん大魔法 本名・神林狼牙視点)
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痛い? 激痛!? やばい……体に異物が投入された感覚! 体中に熱湯が掛けられたような強烈な熱さが襲う!
痛い。苦しい! 尋常じゃない汗が、体中を覆うような感覚。
呼吸困難。脳が苦悶を削除することに精一杯で俺の命令を無視する! 動けっ! ヤベェ状況なんだよ! 動け!
叫びたくても声が出ない! 動かしたくても痙攣した蛙みたいに足をピク付かせることしか出来ない!
くそっ……こんなに痛いのかよ! 幾ら何でもゲームじゃねぇだろう!?
分ってるさ……こりゃぁ、唯のゲームじゃねぇのはさ。でもよ。最初からこんなの有りかよ?
唯のでも何でもゲームならよ。こんな無茶苦茶、なしだろうがよぉ!?
って言うかよ。刺された場所分ってきたぜ。適度に痛みが引いてさ……あぁ、普通だったらここ刺されたら即死じゃない?
心臓付近だって! 冗談じゃないぜ。あぁ、ヒットポイントバーが二割しか減ってねぇ……
この痛みを後、四回は喰らわないとこの世界じゃ昇天できねぇってことか? エゲツねぇ。
でもよ……ならば、彼女を止めることもこの状況から仲間を救う事もまだできるってことじゃねぇか?
イカれてるぜ。何で他人のこと考えて俺は、こんなに熱くなってやがるんだ?
今は、俺自身の心配している場合じゃねぇか!? でもさ……でもよ。全然駄目だぜ?
俺は……俺が分らねぇから他人が好きなんだよ!
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
状況的にヤバイ奴等に絡まれてる俺が生延びれる可能性は低い。
夜兎の奴がログアウトする時間稼ぎをしたほうが賢明だ。
「ログアウトだ夜兎! 俺のことは構うな! 後は、任せる」
「……あぁ。最初からそのつもりさ」
冷てぇ野郎だなぁ……動いた骸を見て感動もしねぇで最初からそのつもりでしただと?
一瞬の躊躇いも無くログアウトしやがって。
だが、それで良いんだ。それに、ちょっと羨ましくもあるぜ。
そう言う合理的って奴が生延びて上に行くのが世の中だ。
俺は、俺が見えなくて他人が眩しくてお節介で捨て身で……
捨石にされ易くて一番、直ぐに消えてしまう人間で。だから、こんなことをやっていて。
あーぁ、こんな殺風景で空が高いだけの色気の欠片もない空間で俺は、散るのか?
きっと、ポリゴン撒き散らして最後は消滅するんだぜ。
笑えないからもう少し足掻いてやりましょうか。
せめて、目の前の狂気に捕らわれてしまったお姫様は、救ってやる。王子様みたいにな!
お前が、涙でも流してくれたら救ったってことにしてくれや!
「あら、心臓を貫いたのに何で楽しそうにスマイルして下さってますの? 眩暈がしますわ殿方」
「このゲームは、ヒットポイント制だからな。
だが、その分、ちまちまと激痛感じさせて拷問して悲嘆のうちに殺すことも出来るぜ?」
あぁ、クソ、マジ下衆な会話を……俺もログアウトするか? いやいや、絶対無理だな。
ログアウトするには、一定のポーズ取らないといけねぇしよ。まぁ、どうせ死ぬってことか。
だがよ。俺は生憎とハイスペックでな!超強力な精霊を召還できるんだよぉ!
「行くぜ! ユグドラシル召還!」
叫んだ瞬間、体力が一気にもっていかれるのが分る。
マジックポイントって奴を消費しているんだとすぐ気付く。
この召還と言うのは神の祝福を受けた特殊な聖人のみが使える御技だ。
陰陽師の使う使い魔などとは根本的に違うらしい。
しかし、膨大なマジックポイントを使い更に使役すると同時にドンドン主の大量の体力を奪っていく。それは、言わば、利害関係からの契約と言う形だからだ。神が聖人を彼らの苗床としてくれる。
通常の人間には、精霊が興味を示すほどの上質な魔力が無いのだ。
厳しい洗礼と修行の果てに手にした最強の召還手段。
それを行使するのが俺の選んだ職業、聖人と言うわけだ!
我ながらベストチョイスだと思うぜ!
「どうやら精霊を召還するみたいですわね? それにしても、拷問。素敵なワードですの。」
「待ってたぜルーキー。残虐ショーの開幕だ!」
俺の視界に入る全てが鳴動する。空が魔力の衝撃波に戦慄し雲を破裂させた。
尋常ではない力の奔流。体中の毛が逆立つ。自分の使役する存在だと言うのに恐怖を拭い去れない。
餌を与えなければ直ぐに食う、或いは直ぐに力を貸すのをやめると言う意思が伝わるようだ。
そんな絶対的ではなく相対的な力の均衡。強大だが燃費が悪くリスクが高いのが聖人。
矮小だが、従順で制御し易く応用度が高いのが陰陽師と言う分り易い対比。
今の時点の俺なら正直、ユグドラシルを使役できる時間は二分から三分って所だろう。
その間に、俺は、彼女を悪夢から叩き起こし二人で逃避行に洒落こまなきゃならねぇわけだ!
ガッデム! 無茶振りも良い所だぜ!
だが、不可能じゃねぇはずだ。
聖人の扱う精霊の力を引き出したり長時間召還するには当然レベルが関係する。
だが、精霊は、最初から根本的に他の職業とは違い圧倒的なスペックを持っているんだ。
レベルアップにより体力アップの恩恵で制御時間が延びたり新たな力を魅せてくれるようにはなる。
だが、攻撃力や速力は最初から最高!
そう、相手が幾らイレギュラーで俺たちより遥かに強くても怯ませることくらいはできる!
「何が待ってたぜ、だ? てめぇは、俺の怖さを未だに知らねぇみたいだな!
精霊ってのは攻撃力とかは、最初から最高なんだぜ!」
「分ってねぇのはテメェだ。悲しいんだよ。俺は、そんな馬鹿な触れ込みに振り回されてそんな雑魚職業を選んだ奴がいることが」
俺は、犬歯をむき出しにして威嚇する。目の前の気に食わない気障ったらしい野郎だけを見据えろ!
彼女を捲き込まないように野郎を一撃する!
苦悶に顔を歪めている間に彼女を抱き倒しそこからは、勝負有りだ!
無理矢理、リタイアポーズ取らせてここから逃げる! そして、腹割って説教だ!
訳の分らない戯言を言う、目の前のクソ野郎をぶっ殺してやりてぇがそれは流石に無理だろう。
だが、俺の選球眼は兎も角、聖人選んだ全員馬鹿にするような言い方は気に食わない!
歯ぁ食いしばれ! ぶっ飛ばす! いけ、ユグドラシル!
「な……にッ!?」
何の音も無く奴が刃を構えた傍からユグドラシルは切裂かれていった。
音も無く地面へ落ちそれは、腐敗して消失していく。
嘘だろ。硬度だって最高のはずだ! なんだよ……幾ら格上だからってそんな馬鹿な。
こんなの聖人は、この世界じゃ生きていけないって証明じゃないか!?
「最初からの基礎能力は最高? この程度でか?
悲しくなるな。何がユグドラシルだ? 大層な名前の割りに全くの雑魚じゃないか?
ほら、最高の攻撃力の最高の防御力の最高のスピードのコイツは、何て弱いんだろうな?
お前は、この瞬間、この過酷な世界を生延びることができないと確定したよ。どうした?
何を震えてる? 寒いのか? 暖めてやろうか? やめてくれよ。
俺にそっちの趣味はないぜ?」
捲し立てる目の前の男の声。全てが正論に聞こえて俺は、反論する事ができなかった。
そんな。ちょっと待てよ。この世界観での話じゃなかったのかよ!? 聞いてねぇぞ!?
って言うか説明書にも参考書にもそんな記述は! 何なんだよ……いや、待て。
普通に考えろ。これはゲームだ。そんな馬鹿なことがあるか!?
そうだ、ランクアップに伴って新しい精霊と契約できるんだ!
それか、そのランクでの最高の攻撃力とかってだけだろ!?
一ランク上がれば更に上書きされるみたいな感じで! 俺は、焦っていた。
焦燥感は脳髄を突き抜けそうなほどだ。正直、この絶望的な状況に冷静になれていないんだ。
冷静になれ……クールになれ! ひぐらしの鳴くころに宜しくだ!
クールになるんだ神林狼牙!
「!?」
斬られた。
冷静を取り戻すのが遅すぎた。無様だ。
俺の身体能力なんて高が知れてる。精霊が破られた地点で終ってたんだ。冷静になるも何も……
一番……一番、冷静な行動は!
精霊、盾にして彼女を無視してログアウトすることだったんだ!
あぁ、最初から分ってた。でもよ。でもよぉ!?
出来ねぇんだよ。
俺は、ヒーローになりたいんだ。あのテレビの中で熱く悪役を諭すような理想の塊。
俺の周りは、理想なんて糞喰らえのゴミ貯めみたいな場所でよ?
淀んだ目の仕事もねぇ馬鹿親父や身勝手に金を使って借金して事が上手く行かないとすぐ人を殴る馬鹿な母親が居て……俺は、そんな世界が許せなかった。
きっと、パラノイアなんてイカれた世界に憧れるような奴は、かわいそうな奴が多い筈で。
助けて欲しいと喘いでいる奴ばかりのはずでさ。だから、そいつ等を救って笑顔を見たくて……
「なぁ、菫……お前、何でここに来たの?」
「私ですの? 私は、スリルを求めてここにきましたわ。そう、スリル!
血塗れで人が倒れ死に! 少しの油断ならば猛獣に捕食され! 弱い女は辱めにあう!
そんな倫理も法律も無い最高のパラダイス! 実は私、ずーっと、昔からこのゲームやってますの。
気付かなかったですわよね?
私、嘘をつくのは大得意ですの。心の中でさえ嘘の役者を演じられるほどにね」
俺は、死を悟った。
体が動かないんだ。相手は、容赦が無い。右手が、彼女の武器の一振りで吹っ飛んでいるんだ。
絶望感に苛まれた瞬間、見限ったように俺の召還した精霊。無骨な大木ユグドラシルは、消滅した。
瞑目し彼女の目的を問う。唯、知りたいと思ってしまったから。
彼女の口から出た言葉は全て、想像を絶するほど俺の思索とは合致していなかった。
何だよ。一つたりとも本当じゃ無かったって。最初から完全にイカれてやがったのかよ!?
説得の余地とか全然無かったのかよ!? 滑稽だ。俺は、馬鹿な道化か!?
畜生————……
「グッパイ、だいこん大魔法。もう、アンタには本当に飽きましたわ」
はっ、飽きたら殺すのかよ!?
あぁ、そんなもんか? 俺だって唯単なる俺の勝手で人助けしたいとか息巻いてた訳だしな。
結局は、ろくな奴なんてこのゲームにゃ参加してねぇ訳だ。
そりゃそうさ。普通は、失踪とか行方不明とか聞いたら手ぇださねぇさな。
何せ自分だってそうなる可能性がある。色々な奴等に迷惑掛けて築いてきたもの全て壊す。
それすら犠牲に出来る馬鹿か、そんなこと考えない馬鹿しかここには、居ないわけだ。
狂ってる。まさに自分が主人公!
そう思ってるパラノイア達の世界……愛しいな。
俺もそうさ……
そう、思ったと同時に俺の意識は、消え去った。
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