ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: パラノイア Ep2 2-6 更新 アンケ実施中!!! ( No.275 )
- 日時: 2011/12/27 23:36
- 名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: G9VjDVfn)
Episode2
Stage2「現実も非現実も分らないんだ……だから、赦してくれよ」Part7副題『孤独輪廻 Part1』
菫は帰ってこない。勿論、だいこん大魔法は死んだだろう。でも、何にも感じないんだ。何でだろう?
Neuronより————
「嘘だろ!? 最初の半分も居ないじゃないか!?」
「何で……何でよ!? 最初のクエストでこんな……」
「終わりだ! 俺達はもう……」
「どうしろってんだよ!? あのままだったら俺達は全滅だった!」
「こんなのゲームじゃないよぅ?」
「分ってた。分っていたじゃないか? 危険だってのは……あぁ、僕は恨む。過去の僕を……」
ここは、ギルド。深緑の森林とそこから燦々と注がれる日光が、幻想的なコントラストを造る自然溢れる町。
今、そんな美しい町は暗雲が覆い被さり、悲嘆と絶望に満ちていた。それらは、幾つもの声となり空間銃に満ち溢れた。
そんな中、一人冷淡な表情で悲しむ素振りも見せないものが居る。
白の短髪の深紅の鋭い瞳の威厳に満ちたマスクの男だ。アンニュイな顔で受付嬢であるフリーダのすぐ前の席に座って居る。
彼の名はNeuron。彼は、突然現れた脅威と何の脈絡もなく離反した菫から逃れるため真面目なだいこん大魔法を盾にしたのだ。
しかし、悲しげな表情をしているのはそのためではない。彼は、仲間の離反や仲間の死を悲しむような情の強い人間ではないのだ。
今、彼が悲観的な表情をしている理由は一つ。一回のクエストで二人の仲間が失われたと言う事実。
それは、彼にとって大きな誤算だった。それが、自分たちのチームだけだと言うなら、まだ救いは有る。
しかし、こうやってログアウトしてみれば周りは、沈鬱として泣きしゃくる声が聞こえてくる始末。
このゲームが、プレーヤーに優しい遊戯では無いと言うことは明白だ。
ここにダイブしたほとんどの面子は、受付嬢フリーダから発された死と言うワードを本気で受け止めず怪訝な顔をして居た。
しかし、その言葉を完全に否定できたわけでもなく相当の準備をして居たのも確かだ。
だが、実際にはそのプレイヤー達の多く、否殆どが仲間を失い辛酸を嘗めている。
これは、このゲームを舐めるなと言う最初の警告なのかもしれない。
それならば次は、追い込みは軽くなるはずだ。しかし、そんな甘い事があるだろうか?
常に、ゲームマスターの勝手気ままでプレイヤーの予想外の妨害が入るのでは。
否、だからと言ってクエストを行わなければ兵糧攻めを喰らうように苦しんで死んでいくのだろう。
更に言えば、生延びた新しい仲間と組むと言うのも抵抗がある。
何せ、仲間を盾にして逃げた奴が大勢で。
悲嘆にくれている輩も世間体を気にしているような物だ。誰も彼も裏切る可能性の潜んだ信用に足らない人間ばかり。
無論、彼、Neuronも含めて。しかし、それでも一人で行動するよりは余程、有意義なはずだ。
とにかく、適当に利用して途中で裏切る。そんな取引が、このゲームのキモとなるのだろう。
こんなのはゲームじゃない。普通の人間はまさにそうだと思うだろうが——だが、Neuronはそれに異を唱える。
否、違うだろう、と。これは、最初から普通のゲームではなく。
人間の理念と損得勘定と強さへの渇望が渦巻く他人同士が重なり合うオンラインゲームだ。
特定の人間同士で仲良くするなどと言うのは良い。オンラインゲームは、協力を一つのテーマとしている。
基本的には、一人で突き進むには限界が有るといわざるを得ない。利害関係だ。
洗練されたチームプレイや仲間割れを起さないために、良好な関係を持った者とは、親睦は深めるべきだろう。
最も、それ以上は逆に言語道断。何せ、多くの人間と関係を持ちすぎるとそれだけ裏切られるリスクが増えるからだ。
単純に言えば、自らの見えない所で仲間と言う認識の面子が何をしているのか分らなくなる。
それは、恐らくは、このゲームでは、相当のプレッシャーとなるだろう。
一度ヒットポイントがゼロになったら、二度と復活できない辛口な設定と最初から高いゲーム難易度。
そこから編み出される答えは、信頼できる仲間を肌で感じ目で見て言葉を交わし探すこと。
それなりの熟達者である彼は、今は、静かに周りの面々の反応を観察し品定めする。
大事なのは、自分にどれだけ利益が有るか。性格は、なるべく裏表が無く真面目で機転が利く方が良い。
前者の要素は、裏切る可能性が低いこと。後者は、戦闘中で愚者は、それだけでお荷物で有る事。
次に、職業。彼は、基本的に後方からの攻撃型。ならば、近距離中距離のアタッカーが一人。
回復及び補助役一人が、望ましい。
更に、現時点でお金を浮かせるために良い装備と良い道具を持っていながら金を多く所持していること。
取り合えず、Neuronが、理想とするのはこれらの全てに該当するものだ。
言葉にするのは容易いが、恐らくここに居る面子からそれらを探すのは限りなく難しいだろう。
そう、場の空気からプレイヤー達の気質を読み取って結論付けた彼は、机に腕を突っ伏し溜息を吐く。
「どうかなされましたか? 仲間が亡くなった事を今更になって理解したとか?」
「生憎とそんなに理解が遅いわけじゃないんだ。嫌になるね。僕ほど賢いと世界が、歪に見えるんだ」
嘆息するNeuronに冷淡な口調で左目に眼帯をつけた精緻な人形のような美女が話しかけてくる。
受付嬢の直ぐ隣の机に座っているから、相手の反応に付き合ってやらねばと言うプログラム。
唯の人間で言う所の本能なのだろう。
そう、合点する彼は、馬鹿馬鹿しいと耳を塞ぐが掛けられたのは意外なほど人間にお優しいプログラムらしくない言葉。
一瞬、瞠目するも彼は、成程ゲームが規格外ならキャラクタも規格外かと芸の細かさに両の手を上げる。
そして、自分の頭を左手で指差しながらひけらかす様に自分は賢いとアピールした。
それに対し受付嬢フリーダは、少し口角を上げる。妙にその表情は色気があり彼は、しばし魅入られる。
「そのようなことを言う男は大概が愚かだと、認識しているよNeuron様」
夢見心地のNeuronに対しフリーダは、毒舌だ。
まるでプレイヤーを心配したり、労わったりする気は無いらしい。
最も、こんな残忍な殺戮ゲームの中でそのような歪なオアシスが有るのも気持ち悪い話だ。
一瞬でも心に綻びが出来れば、その瞬間総崩れになりかねないのだから。
「はははっ、気が合うね! 世界の全てを知ったわけでもないのに偉ぶってる奴ってのは、滑稽だ!
と言うことで、改めて言わせてもらうと全然、喪失感を感じる意味も無いんだよね?
だって、この世界で死んでも本当に死んだとか思えないわけだし?」
全く、答えた様子も無くフリーダの毒舌を受け流しNeuronは笑い出す。
笑いながら右手を翳し何かを握り潰すジェスチャーをして捲し立てる。
だいこん大魔法が、刺されてリアリティに溢れた血飛沫を上げた時、全く何も感じなかった事実。
他人に起こった事だから。否、違う。所詮、死んでもこのゲームのプレイ権を剥奪される程度だと思っていたのだ。
否、今も思っている。現実の世界を覗けない。
現実の世界へと戻れない今、本当にこの空間から消えた面子が、死んだなどどうやって確かめる事が出来ようか?
現実感が無さ過ぎるこの状況は、彼の許容量を超え彼を冷静にさせた。
唯でさえ、他人に対して薄情な彼だからこそ、尚速くその真理へといたる。
此処に居る多くの面々もそうやって諦めるだろう。
しかし、それと同時に大きな疑問が浮ぶ。
それは、ならば何故、このような世界に何時までも彼らは居ようとするのか?
死ぬ事を恐れるのか、という疑問だ。
そんな湧き上がってくるのは至極当然な疑念。誰もその事実には目を背けていたが、フリーダは淡々とそれを問う。
「ならば、なぜ、死ぬことを逃れようと躍起になるのかしら?」
その疑問に待ってましたとばかりNeuronは、拍手を叩く。
そして、これ以上ないほどに目を瞠らせて、
「この痛みを感じるゲームが出来なくなるのが嫌だからさ。簡単な理由だろ?
死ぬのが嫌だとか……確かめる術がない故に本当に死ぬ可能性があるのでは……とか。
そんなんじゃない。唯単純に僕達は、世界から嫌われゲームと言う非現実に非難してきた。
恐らく、一部の例外もない! 現実よりも本当に嫌だと思えたら率先して死亡するさ。でも、今は、それほどじゃないってだけ」
淀みなく喋り続ける。
そのNeuronの弁に感嘆しフリーダは微笑む。
自らがそしてゲームマスターが、求めていた人間の駄目な部分が凝縮された存在が、目の前に居る。
そして、理想的な本音を高らかに叫ぶ。これ以上に楽しい事はないのだろう。
ついには、無表情な彼女から笑みが浮ぶ。磁器人形のような精緻さは形を潜め、彼女は爆笑した。
隣の野性味溢れる赤髪と紫の瞳が特徴の長身のバーテンダー姿の受付人もそれに呼応するようにほくそ笑む。
それを見て、Neuronは「何か、おかしなこと言ったかい?」と、言及した。
「いいえ、私達の望んでいた最高の逸材だと思いまして……こんなに速く念願叶うとはっ!」
何の隠し事もない本音。
Neuronは、嘘を見抜くのが得意だ。散々、現実で裏切られてきたから。
故にその裏表のない言葉が、心地良い。
彼は、その気分のままにバーテンダー姿の男性に声を掛ける。
「こっちじゃお酒は二十歳になってからとかないだろう?」
「無論ですNeuron様。何になされますか?」
念の為に確認を取りバーテンダー姿の受付の返答を聞き、Neuronは注文を頼む。
すると彼は、慣れた手つきでグラスにワインを注ぐ。紅い液体が容器を支配した。
まるで血の色のようだなと、一瞬嫌気を感じるNeuronだがすぐにその嫌気も消えグイッとワインを煽ぐ。
「良い飲みっぷりでですねNeuron様。所で、Neuron様はこの世界の何処がお気に入りで?」
彼の飲みっぷりを見て楽しげに男は、褒め称える。
満更でもなさげにNeuronは、グラスのワインを一気に飲み干す。
仄かに体が温まり頭がボーっとする。
どうやら、自分は酒には強くないようだと結論付けながら男の質問にどう答えようかと腕を組む。
そして、思いついたかのように上擦った声で言う。
「現実も非現実も分らないんだ。だから、殺しても死なないと思って許してくれよってことで通じちゃいそうな世界観かな?」
そう言う彼の脳内には、最早数刻前共にこの地を歩んだ二人の姿はなかった。
唯、今有るのはこの残酷でシビアな世界をどう、生延びるか。新たなる二人の穴に誰を迎え入れるか、唯それだけだ。
そんなNeuronの様子を見てバーテンダー姿の男は、熱烈な視線を送る。
彼は、この裏パラノイアとも言えるオンラインゲームの受付係システムの中でも異質の男。
受付係システム全体の統括官の任を持つ存在。
名を————レイジア・ライクラインと言う。
「良い答えです。他の皆様もそのような豪気な方々であることを願います」
その男の浮かべる笑みは、何処までも邪気に満ちこの世は、行けども行けども深淵のように深い黒しか無いと証明していた。
〜Stage2「現実も非現実も分らないんだ……だから、赦してくれよ」The end〜