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Re:  パラノイア Ep2 3-1 1/1更新  アンケ中 ( No.291 )
日時: 2012/01/11 21:25
名前: 風猫(元:風  ◆Z1iQc90X/A (ID: SqbaeWwr)
参照: 今回は短いですね……半端だし(汗

Episode2

Stage3「エンドレス・バトル・オブ・パラノイア」Part2『汚濁賛歌』


「成神とストレンジアのバトルとか……マジかよ!?」
「最強に最狂の戦いですって? 最高に燃えるじゃねぇですか!」
「おいおい、どっちに賭けたら良いんだよ? オッズ様よぉ!?」
「何ででしょうね? 少し前までは誰も死んで欲しくなかったのに今は、誰かに派手に死んで欲しいんですよ?」
「神よ。卑しい私をお許しくださいまし! 争いごとに興じる異教徒である私を……」
「へぇ、あいつ等戦うの? 成神にもストレンジアにも仲間が殺されてるからね? 両方死んで欲しいね」
「こうやってさ。命が安っぽく消費されるのって僕は嫌だな。まぁ、あいつ等は同属じゃないから良いけど」
「争わないで欲しい。仲良く遊びたい。こんなのって無いよぉって言いながら画面に釘付けな其処の君! って、あたしかぁ!」

  ストレンジアと成神が、戦う。
  命を賭けた死闘を明日繰り広げる。そのニュースは、瞬く間にパラノイアにいる全てのプレイヤー達に伝わった。
  面々は、皆それに思い思いの反応を見せる。
  現在のパラノイアに置いて強者ベスト十と言う物を作れば確実にベスト五には入る二人だ。
  単純にどのような別次元の戦闘が繰り広げられるか興味のある者は多いだろう。
  それにこの二人のどちらかよくすれば両方が脱落するとなれば生き残った面々にとっては相当の朗報だ。
  何せ、パラノイアは任務によってはプレイヤー同士の闘争もあるのだから。

  そんな闘争の中で仲間を彼らに殺された者も少なくは無い。
  そもそも大概のユーザーは、ユーザーとの戦いで勝敗が見えた場合そこで勝負をやめるのだ。
  しかし、二人は止めない。相手に止めを刺すまで。ストレンジアは兎も角、穏健な成神は何故。
  そう言う声が多いが、成神は、脳内で相対する者の息の根を止めると言う勝手なルールを造っている。
  冬音が、死んで以来人を殺す事に躊躇しないためにそうしているらしい。ストレンジアと言う人間を殺すために。
  故に、彼にとってこの戦いは、最大の山場といえるだろう。
  彼にとってゲームをクリアするなどと言う目的より遥かに大きな指標なのは間違えない。
  
  その情報はトレモロや朔、pikoと言った者達にも当然伝わる。
  トレモロ達が、二人の決闘の情報を得たのは、大陸の北部に位置する万年雪の町“シンブルス”だった。
  二人は、正に中級者用受付でクエストの受諾を待っていた所だ。
  トレモロと凡は、その二人の激突に悲観的だ。彼らは、成神に恩が有るのだ。
  一週間前のクエストでどうしても中級者に上がりたいが、戦力不足だと嘆いていたときのこと。
  見るに見かねた成神が、無償で力を貸すと躍り出た。理由は分らない。目的も。
  唯、クエストの途中で零していたことを思い出す。

「お前等の初々しさを見てると……応援したくなる。昔を見ているようでな」
  
  多分、冬音と過ごした短い時間にその答えがあるのだろう。兎に角、当時二人は育んだ愛を大事にしようとその時誓った。
  彼は、それを頬を染めながら祝福してくれたのだ。

「だからさ。俺は、あの人に死なれるのは嫌だね……」
「ストレンジアさんは良いのですか?」

  一通り事のあらましを語ると彼は、頬杖を突きカウンターに設置されている椅子に座る。
  それに対し中級者受付嬢が、疑念を抱く。至極当然の疑念だ。
  青と赤のオッドアイが特徴的な、おっとりとした顔立ちの青と赤のオッドアイが特徴的な緑のメイド服の受付嬢。
  カナリアは何気に怖いもの知らずである。本来なら口を濁す所を高い好奇心に物を言わせドンドンと踏み込んでいく。
  その声音は、どこまでも差別感を払拭できない様子が浮ぶ。彼女にとっては、成神もストレンジアも等しくお客様だから。
  それに対して凡が、少し困った様子で言う。

「うーん、反対なのは反対なんだけど……それは、あくまで成神さんが心配であってだな。
俺達は、ストレンジアには悔恨の情ってのがあるのさ。ほら、アイツ俺達の知り合いも結構殺してるし……
まぁ、クエストとかこう言う果し合いみたいなのでならまだ分るけど。職権乱用じゃんアイツ?」

  凡の答えにカナリアは、瞠目する。
  一昔前の彼なら殺し合いに諦めなど挟まなかったはずなのだ。
  だが、今は現実を受け止め折り合いをなそうとしている。どんなに努力したって届かない物があると理解してしまったから。
  ほんの二ヶ月前までは女言葉が抜けなかったのに今では、随分と男性を演じているなと言う素朴な驚きも有ったが。
  そのような瑣末なことは、ほとんどカナリアの脳内には無い。
  彼女は、狂気のゲームに常識人が染まっていく事に一抹の寂しさを感じるのだった。
  そして、そんな風に寂しさや恐ろしさを感じるのに事の深奥に加担している自分に強い罪悪感と嫌悪感を感じる。
  吐気がするほどに。

「正直さ。どっちが強いか分るか?」
  
  避けられない戦いだから。
  そう思ったから凡は、勝率が気になって仕方ない。戦いなど始まってみなければ分らないのだから単なる気休めなのだが。
  それでも無いよりは良い。しかし、普段はどのようなことでも悠長な口調で言ってのけるカナリアが口を紡ぐ。
  それだけで二人は、彼女の脳内での演算の結果では、ストレンジアの勝率が濃厚なのだと悟る。

「ぼっ僕の……評価では、成神さん優せ……ぃっ」
「無理して嘘付かなくて良いぜ? カナリアさんは、のほほんとしているほうが好きだ」

  カナリアが、慣れない嘘を付く。その様が余りにも痛々しくてトレモロは、彼女の頭に手を充て撫でた。
  彼女の大きめな瞳から大粒の涙が零れる。唯、泣いて欲しくなかったから彼は慰める。
  自分が悪かったと自分を責めながら。
  発注された書類にサインをして見たくない未来を忘れようと任務へと意識を移行させる。


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