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- Re: パラノイア Ep2 3-3 1/12更新 アンケ中 ( No.314 )
- 日時: 2012/04/25 05:15
- 名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: .M49B5Sc)
- 参照: http://loda.jp/kakiko/?id
Episode2
Stage3「エンドレス・バトル・オブ・パラノイア」Part4副題『別次元 Part1』
望んでいた時間だ。
俺は、今最高に高揚している。
この世界は良い。復讐という言葉が当たり前のようにまかり通るから……
成神より————
此処は、廃墟。そうだ。近代的な高層建築物が今でこそ屹立しているが直ぐ廃墟になるのだから語弊は無い。
異常。巻き上がれる尋常ではない量の瓦礫の山。
その中に、一瞬輝いては消える光沢。それは、まるで一瞬の間だけしか光を放たない花火のようで。
だからこそ圧倒的な力を感じるのだ。圧倒的重量そして、超絶な速力で全ての一撃は、放たれている。
画面を通して閲覧する多くのユーザーたちは息を飲む。
この押収は尋常ではない。砂煙が止むまでの一瞬で一体どれだけの行動をしているのだ、と。
正規の頂上決戦を唯見守る。声など……歓声など上げる事すら許されないほどにその戦いは、人々を魅了する。
長い。唯の十秒が数万年の月日に感じられるほどに。握られた拳には緊張感からか、じっとりと汗が滴る。
ストレンジアの目立つ赤髪が翻ると同時に尋常ではない力の激突。すぐさま、建物は倒壊しまた、視界の悪い仲での激突。
皆が思う。恐らく永久に戦っても自分達ではこの段階へと至れない。
其処にあったのは、嫉妬でも彼らへの憎しみでもなんでもない。届くはずの無い高みに至った者達への憧憬と賞賛。
目の前の光景を見てまだ、何とか成るだろうなどとのたまうのは許されざる欺瞞だ。
唯、彼らは皆崇拝すべき怪物達を愛しこの戦いを愛する事を心のそこで決める。
万ほどの巨大高層建築物は、ストレンジア達の戦闘が開始されてものの十数分で五百軒ほどが倒壊した。
このぶんだと戦闘フィールドにある建物が全て薙ぎ払われるのも時間の問題だろう。
今、彼らの戦いを観戦する普通の戦士たちと成神達との差は凄まじい。
何せ、今の普通のプレイヤー達では、ビルを薙倒すのは愚かビルの壁を穿つのも難しいのだ。
何故、プレイ時間はそれほど変わらないのにこのような苛烈な差が生まれたのか。
大半は、プレイヤーキルによる多大な経験値の賜物だと思っているが、それだけでは説明が付かない部分も多い。
と、言うのも大勢の意見だ。詰る所、皆理由が分らない。
中には、メインプログラムであるテッサイアの庇護を受けているなどと言う意見まで出るほどだ。
最も、テッサイアは確かに気紛れなプログラムだがそのようなことはしないと言う意見で満場一致したのだが。
「うらぁ!」
「……ぐうぅ……」
声が響く。ストレンジアと成神の低めの声だ。その瞬間に、先程までとはまた違った甚大な一撃が放たれる。
地盤が陥没し数百メートル四方に裂傷が広がっていく。受け止めた成神はニヤリと笑みを浮かべた。
そして、無言のままに青いオーラを放ち発散させる。
それは、まるで洋上で起こった海水すら巻き上げる竜巻。ストレンジアは、その大質量の一撃に枯葉のように宙へと飛ぶ。
海の神の暴力の力を呼び覚まし使役する海賊特有の技。海神戦闘の一種だ。
だが、威力も規模も桁違い。そして、此処は丘。本来の力を発することのできる洋上ではない。
画面を眺める全ての面々が、次元の違いに沈黙する。特に成神と同じ海賊の面々は、消沈する。
何せ洋上で術式を口にしても本来なら画面上の一撃のような大質量の一撃は実現しないのだ。
体勢を立て直そうと必死にストレンジアはもがく。そんな彼の隙だらけの状況を復讐者が見逃すはずはない。
巨大な斧を水平に構え足を大きく前に出す。投擲に際して最も力の入る構えだ。
この一撃で決めるとは言わずとも勝敗を決する覚悟らしい。武器を手放すとはそう言う事だ。
画面を見詰める面々の表情が逼迫する。
大きく一呼吸して成神は、全力で投擲した。勢い良く蹴り飛ばされた大地が捲り上がり恫喝が空をつんざく。
音にならない音を上げて斧がブーメランのような規則的な弧を描き対象を補足する。
多くの者達が、ストレンジアはこの攻撃を回避できないと決め付けた。
普通の者達なら勝敗は既に決している。しかし、彼は普通ではない。断じてなかったのだ。
彼は、斧が直撃する寸前で体勢を立て直す技、直側術を発動させる。
そして、何も無いはずの中空に足場を作り身の丈ほどもある太刀で更なる大質量の戦斧を受け止め流す。
斧は、放物線を描きあらぬ方向へと飛び去りビルに激突。そのビルは、受け流されて尚残る攻撃力に耐え切れず崩落する。
本来ならすべての威力が失われるはずなのに。その斧は受け流されて尚苛烈な攻撃力を残していた。
普通の戦士だったら放てないほどの。
「うわぁ、マジですかぁ? 俺、ストレンジアさんに懸けてて良かったぜぇ」
「あーぁ、やばいよ成神さん! 武器無しと武器有りじゃ全然違うって!」
成神が武器を失った。誰もがわかる事実。
それを見た瞬間、戦況が動いた事を確信し先程まで崇高な戦いと声を上げなかった者達の多くが声を上げだす。
特に声を大きくしているのは彼らの戦いを賭け事に使っていた面々だ。
賭け事をして居た黒髪のポニーテイルの盗賊、玖龍や藍色の腰までの髪が特徴的な涼儀も同様である。
前者二人に朔を加えたこの集団は、カキコで結託して此処に来たトレモロやPikoと言った面々の中でも最も賭け事好きな面子だ。
「人の命で賭け事とか最悪だよ?」
そんな二人の不謹慎とも取れる会話に朔が釘を刺す。
しかし、二人は朔の発現に苦笑して昨日は人殺しは楽しいなとか言っていたくせにと慣れた口調だ。
朔は、基本的に一日ごとに発言が安定しない。四ヶ月近く友に過ごしてそんな彼女の性質を二人は良く知っている。
故に、二人は彼女のあしらい方も理解していて気軽な様子だ。
「しっかし、負けられないよね? 世の中お金だよ! 仲間だからとか関係なく財布の紐握っとかないと落ち着かないね?」
「うっわぁ、今日は正義の味方っぽい朔さん。こう言うのどう思います?」
わざとらしく唯でさえ高い声を更に高くして玖龍は言う。
朔の浅黄色と黄褐色の瞳が揺れるのが分る。
それにあわせて涼義が朔に問う。二挺拳銃のホルスターに朔は、手を添え引き抜く。
「二人とも? この世界は幸せだよね? ヒットポイントが有る限り頭に風穴が空いても死なないんだから?」
遊びすぎたと二人はその瞬間反省する。しかし、もう遅く二人は頭に風穴を造り倒れこむ。ちなみに町はフィールドと違って安全地帯タグが立っているためヒットポイントが減ることも無い。
数秒で頭の穴は修復され十秒もすればまだ、会話を始めるだろう。そう、冷静に分析し嘆息して彼女は呟く。
「あーぁ、私ってば本当に超冷静かつ理論的な分析で格好良いわ」
案の定、二人は十秒後には復活し朔に土下座するや否や先程の会話の続きを始めた。
朔は、もう面倒臭いやと呆れ果て席を外す。そして、他の場所へと移動した。
玖龍が、その立ち去る姿を見て一息つく。
彼らにとって何時も通りの光景だ。
彼女等のやり取りは時間にしてほんの一分に満たなかっただろう。
しかし、戦況は大きく動いていた。
ストレンジアの突きや斬撃を本来、速力で劣るはずの海賊である成神は悠然と回避していく。
拮抗した実力と彼自身の鍛錬。そして、何より重量級の武器を背負わず回避に専念できる状況というのが有ったのだろう。
彼は、ストレンジアの攻撃全てを回避し武器を回収する。
相手とて武器を取らせまいと必死に武器のある場所から遠ざけようとしていた。
それでもたった一分で男は武器を手にする。ストレンジアもそれには少しばかり賞賛の意を感じたらしい。頬を綻ばす。
しかし、一分とは言え武器を握っていなかったと言うのは手に馴染むのに時間を要するはずだ。
ストレンジアは、武器の感触に慣れるまでの間に大きな損傷を与えようと連続の突きを繰り出す。
それは、まるで光の槍が雨のように降り注ぐよう。間断なく繰り出される洗練された兆速の刺突。
成神は、どうにかすべての攻撃を巨大な斧を立てに防ぐ。
そして、海神戦闘の一つ津波を発しストレンジアを押し戻し距離をとる。
その津波の威力たるや凄まじく普通の戦士ならこれで勝負が付くほどだ。
しかし、ストレンジアにとっては大した痛手にはならない。目の前の手強い敵に男は、微笑を浮かべた。
無言の戦闘は続く。
「凄いですわね。もっと賑やかになると思っていましたけど……圧倒的過ぎて妙に静かですわ」
「全くだねぇ? きゃぁー! とか、わーとか見たいな歓声が全然響いてこないってのもね。
凄すぎて思考が追い付かないみたいな? まぁ、当たり前っちゃ当たり前かもだけどさ?」
一方、この二人の戦いに便乗し青いと一緒に商品を造り屋台を立てた愛。
その横には、当然葵が居て目の前には彼女の店を利用してくれているかつての友。小柄な巨乳騎士野宮詩織が居た。
二人は、周りの張詰めた雰囲気に気圧されたようにヒソヒソ話を続ける。
視聴者である自分達が妙に神妙な面持ちで事の成行きを静観するさま。
まるで神聖な儀式を見詰めているようだ。決闘が開始される少し前までのお祭りムードはほとんどない。
体中に薄く強い膜が張っているようなそんな感覚。氷解が滑り落ちる方がまだ、心地が良い。
グッズを買ってくれる物は居るが、決戦開始直後にしてはその客足は愛が詩織と話す程度の余裕がある程度だ。
「最もチラホラと命を出汁に賭け事をしている身勝手な輩が囀り初めましてわね」
目敏く小さな声を聞き取る月読愛。それに対して野宮詩織は、何時か地獄に落ちるぞと一人呟く。
正直、他人が何の話題をしていても構わない。自分の愛する者に飛び火しなければ。
しかし、この命懸けの戦いの世界で命を懸けの材料にするのは頂けない。
最も、金のために屋台を出すものも居るわけで。その様な命の価値を穢す者が他ならぬ仲間に居るのだが。
だが、それは冒涜では有るといっても命を軽んじている訳ではない。そんな身内贔屓。
我ながら嫌に成る詩織だった。
「それにしても私たち如きでは実力の計測が出来無いと言うのは確かですわね……次元が違いすぎて。意味が分りませんの」
「ふん……」
解像度の高いリアリティのある画像を惚れ惚れとした様子で眺めながら愛は溜息をつく。
此処までの差が一体どうして付くのだろう。逡巡せずには居られない。
そんな彼女の言葉を横に立つ小柄な少女は鼻で笑う。
彼女は、魔法使いの最高峰。愛達凡百の者達よりストレンジア達に近い存在。
それと同時にストレンジアの大ファンである。
愛は、彼女が何を言わんとしているのか大体理解して肩を竦めた。
「しかし、葵? それはいささか理想論では無くて?」
「そんなこと無いよぉ? 葵ぃ、ストレンジア様の本当の強さが何処に有るのか全く分っていないね?
まぁ、当たり前かな? ストレンジア様やあたし、成神ってクラスになると君達の段位では持ち得ない力を持つんだ……」
ストレンジアと成神。二人の戦闘力は拮抗していて全くの互角に見える。
腕力や体力は僅かに成神が速力はストレンジアが。極々僅差ながら勝っているようだ。
しかし、その小さな差など彼らの経験値と技の制度及び威力から鑑みれば小さな物。
一体何を持って葵が盲目的にストレンジアの勝利を信じられるのか愛と詩織には理解できない。
しかし、葵は思いもしないことを言う。それは、ある種では矢張りと頷ける事だ。
彼らの位階へと至ると更なる得点を有することが出来る。ストレンジアのその力がどのようなものかを彼女は知っているのだ。
だが、矢張りそれでも葵の盲目をそのまま受け止めることは彼女には出来なかった。
成神も持っていると言うことではないか。ストレンジアより成神を支援する派閥である彼女は悪戯っぽく笑う。
「それは……成神様にも当てはまる事では?」
その言葉に葵が答えようとした瞬間、大音響の爆発音がパラノイア全体を揺さ振る。
ふと画面に目を移す。そこには、血塗れの成神が居た。
血塗れの彼を見て葵は、邪気を含んだ笑みを浮かべる。
先程まで完全に互角に切り結んでいたのに突然だ。
何が起こったのかと多くの観客たちが怪訝がる。
その様子を一頻り眺め溜飲が下った様子で葵は叫ぶ。
「さぁ、やっちゃえ! 終りにしちゃえ! 充分、馬鹿を楽しませる茶番は挟んだじゃん!」
その葵の言葉に愛の胸中には嫌な予感が駆け巡る。
本当は、ストレンジアは最初から本気ではなく持ち前のパフォーマンス精神を発揮させていただけなのではないか。
本来は、成神などより遥かに強かったのではないかと。
しかし、彼女は気紛れとは言え成神に一度助けられている存在だ。
彼の死を容易く受け入れる気にはなれなかった。
唯、手を併せ祈る。それを見て詩織は、彼女の肩に手を置く。
元より葵のことはいけ好かないから。
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