ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: パラノイア Ep2 3-7更新 4/24 ( No.350 )
- 日時: 2012/05/11 19:47
- 名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: 9hX401bZ)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2a/index.cgi?mode
Episode3
Stage1「キラーズ・ワンダーランド」Par1
(一人称視点:HN・Neuron 本名・馬宮 優希)
プレイヤーキルを許すと言う大号令が出てから、パラノイアは変革した。新規の僕達と前期から居る先輩たち含めて九万以上いたプレイヤーは、今や五万にまで数を落としている。たった三ヶ月でだ。
一ヶ月五千行った程度で昔は絶望感が漂っていたらしい。プレイヤーの総勢は最初の地点で十万強。まぁ、二年換算したらそのペースで減り続ければ全滅なんだから当然か。それが今では一ヶ月で一万数千のペースで減っていくのが当然になっている。
こんなのってないよ、とでも叫びたいが理由は分りきったことだ。プレイヤーキルによって得られる経験値は膨大でさ。ストクエストをクリアするには、圧倒的なレベルが必要なのだから。それこそ百パーセント人殺しに手を染めないといけないほどに。
多くの面々はこの地獄で自分だけが生延びる保身を求めた。中には現実に戻っても巻き返す自信がないからと、いっそこの暗闇の中で舞い踊ることを決意した者もいる。あぁ、簡単に言えばプレイヤーキルを心底楽しもうと言う連中だ。
僕達はチーム編成三人が限界という束縛から放たれ巨大な組織をつくって、この広大なフィールドの化物たちと戦う傍ら、経験値稼ぎと銘打って人間同士で潰しあう生活を三ヶ月続けている。濁流から逃れること敵わず……
「取ったぞおぉぉぉ!」
明石の声。僕のチームのアタッカーの強者に媚びへつらう小物野郎。小柄で中性的だから女性プレイヤーに人気らしい。まぁ、レトロすぎる格好のせいでダサいと専らの噂だが。どうやら敵チームのプレイヤーを討伐したらしい。
あぁ、あれは確かオカン? 間違えた。るりぃって人だ。瑠璃色の肩まで掛かる長髪と出たおでこ、深い紫の瞳が目立つドライブだ。あーぁ、また一人命の灯火を散らしたよだいこん大魔法。お前の所もずいぶん賑やかになってきたろ?
「Neuron様ぁ! 明石が討ちましたよぉ。平成の侍最高!」
「うるさいよ馬鹿」
あぁ、うるさいなぁ。すぐにコイツ自分をひけらかすんだよね。僕に媚売ってるつもりなんだろうけどさ? 逆にキモイの分る? あれ、ちょっと待って。るりぃさん……。後ろにるりぃさんいますよ明石さん。一応仲間だから失わないために忠告しようとしたがもう遅かった。彼は後ろからばっさり背中を切られおびただしい真紅を大噴出させてヒットポイントを散らす。ただでさえ残り少なかった体力値は一割以下の危険ゾーンだ。
「なっ、何で……生きてんですかぁ!? あんた! 明石さんは、死んだフリとか卑怯なのは嫌いですぅ!」
「…………」
残り少ない体力の炎を燃やし明石は刀を振う。広範囲に衝撃波を発する殲滅系の技ブレイドウェーブだ。しかしるりぃは、持ち前の俊敏性で彼の刀をかいくぐり彼の腕を握る。パワー不足の明石では抜けられない。そこから彼女は彼の腕を切り落とし小刀による連続突きフェンシングロアを発動させる。明石のヒットポイントが爆砕した。
「嘘だろ!?」
「俺最強ってわけよ」
体力がゼロになって数秒で明石の体が輝いて砕けていく。絶望に歪む彼の表情を冷たい眼差しで見詰めながら彼女は、口癖を吐く。某ライダー作品の紅い奴の台詞だ。母性に溢れているからおかんのはずだけど、敵には凄まじく冷淡なんだなこの子。
「明石? お勤めご苦労」
「畜生……お前倒して明石様が! う、え……に」
長い間、僕の手となり足となり本当ご苦労様でした。まぁ、数分で忘れるけどね? 正直、奢りばっか要求して馬鹿みたいに食べてうざかったし。うー? あーぁ、最後に結構強烈なこと言い残して死んでいくこと。まぁ、君がトップの座を狙ってたのは最初から知っていたけどね?
では、一人居なくなったところで勧誘行こうか。
「ねぇ、るりぃちゃん?」
「何だ。紙防御の最弱魔王?」
おぉ、辛辣ね? まぁ、魔王の防御力は本当に紙だけどさ。いっつも後方から仲間を盾にして支援とか言いながら安全に気楽に攻撃する嫌な奴だけど……僕だって傷付くんだぜ?
「えっとぉ、仲間になって!」
「嫌だね」
振り絞った言葉が即否定されるって辛いね? 君空気読もうよお兄さん涙目だから。って、見てねぇ! でもさ。結構強いしほら、仲間に入れたいよね。こんな簡単に折れる僕じゃないよ? ここ三ヶ月で僕は変わったんだ。パラノイアを愛する僕に。正直、ここから抜ける気はないけど、だからこそこの地獄を心底楽しもうじゃないか! 裏切りも死も狂気も。君からは匂い、感じるんだ。僕と同じ。
「どうしてかな? 僕と君は結構気が合うと思うな」
「うーん。俺は世移のものだからな。あんたも確かに面白そうだけど、さ」
なるほど。一途なんだね? なら、その世移を殺そうか。気に入ってるみたいだし奴を殺せば。
「所でさ。君、射程圏に居ること忘れてない?」
短剣が紅く染まっていく。オーラが収束されている証だ。大技が来るな。参った、僕死んだ。紅きオーラの濁流ヘルフレアに飲み込まれて、消えていった。あぁ、視界が赤に満たされている。体が熱い。
「これが死?」
ボソリと最後の言葉を吐く。
「世移を殺そうとするのは分りきっていたから、言ったんだよ? 行動に出すぎて笑っちゃったよNeuronさん?」
「いやぁ、素晴らしい! 容赦なし」
残念でしたぁ影武者ナウ! 本物の僕は潜伏魔法で隠れていたのです。そして偽者は緑のツインテールの青い目がかわいいお姉さんでしたぁ。ちなみるりぃちゃんと同じドライブね。まぁ、銃使いだから接近戦は……おいおい。
「いったいなぁ。可愛いあたしに何すんだよ? この豚!」
「——何よそれ? その変身あんたの能力!?」
オフコース。かざや姉さんの能力ですね変身は。まぁ、もう勝負付いちゃったみたいだけど?至近距離からボンバルティア(手投げ爆弾)とはイカレてるぜ。あーぁ、欲しかったんだけどなるりい。
「さっさと消えろよチビ?」
「世移、世移世移! 世移に殺されたいよ……」
陰険な表情に歪ませかざやが速く消えろと言う。るりぃは涙ながらに空中で戦う愛人の名を呼ぶ。あぁ、良いことを思いついた。ここはパラノイアだ。脱落者には本当の絶望を。お前の心も殺してあげるさ。発動、ドームズディ。
「さよならだ、世移君。君の戦いぶりは素晴らしかったぜ?」
「えっ、世移の周りを黒い何かが?」
ゲームで言う次元湾曲爆弾みたいな物かな? プレイヤーを超圧縮してエネルギーを押さえ込みそのあと絶大な爆発。被弾したプレイヤーと周りの連中を根こそぎ吹飛ばす。おや、るりぃちゃんの顔も絶望に滲んでいるな。
「大丈夫さ。一撃で堕ちる」
「…………」
世移の体がぐにゃりとひしゃげ黒の球体と化していく。そしてさらに歪んだそのあとだ。突然、光を放ち大轟音を上げて吹き飛んだ。僕の仲間も何人か死んだけどあの空力使いの英雄を消したんだから良いさ。
「世移? 世移……」
ただ、彼女は男の名を叫びながら消えていった。何だか畜生道に堕ちた気分だ。最高だぜ?
「…………」
だが、そんな時だった。空間が湾曲しあいつ等が現れたのは。僕は自然と眉間に皺を寄せた。
「あらあらあらあらぁ? 随分と派手なことになってるじゃない?」
「これは世移のチームは壊滅かな? Neuron君のチームと合併?」
一番最初に組まされた猫被り女菫とその相方のド変体ガンナーリノウェイ。僕達が疲弊したときや大きなことを成し遂げて油断しているときに現れる死神どもだ。とうぜん、来る可能性は予想していたけどもうすぐ撤退って時に来るとはね。
「うわぁ、お久し振りですリノゥエイさぁん。一週間前は手引き千切っちゃってゴメンなさい」
「落ち込んでるのは止めさせなかったからだろryukaちゃん?」
灰色の猫目とカールした灰褐色の髪が特徴的な、獣化人間の女装趣味少女ryuka。世移側の勢力だがリーダーや副リーダーが消えても何の精神的影響もないらしい。ある意味怖いね。つーか、リノウェイに挨拶とかイカレてる。まぁ獣野郎だしね。
「獣化いっきまぁす! 猫耳しっぽの超絶少女ryukaちゃんが行くぜぇ!」
「決めましたわリノウェイ、彼女をペットにしましょう」
凄まじいエネルギーを放出しryukaが獣化する。それを見ても二人とも全く驚いた様子はない。当然だ。実力差が激しい。彼女も無策の特攻とは馬鹿な……って、かざやさん!? 貴女も特攻かよ!?
「はぁ、馬鹿女ばっかり。仕方ないなドームズディ」
「馬鹿女って僕!?」
二つ一編はつらいけどさ、その分広範囲だし相乗効果で威力も増すからね。悪いけど二人ともその魂を削れ。そしてこのルールブレイカーどもの命を根絶しろ。かざやさんは手に入れた能力からこれからも役立つと思ったけどこれ最高の誉れじゃねぇ? ってか、変なところで獣娘が反応してるよ! 正直言ってお前だけじゃなくて菫もかざやさんも馬鹿だから気にするな。許せ。
「なっ!? あたしが爆弾になるぅ? いいねいいね最高だねぇ」
『マジですか? 流石は、死すらも愛せる刹那主義者』
急接近していたryukaと彼女の二人は途中で黒の渦に捕まり湾曲し球体に変化していく。怪訝に眉根をひそませるリノウェイたちだが、その重力の渦に巻き込まれて動けない。ちなみに彼等自信にこの技を発動させなかったのは単に僕の実力不足だ。
「リノウェイ?」
「こりゃぁ、猫ゲットところじゃなさそうだな?」
二人の馬鹿馬鹿しい会話を掻き消すように暴君の放つ怒声が彼等を包み込む。かざやとryukaの命を全て昇華させて。爆発による膨大な砂埃がおさまった先には二つの影。リノウェイとあいつは生きているらしい。二人の命が消えたのに。だが、相当のダメージを負ってはいるのも分る。無傷じゃ死んだ二人が可愛そうだからそこは。
「やっやりやがりましたわね! アンタむかしっから空気読めないわよねNeuron! あの地点で死んでれば……」
「なんだろうな。アンタに殺される気はしてたよ」
紙防御で嫌になるね。まぁ、敏捷性は高いから本来ならあんたの攻撃はかわせたんだけどさ? あんたらを倒せるなら良いんじゃないかってさ。別に敵討ちとかじゃなくて、ね? あぁ、菫の言葉に一言。お前に空気読めないとか言われたくない!
「僕にはドームズディしかないよ?」
この技は自分に掛けることも可能だ。グッパイ、ルールブレイカーども! 僕の命の炎に焼かれて死ね。
「菫!? 菫————!」
「ちく……しょう! Neuron!」
全てが炎に包まれていく。僕の炎だ。
あぁ、やっと分った。僕がこの世界に来た意味。
そうだ。僕はこの世界でしか燃えられなかったんだってこと。
「…………」
さよなら世界、ブラックアウト。
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