ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 風プロ パラノイア 〜Ep1〜 2−3執筆中 ( No.38 )
- 日時: 2011/07/19 22:24
- 名前: 風(元:秋空 ◆jU80AwU6/. (ID: COM.pgX6)
Episode1
Stage2「物語の歯車が動き出す……アストラルと言う名の檻へようこそ」Part3
年齢・性別・出身地・身長・体重・趣味・特技と言った現実での情報に続き、ゲーム内での容姿・ゲーム内での性別・髪の色・輪郭・声・身長・体重等の表示欄が示される。 項目が多いことに、面倒そうに博樹は、顔を歪めるのだった。
「まっ、ハーレムのキングになるなら俺は、男じゃ無いとな!」
小さく誰に言うでもなく口ずさみながら少しずつ彼は、項目を埋めて行く。
そして、約五分程で容姿の設定に突入する。
「結構、細けぇなぁ……不知火の奴、こう言うの絶対時間掛かるぜ」
項目にざっと、目を通し彼は、嘆息するように吐き捨てる。 女は好きだが、こう言うことに時間が掛かる所が面倒だ、と……
言いながら、髪の色や目の色など決めやすい所から決めていく。
髪の色は金髪。 長さは、肩に掛からない程度。 目の色は碧眼、誰が見ても笑っているのが分る感じで瞼は二重。
身長は、女性は基本的に長身が好きだからと普段より十㎝程度多角設定してみる。
そして、輪郭、細すぎず太すぎず詰りは普通程度。 体のパーツは、適度に筋肉が有るが付き過ぎではないと言う程度に。
「順調だな……しっかし、俺カッケェ! リアルに居たら博樹様ぁーっとか呼ばれるに違いねぇ! ヒャッハァ!」
順調に進む容姿の構築。 見る見る間に理想に近付いていく画面の中の自分像。
彼は、奇声を浮かべながら見るからに馬鹿そうな笑みを浮かべて妄想に耽る。
その時、机に置いてあった携帯がガタガタと震えだす。 誰からの電話かは、大体分っている。
彼は、電話に出ると先ず、「不知火か?」と一応の確認をする。
「…………後、十二人」
しかし、その予想は、外れた。 聞き慣れない重低音の人間の声とは思えない声。
それは、唯、一言、言うと強引に自分から電話を切った。 瞬間、背筋を何かが通り抜けるような感覚が、襲う。
このゲームに手を出すなと言う警告の様な気がして彼は、一瞬手を止める。
「いや、何でもねぇよな……馬鹿馬鹿しい」
カキコで集まった人数に近い数字だったのが妙に気になったが彼は、疑問を奮い捨て次の設定事項の確認をする。
次は、声に関してだ。 声優で選ぶ形式と直接声を聞きながら選ぶ形式に分割されている様だ。
彼は、声優に詳しいから迷わず声優から選ぼうとする。
女性にもてそうな甘い声の声優のに的を絞り彼は、数十秒迷い自分の声を決定させる。 福山潤と言う人気声優だ。
残るは、ゲーム内での年齢と性別だけだった。
性別は、単純に男。 そして、年齢は、実年齢の十七より一一歳上の十八とした。
年齢の理由は、十八禁と言うワードに関係しているようだ。 欲望に従順な彼らしい決定と言えるだろう。
『また、電話か?』
彼が、全ての項目を埋めると携帯の着メロが、鳴り響いた。 一瞬、あの宛先不明の男の声が、頭の中を過る。
彼は、不信感を顕にしながら恐る恐る携帯の画面を覗く。 祈るような目付きで。
そこには、何時も帰宅途中で一緒になる幼馴染の名前。 彼は、安堵の溜息を漏らし電話に出る。
「おっそいぞぉ! あたしの電話にそんなに出たくないってかぁ?」
気楽な調子の幼馴染の声が、耳に届く。 少し、心が落ち着く。
「あ・た・し・は、減点だぜ不知火? 是から男演じるんだろう?」
先程の不審な電話。 そのことについて彼は、話したいとも思ったが、幼馴染が混乱しそうなので自重する。
取り合えずと言った様子で彼女の一人称が、余りにも男らしくない事を指摘する。
あからさまに慌てふためく彼女の声が、漏れる。
「もっもう! アストラルの中に、入ったら姿が男で声も男なんだから自然に一人称も男になるって!」
恥ずかしそうに弁明する幼馴染の彼女。 何時も、ツンケンとしているがこう言う所は実に可愛らしいと、博樹は思うのだった。
「そんなもんかねぇ」と、冷やかすように彼は、返す。 すると、不知火は、急に黙り込む。
「あのさ……博樹?」
改まった口調に、彼は違和感を覚え何を言うのかと身構える。
「うーん、何でもない! 楽しもうねアストラル!」
何秒かの沈黙の後、彼女の溌剌とした声が響き渡る。 少しの付き合いの人間なら安心するほど自然だ。
しかし、彼には、彼女の心情が手に取る様に分った。 大きな不安を抱えている事を。
恐らくは、彼女の携帯にも似たような言葉が届いたのだろうと彼は、考察する。
だが、彼女は、その不安を抑えて必死でアストラルの世界へと行きたいと訴える。
彼は、其れを止めることが出来なかった。
「あぁ、楽しもうぜアストラル……項目の空欄はねぇか確認したか?」
何事も無かったかのように穏やかな声で彼は、彼女の言葉に応じる。
そして、姉気質で気の強いながら、どこか抜けている自分の幼馴染で有ると同時に親友で有る彼女を気遣う。
彼女は、「大丈夫、何時でもログインできるよ」と、少し間を置くと返信してきた。
安心したように博樹は、「よし!」と言いログインの所にカーソルを動かす。
「覚悟は良いか?」
彼は、自分に言い聞かすように言う。
其れに対して、幼馴染は、いつでもと答えた。
二人は、粗、同時に、ログインのボタンをクリックする。
瞬間、二人の体を慣れない感覚が襲う。 数秒後、見たことも無い世界が眼前に広がる。
「凄い……まるで、現実だよ」
博樹の近くに、彼女は居た。 無論、男の姿だ。
そんな二人の周りには、満天の星空と何処までも続く水平線の見えないような広大な海。
頬撫でる涼しい風に乗って運ばれる磯の香り。 全てが、今までのゲームを超越して居た。
思わず二人は、手をつなぐ。 二人は少し、恥ずかしそうに顔を染めながら交互に、見詰め合う。
「うわっ、博樹、あんた! 金髪碧眼とかベタ過ぎ!」
現実の姿とは、全く違う幼馴染の姿に彼女は、呆然とするばかりだった。
しかし、それは、博樹も同じだ。 否、相手は、性別すら変化しているのだから更に、驚愕しているのが事実だ。
「白い鉢巻とかベタだなぁ、おい! ってか、中性系だから、全然OK!?」
輪郭が少し角ばっていて肌の色が少し焼けている。 目や鼻も心なしか男らしいどっしりとしたパーツになっている。
髪の色や目の色など変わらずとも随分と印象は、変る物だなと当然の事ながら彼は、思案するのだった。
そんな、彼に、彼女は、纏わりつく様に「ねぇねぇ、新撰組に見えるぅ?」等と、気楽極まりない様子で話しかけてくる。
「ねぇねぇ……」
幾ら、容姿が男になっても動きそのものは、まるで女性だ。 そのアンバランスさが、彼の琴線に響く。
身長が頭ひとつ分も差が有るのもポイントだったろうか、彼は、青年武士の姿をした不知火を徐に抱き寄せた。
「おい……あんまり可愛いと……困る」
抱き寄せて耳元で彼は、心底困った口調で言う。
其れに対して、彼女は聖母の様な笑みを浮かべながら唇を動かす。
「……良いよ? ……して良いよ? キス……」
唇を窄め男を惑わすような色っぽい口調で彼女は言い寄る。 博樹は、心拍数が上がっている事を悟る。
男相手に興奮するなんて気色悪いと強く体に言い聞かすが、目の前の武士姿の見た目からすれば男にしか見えない奴の正体を知っている彼には、どうしても現実世界での彼女の本当の姿がチラつく。
こんなに積極的だったか?等と自問自答する。 しかし、誘惑と心の中のビジョンには勝てない。
唇を近づけて行く。 吐息が、喉元に吹きかかる。 確実に吐息が、口の方へと近付いている。
彼女の唇が自らの唇に近づいているのが分る。 鼓動が、激しい。 呼吸が苦しいほどに……
今、最高に興奮している事を彼は、悟りながら唇を近づけていく。
「凡さぁん、トレモロさぁん、ラブラブですねぇ?」
其処に、遅れて現れた他の面子の声が、聞こえてきた。 二人は、慌てて二人の世界から脱却するのだった。
————加速する、物語が、動き出す……加速、加速、加速! 限界を突破した先に有るのは何——————?
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