ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 風プロ パラノイア 〜Ep1〜 2−4執筆中 ( No.46 )
- 日時: 2011/07/31 21:56
- 名前: 風(元:秋空 ◆jU80AwU6/. (ID: COM.pgX6)
Episode1
Stage2「物語の歯車が動き出す……アストラルと言う名の檻へようこそ」Part4
——————揺れる揺れる……青春の塔。 踊る踊る……愛の摩天楼……僕達は、非日常に恋してた————
近付いてくる仲間達。 何故、自分達の名前が分ったのだろうか。 トレモロと呼ばれた青年は、思案する。
例えば、現実の姿を仮に知っていても此処では、当てにならない。 何故なら、キャラクタの姿は、各々で設定する物だからだ。 性別すらも変更が可能なのだから当てにできるはずは無い。
大体、キャラクタの容姿は、ユーザーの理想像となる場合が多い。 今の自分に満足できていると言う人間は多くないだろう。
それに、不特定多数の人間が跋扈するネット上で本当の姿を曝け出すなど馬鹿げた話だ。
二人が直ぐに、分り合えたのは、昔書きあった絵のお陰だろう。
昔のノートに書かれていた理想の自分の姿に二人はそっくりだった。
当時は、凡はトレモロに馬鹿にされたものだ。 性別違うじゃないか……と。
「何故、分った?」
トレモロは、怪訝に眉根を潜め質問する。
彼等の姿を見てもカキコ内で応募した人物達の誰かで有る事が分る程度で、誰が誰だかなど特定は出来ない。
そんな彼らが、カキコ内で応募に応じてくれた人物だと信じるのも実は、名前を知っている事とフランクな態度くらいなものだ。
もしかすると、初心者相手に何らかのコンタクトを望む上段者だったりするかも知れない。
色褪せた表情の右は浅黄、左は黄褐色のオッドアイの相貌が、トレモロを見詰る。
彼と凡は、其れに気付き何故、名前を知ったのか教えて欲しいと目で伝える。
「それについては、私が答えよう。 手を額の上に当てて意識を集中させるとHN及びプロフィールが、見えるらしい」
黒の短髪で右と左で揉み上げの長さが違うアンバランスさが特徴的な地味目な色のガンマン姿の女だ。
彼女は、勘定に欠ける水晶の様な瞳を僅かに揺らし喋り始める。 二人は、成程と納得する。
その様なシステムがゲーム内に有るのは当然の事だ。 其れと同時にまた、疑問が浮上する。
何故、その様な分り辛い本来なら早々やらない仕草をしなければならないプロフィール認識のプロセスを彼女たちは知っているのか。 疑問に思うのは当然だ。 察したのか更に、そのガンマン姿の女は説明を続ける。
「二人とも……ちゃんと、基本操作などの頁は閲覧しましたか? 明記されてましたよ?」
一旦、言葉を切り思案気な表情をしてながら彼女は、更に言葉を続ける。
「最も、親睦を深める会話の短縮につながる気がするとかで不特定多数の人間との触合いを大事にしたいメインユーザーは、組み込むのを反対したとか……道端の私達より明らかに上っぽい人達が言っていましたが?」
どうやら、彼女達は、真面目に基本操作などを見てきたらしい。 トレモロ達は、速くアストラルの世界を実感したいと思いそれらの項目を読まずログインした。
彼女等と合流するのに僅かに時間が、掛かったのはそのためだろう。
実は、あのキス未遂。 唇を接近させるだけの行為だったというのに羞恥心と初心さがこうじて相当な時間が掛かっていた。
体感時間にして正に、十分近くだ。 緊張状態での体感だから本当は、それより短かったのかも知れないが。
「やれやれ……じゃぁ、メインユーザー様の意思に反する事を俺もしようか?」
トレモロは、ガンマンの女に言われたとおり額に手を当て強く念じる。 しかし、その集中力は幼馴染によって解かれた。
「あったしもぉ!」
彼は、直ぐ近くに居る幼馴染をキッと睨む。
「凡……あたしとか私は、女の一人称だぜ?」
少し前に言った指摘を彼は、また、繰り返す。 しかし、今回の言葉には違うニュアンスが含まれているようだ。
彼にとっては、姿が男でも凡は、女にしか見えないのだ。 何せ、現実世界での付き合いは長い。
そう簡単に払拭は出来ない。 責めて一人称位は男らしく有って欲しい。 自分が、目を背け易くするために。
反省する彼女を見て彼は、落ち着きを取り戻しまた、額に手を当てる。
「朔……朱雀! 妖! 焔錠さん! 翡翠……愁、は山下さんか……」
目をやると集中して見た対象のHNと年齢と性別と職業とランクが、頭の中に流れ込んだ。
彼は、成程と一頻り納得する。 其れに対し幼馴染が、彼の袖を引っ張ってくる。
「ねぇねぇ……名前読めなーぃ」
普通の女子の様な喋り方をする彼女に、彼は、頭を抱え「ねぇねぇじゃなくて、なぁなぁ…な?」等と頭を抱えながら言う。
そして、彼女が読めないといった対象に目をやる。
青色の一見優しげだが、少し狂気を孕んだ目に藍色の髪を腰まで伸ばした女だ。
限界まで動き易さを追求した造りの灰色の装束から職業は、暗殺者と目される。
どうやら、HNは涼儀と言う漢字表記だ。 彼は、其れを見てリョウギじゃないかと適当に答える。
「当りでぇっす! 間違えたら殴ってやろうかと思ったのに!」
楽しそうに、凶悪な事を言う暗殺者の女に肩を竦めながら当った事に安堵するトレモロ。
しかし、今度は、違う所からブーイングが巻き起こる。
「アンタ、そいつの漢字は一発で読めて私の漢字が読めないとは、どう言う事だ?」
相手の情報を知るすべを教えてくれたオッドアイのガンマンだ。
彼女が何を怒っているか理解できない彼は、沈黙する。 其れに対して、彼女は怒鳴り声を上げる。
朔の読み方は、“さく”ではなく“もと”だと。 小さい事は気にするなと気さくに話しかける彼は、次の瞬間倒れこんだ。
「名前間違われたの相当嫌だったんですねぇ……」
最初に、トレモロ達の名前を呼んだ少女だ。 情報によればどうやら翡翠らしい。
方に付く程度の茶髪の漆黒の瞳のフリルなどで少しアレンジの入った、陰陽師衣装の娘だ
彼女は、横たわり殴られたのに嬉しそうな、トレモロの殴られた部分を撫でながら憐憫の目を向ける。
「殴られた……女の子。 最高、グーパンチ、愛の香り」
しかし、それは、直ぐに嫌悪の色へと変る。 こんな男に何故、同情しなければならないのだと彼女は、嘆息し立ち上がる。
そして、バツの悪そうな表情をしたまま、彼女は彼から距離をとった。
「凡さん、馬鹿は幼馴染の貴方に引き摺られてギルドに行きたいそうですので宜しくお願いします」
朔に吹き飛ばされた馬鹿な男を何の心配も無く見詰る凡に、翡翠は、彼からの言葉をきつい口調で告げる。
凡は、複雑な表情でどんなにゾンザイに扱われてもこの男は、元が女性なら許すのだろうなと溜息ながらに思う。
仕方ないから幼馴染の情けなく横たわる馬鹿男を連れて行ってやろうと考えトレモロの両足を持つ彼女。
「じゃぁ、そろそろギルドに行こうか……いや、ぜ? っても、ギルドって基本的に目印とかあんの?」
用意は出来たとばかりに、彼女は周りを見回し慣れない口調でギルドに行く事を宣言する。
しかし、案の定、ギルドの手掛かりを知らない様だった。
周りの面々は、一瞬、よろめくが予想通りという事も有り直ぐに体勢を立て直す。
彼女に質問には、朔が答える。 ギルドのマークは、レイピアをクロスさせたマークなのだそうだ。
「そうか」と、短く凡は答え、辺りを見回し松明の炎に照らされるギルドのエンブレムを発見する。
発見し次第、トレモロを勢い良く引き摺りながら走り出した。
『痛い……是が、痛みを感じるゲームか。 男相手だったらマジ切れ確定だな』
この様な状況でも律儀に自分の信念を貫き通すトレモロだった。
しかし、それを受け流すと同時に、逸早く痛みを体験した彼は、危惧を感じていた。
どれ程の痛みを感じても傷つく事の無いシステムは、容易く暴力至上主義者を生み出してしまうのではないかと。
それに伴い、このゲームを楽しむには、実は、倫理観や生死観を強く保つ精神力が必要なのではないかと強烈に感じるのだった。
——————このゲームの趣旨は、全てを手に入れるか一つを手に入れるかだ
その本当の意味を彼等は、是から長い時間を掛けて知ることとなる——————…………
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