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Re: 風プロ パラノイア 〜Ep1〜 2−5執筆中 ( No.51 )
日時: 2011/07/21 22:29
名前: 風(元:秋空  ◆jU80AwU6/. (ID: COM.pgX6)

Episode1

Stage2「物語の歯車が動き出す……アストラルと言う名の檻へようこそ」Part5

「じゃぁ、開けるぞ?」

  レイピアのマークが、目印の地味な印象の木造の建物。 凡は、その扉の前に立ちつ。
  トレモロの両足のせいで両手の塞がった彼女は、言いながらどうやって扉を開けるか思案していた。
  そんな、彼女の横を疾風のように黒いマントが、通り抜ける。 横を向くと紅の長髪の鋭い金色の瞳を持った端正な面持ちの青年。
  先程、情報を調べる事によって名前は、分っている。 焔錠と言う少年だ。
  凡のスレに突き動かされてアストラルをプレイする覚悟が出来たらしいが、足並みを揃える気は無いと明言して居た事を思い出す。

「焔錠君?」

  彼女は、戸惑いながら語りかける。
  其れに対して、彼は睥睨しながら言う。

「もたもたするな。 俺は、気が長くない。 そして、下らない馴れ合いはゴメンだ」

  急かす様に冷たい言葉を浴びせる彼をキャラに成り切っているなと、微笑ましく彼女は思った。  
  一方、引き摺られていたトレモロは、彼に、出番を取られてご執心のようだ。 歯軋りをしている。
  焔錠の手により扉は、開かれる。 
  何の音も立てず扉は静かに開かれるが、分厚い壁によって遮断されていた内部の熱気と声が、突然、皆の体を襲った。

「はっはははははは! どおぉーだ! どうだ、おい! スゲェだろ……ついにあの化物を退治したぜ!」

  自分の武勇伝を豪快に酒を飲みながらノンストップで話す海賊姿の男。

「バニーガールって職業は無いのぉ? あったし、彼の前で兎の尻尾ついたお尻突き出してエッロいダンスしたい気分ー」

  完全に酔い潰れて自制の効かない童顔美女の陰陽師。

「全く、此処の人達は、五月蝿くてなりません。 新人達が怯えているでしょう?」

  酔い痴れる様にこの世界で購入したのであろうチェロを優美に弾く騎士の男。 
  比較的、扉の近くのテーブルに陣取っていた彼は、ギルドの雰囲気に見るからに慣れていない新人らしき面々を見ながら慮る様に言う。 冷静な面持ちと物腰だが、これ程の団体さんは珍しいらしく少々驚いているようだ。 
  雑多な面々が、現実世界では出せない本性を是でもかと出して騒ぎ立てている様は、開放感に溢れていた。

「……えっと、風達を探そうぜ?」

  しばし呆然と突っ立っている面々。 そんな中、一番に口を開いたのは、ジーンズ姿の盗賊少女、玖龍だった。
  腰まで有る黒のポニーテルが特徴的な凛とした顔立ちの少女だ。 声のキーは若干高めで良く響く。
  辺りを見回して少女の言う通り行動しようと矢先だった。 明らかに自分達に向けられた声が、聞こえる。

「あっ、探しましたわよ? そろそろ来る頃だと思って入り口付近で待っていましたの。 
お姉様の名前を出したと言う事は、カキコに来ていらっしゃる方々ですわよね?」

  黒の長髪の緑色を基調とした服装の女が、手招きをしている。
  面々は、彼女の言葉を信じ、彼女の手に誘導されながらあるテーブルへと向かう。

「詩織……風? 皆さん、いらっしゃいましてよ?」
 
  上品な、然し、嬉しそうな声で彼女は、二人の名前を呼ぶ。 彼女の誘導された面々は、彼女をその瞬間、月読愛だと認識した。
  
「よぉ、遅かったな? キス未遂ご苦労さん?」

  半分茶化す様に武士姿の巨乳ロリの野宮が、挨拶する。 心当たりが有るのか赤面する凡とトレモロの二人を見詰ながら彼女は、爽快な笑顔を見せる。
  何で、分るんだ?と怪訝に思ったが、二人は、其処は言及しない事にした。
  それよりも今は、本格的なギルドへの登録をしてゲームを進めたかった。

「所で、風……殿? ギルドへの登録はどうすれば良いのだ?」

  思慮深い面持ちで焔錠が、先駆者に質問を投げかける。

「私をご指名かな? 簡単だよ。左端のカウンター、青いドレスのお姉さんに話し掛ければ、登録の手続きをしてくれるから」

  お酒をチビチビと口に含みながら、風は、軽く左端のカウンターを指差す。
  其れを確認した瞬間、仕方なく足並みを揃えていた彼は、カウンターへと速足で移動し始めた。

「彼、あぁ言う子?」

  風は、協調性の無い青年の背中を見詰ながら呟いた。 
  周りは皆、彼の事を良く知らず素直に分らないと言うしか無い様だった。
  兎に角、皆、ギルド入隊の手続きをしなければならないのは明確なので左端のカウンターへと移動を開始する。

「っにしてもよぉ! 壮観だねぇ風ぇ? 女の子があんなに並んでるよ」

  女好きな野宮詩織は、頬杖をかきながら友人達の後姿を見詰る。
  そんな、彼女の冗談を無視して、月読愛は呟いた。

「それにしてもあの数ですと……チーム登録するには、四分割はしなければならないですわよね?
あの焔錠と言うお方は、足並みを揃えてくれそうに有りませんし……二人だけと言うのは少し寂しそうですわね?」

  唇に人差し指を当てながら思案気な表情で言葉を並べていく彼女。
  どうやら、一組だけ二人のチームが出来る事に対し危惧しているようだ。
  直接遭遇すれば、仲の良い者同士だ。 気軽に会話も出来るだろうが、矢張り、チームを組むと組まないとでは親密度が違う。
  クエストに、一緒に出れると出れないとでは、大きいからだ。
  焔錠と言う男をどうにかすれば良いのだろうが、少し根回しをしただけでは、手を組んでくれそうには無い。
  そんな、悩める彼女を悶々とした表情で風は見据える。

「大丈夫だよぉ? 愛し合うツガイが居るんだもん! キス未遂ぃ! あたしは、愛と二人が良かったし!」
 
  そして、お酒が回ったのか普段は、物静かな彼女がゲラゲラと笑い月読の小さな背中をバンバンと叩く。
  小さく「痛い!」と喚きながら彼女は、風の言葉をストレートに受け止める。
  そして、納得したような表情をする。 三人の中では、風と愛の結び付きが圧倒的に強い性か詩織は、少し遠い位置に居るのだ。
  極端に関係が近しい者同士なら逆に、二人きりの方が良いのでは、と言う結論が出たのだ。

「そう……ですわね。 凡様とトレモロ様ならきっと、幸せですわ」

  感動した様子で愛は頷く。
  それを見ていた詩織は、邪魔者は居ない方が関係が進むって暗喩しているのだろうかと悲観的になるのだった。

「……あっ、焔錠の野郎が、手続き終わらせたみたいだぜ?」

  悲観的な表情で俯きかける彼女の視界に、仲間の輪から早々に離れて一人手続きを済ませた青年の顔が映る。
  もう直ぐ、トレモロ達の番と言うことだ。 彼女達は、彼らを暖かく見守るのだった。

「これは、また、団体さんですね。 最近、多いのは何かの風潮でしょうか?」
  
  左端のカウンター。 初心者用窓口と書かれた板が、上にはぶら下っている。 
  奥を見ると鉄製の金庫がずらりと並び、書物や書類が、大量に有るのが見える。 彼女達の仕事が、少し想像できる感じだ。
  青年達を見て造り物の様な翡翠色の瞳を揺らし雪のように白い肌の表情の抜けた美女が、皮肉をこめた挨拶をする。
  トップバッターである銀髪、細身の黒い忍装束の青年は、紅い瞳を潤ませて盛大に溜息を吐く。

「ひっ酷いなぁ……俺、少し傷付いたよ」

  少し所か本気で傷付いた様子の青年の名前は、山下愁と言う。 野宮詩織の幼馴染だと言う前情報がある。
  そんな、怯えるような瞳の青年を見詰め、彼女は書類を差し出す。

「……失礼しました。 余りに、可愛らしい新人でしたゆえつい。 
私は、貴方方初心者のアドバイザーであり受付嬢を務めるノーヴァと申します。 
疑問な点やご不明な点が有りましたら何なりとお申し付けを……」

  渡された書類の記入欄を生めながら彼は、彼女の言葉を聞く。 そして、ご不明な点と言う言葉に、耳をピク付かせる。

「じゃぁ、スリーサイズをゴベアッ!」

  瞬間、彼は、顔面を殴られ倒れ込んだ。 転がり回りながら彼は、「何でも答えてくれるんじゃないのぉ?」と文句を垂れた。

「限度が有ります。 有る程度のお年ならばモラルを身に着けることを推奨します」

  淡々とした事務的な口調で是が、痛みと言う奴だが、参考になったか等と目で語りながら彼女は、彼の書類を引き取った。 
  彼は、彼女にスリーサイズについての質問をする前に書類の項目を全て埋めていたのだった。

「次の方……此方へ」

  冷淡な口調と慣れない笑顔で彼女は、次に並ぶ者に前に出る事を促す。
  未だに、転がり回る憐れな愁に、次に並んでいた玖龍は、軽蔑の眼差しを一度きり向けカウンターへと進んだ。
  その瞬間だった。

「…………もう直ぐだ。 もう直ぐ、始まる」

  トレモロ達の顔が、途端に強張る。 この声は、電話で聞いた低い声だった。
  今度は、何かを通してではなく直接、頭に語りかけてきている様だった。
  周りを見回すと皆、顔をしかめている。 トレモロは、悟った。 皆、あの声を聞いているのだと言う事を……

「次、早くしましょう?」

  ノーヴァが、怒気の篭った声で戸惑う玖龍に促す。 
  言葉遣いは丁寧だが、その言葉には、拒否権を否定するかのような脅迫染みてたものがあった。
  その瞬間、扉は鎖された。 ログアウトしようとした人間が、ログアウトできない姿が、その瞬間、目に映る。
  ギルド内では、ログアウト出来ない等と言うルールは無い筈だ。 風達も異常に気付き驚愕しているようだった。
  焦燥感と恐怖が、玖龍を動かす。
  従うしかない。
  そんな、現状を見てトレモロは思った。 全力で凡を説得してこのゲームをさせるのを阻止するべきだったと。

「最早、逃げられないのです」

淡々とした受付嬢の声が、胸に響く。 心の深淵へと侵食していく。


                   今更、遅いのだ……何事も気付いた時にはもう、遅い。 それが、運命だ——————


⇒Part6へ 
                       


〜言い訳〜
所々、おかしな文章がありますが、後々の複線として受け入れてやってください(汗