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Re: 風プロ パラノイア 〜Ep1〜 1ー2 執筆中 ( No.6 )
日時: 2011/07/21 22:24
名前: 風(元:秋空  ◆jU80AwU6/. (ID: COM.pgX6)

Episode1

Stage1「痛みを感じ感触が有り涙が本当に出ている感覚になるのが、このゲームだ」Part2

              アストラル……そこにあるは、想像の限界——————……


  ザザァッと言う波が押しよせては引いていく音。
  そして、吹き抜けていく適度に、涼しい風。 商人達や通行人の活気に溢れた声。
  自らの体を優しく包み込む太陽の光。 ゲームとは思えない圧倒的な感覚が有る。 しかし、それは現実ではない。 
  ユーザーの意思がゲームの世界の中に入り込んだのだ。 多くの人間が一度や二度、夢に見たことが有るだろう。
  だが、今まで夢で終ってきた。 画面からは、人の温もりや香り、手を触れ合う感触は、感じられなかった。
  このゲームは違う。 そう、オンラインゲームは進化し続けてきた。 
  リアルタイムで人々と付き合い言葉を重ねあうことが出来る。 しかし、今だ、リアルな表情を感じる事やその世界の物の香りや感触を確かめるには至れなかった。 人間は、巨大な欲求の塊だ。 有る一定以上に至り満足しても何れ次を求める。
  多くの今迄のゲームの限界に空腹を覚えていた人間たちが、アストラルの魅力の虜となった。

  痛み……本当の人間の様な筋の動き。 どんな台詞を言っても全てに肉声が加えられる驚き。 
  地に足を付けて歩いているという実感。 
  物の感触や温もり、そして、匂いを感じられるこの世界。
  それは、今までになかった現実と遜色のない圧倒的リアル。
  皆が、酔い痴れるのも頷ける。

「それにしても、我ながら此方の世界の私は格好良いなぁー」
  
  彼女は、気楽な口調で目を開けて周りを見回してから言う。 まるで、現実の世界の歴史の教科書に出てくる海賊の様な風貌だ。 
  身長も十数センチ縮み目の色は青となり勝気な表情だ。 現実とゲームの中では、姿が変化するのだ。  
  この世界はユーザー達の意思は投影されるが姿や声、身長や体重は変更する事が出来る。
  現実世界の性ではない性になり、その性差を実感する事すらできる。
  アルカトラズには、職業がありプレーヤー達は、夫々、最初に好きな職業を選ぶ。
  忍者・武士・騎士・魔法使い・陰陽師・暗殺者・ガンマン……そして、今、正に目の前に居る女、国枝円が、選んだ職業、海賊である。 尚、開発者の話によれば、今後のアップデートにより新たなる職業の登場も有るとのことだ。 
  まだ、若い作品だ。 ファン達の間では、是からの進化も注目点とされている。
    
  一方でこの現在化科学の限界を軽々と超えた技術の粋に、今、世界は、多くの危惧を見せている。
  当然だ。 現在科学の何十年いや、或いは何百年先を行った技術なのだから。 
  このアルカトラズと言うオンラインゲームは、東日本大震災二週間後に開設された。
  世界の関係者達の間では、その大震災が、ゲームの開発に関連しているのではないかと言う推測が絶えない。
  しかし、どの様に関連しているのかは、今の所、皆目見当がついていないのが現実だ。 
  当然といえるだろう。 今の技術の限界を突出した技術なのだから。
  
「あっ、風さんじゃ無いですか? こんな時間に珍しいね?」
「あっ、リノウェイさん! 何時もお世話になっています。 今日は、非番ですか?」

  しばらくの間、ログインしたは良いが、何をすれば良いかと問答していると後ろから男性の声が聞こえてきた。
  風と呼ばれ国枝は、自分の事だと理解し振り向く。 ゲーム内では、無論、本名を使っている者は少ない。
  大概が、他のネットゲームや掲示板などのようにハンドルネームと言う偽名だ。 リノウェイもHNなのは言うまでもない。
そして、目の前に居るポンチョを羽織りテンガロンハットを被った、焦げ茶色の癖毛の長身痩躯の美青年に挨拶をする。
  リノウェイと呼ばれた男は、彼女の言葉に何やら後ろめたそうな表情を浮べ帽子の上から頭を掻いた。 
  その様子を見て「やれやれ」と察したように彼女はぼやく。 青年もそれに釣られてケラケラと笑う。

「ご一緒しませんか?」
「あぁ……君を誘いたいから声を掛けたんだから……喜んで!」

  彼とは、何度か一緒した事が有る。 それなりに優しくて適度に頼りになる良い男だと認識している。
  彼女は、自分から誘う振りをして彼の勧誘に乗るという意思表示をする。
  すると彼は、茶色のグローブを嵌めた右手を彼女にむけ悪手を求めてくる。
  風は、少し照れ臭そうに彼の手を握った。



     感触が伝わる……握られている感触が……温度が、まるでリアルのように————……


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